第二十三話 直接依頼
指導の最終日。
マスクを取り逃がした昨日のことは忘れて、精一杯指導しました。
なんといっても最終日ですからね。
「本当に今までお世話になりました」
ギルベルトさんからも、門弟の皆さんからも、お礼を言われ。
なんか、しんみりした気分になってくるな。
寂しい・・・ような。
「これからも、よかったら顔を出してください。指導はもちろん、自分の鍛錬にも利用してくだされば」
なので、この一言は嬉しかったね。
喜んで伺います。
指導も・・・やりますよ。
ということで、お役御免。
やっと日常が戻ってきた感じだね。
夕方の時間を自由に使えるし、時間のかかる依頼を受けることもできる。
道場には好きな時に顔を出せばいいし、気楽になったよ。
今の俺の生活は道場に行く前の生活とほぼ同じ。
違いといえば、たまに道場に顔を出すくらいかな。
マスクにも、あれから遭っていない。
そして、今日もいつも通り。
朝からの鍛錬を終え、依頼を探そうと行きつけの商館に入ろうとしていた時。
ライナスさんのお使いの方に声をかけられました。
珍しい、初めてのことだよね。
何だろう?
良い知らせなのかな、悪い知らせなのかな、ちょっとドキドキ。
「ハヤト様に店の方に来ていただけないかと主が申しております」
執事さんっぽい人だな。
ライナスさんもそうだけど、14歳の俺に対して丁寧だよね。
「それは、今からですか? それとも夜でも?」
今から仕事なんだけどなぁ。
「なるべく早く来ていただけると、ありがたいのですが・・・」
なるべくかぁ。
早く行った方がいいんだろうね。
「分かりました。今から伺いましょう」
ということで、その方と一緒にライナスさんの店に行くことになりました。
早く終われば、簡単な依頼くらいは受けられるよね。
いくら余裕があるといっても、働ける日にはしっかり働いて稼いでおきたいもんです。
これ、異世界一人暮らしの鉄則。
「あぁ、ハヤト様!?」
おっ、ミュリエルさん今日は店先に出ている。
「ミュリエルさん、こんにちは」
「いらっしゃいませ、ハヤト様」
随分と店員さんらしくなってきた。
ライナスさんの店には頻繁に日用品を買いに来ているので、ミュリエルさんとも結構な頻度で顔を合わしている。
というか、俺が来ない日が続くと、ミュリエルさんが俺の宿までやって来るんだよね。
「もう随分とお見かけしないのですが、何かありましたでしょうか?」
などと手土産持参で。
いや、数日行かなかっただけですから。
随分じゃないですよね。
なんて言っても。
「以前のこともありますので・・・。何かあったのかと思いまして」
うーん・・・。
そりゃあね、ありがたいですよ。
心配していただいて。
しかも、こんな美人さんに心配顔で話されて。
でもさ、気を遣いますって。
ということで、なるべくライナスさんの店には顔を出すようにしています。
ほとんどが仕事終わりの夕方以降なんですけどね。
こんな早い時間に訪れるのは珍しいかな。
「今日は店番されているのですね」
「はい。おかげで、こうしてハヤト様に会えました」
「・・・」
凄い笑顔なんだよなぁ。
もう、ホント、ありがとうございます・・・。
さてと。
「ライナスさんは奥ですかね?」
「はい、奥におられます」
聞かなくてもいるんでしょうけど。
呼ばれて来たわけだし、横に執事風の方もいるし。
しかし、この人。ホント執事っぽいよね。
俺がミュリエルさんと話している横で、気配を消して待ってるんだから。
本物の執事さんかな?
いやぁ、ライナスさんの店に執事は必要ないでしょ。
番頭さんって感じなのかな。
「では、ハヤト様、主が奥で待っています。御一緒ください」
ミュリエルさんの笑顔に見送られ、一緒に店の奥へ行くと。
「お待ちしていました」
ライナスさん、本当に待ち遠しかったって顔してるよ。
珍しく急いでるよね。
何の用だろ?
いい話ならいいな。
「実はお願いがございまして」
「はぁ」
お願い?
「お願いというか、仕事の依頼になるのですが」
なんだぁ、仕事か。
「戦場の視察に行っていただきたいのです」
「はい?」
戦場の視察?
俺が?
どうして?
「厳密には、戦場視察のための護衛を依頼したいと」
「・・・よく解らないのですが?」
「ハヤトさん、この町がこのような自治都市として存在できている理由は何だと思いますか?」
話が見えない。
というか、話変わってるよね。
まあ、この都市の防衛については聞いているけど。
「城壁などの防備設備の充実によるところが大きいのではないですか?」
「もちろん、それは大きな要因です。短期戦においては、それのみでも可能かもしれません」
これだけの防備、数日で落とせるものではないですよね。
「しかし、考えてみて下さい。いくら強固な防衛力を誇っていても、所詮は一都市国家に過ぎません。もし大戦力で包囲されたら、長期に渡って守りきれると思いますか?」
それは無理かもしれない。
うん、無理だろうな。
「確かに」
「では、何をもって自治を守ってきたのか」
「・・・」
「金と根回し・・・。裏工作です」
うわぁ、そうきたかぁ。
嫌な現実を見る思いだね。
世界が変わろうとも、国が違おうとも、所詮はそれですか。
まあ、良く解るけど。
「納得できる話ではあります」
「自治商業都市であるレントです。金は何とかなります。では、あと必要なのは・・・情報です。情報が何より重要になってきます」
「そうですね」
「迅速で正確な情報。その入手を可能とするのが、レントの情報機関です」
おぉ、こんな中世風世界でも諜報機関があるんですね。
CIAみたいな。
侮れないなぁ。
「なるほど、情報収集のための護衛任務というわけですか?」
うん、スパイの護衛ってやつか。
格好いいね。
自信は無いけど。
「さすが、ハヤトさん。お察しが良い」
いや、一応これでも25歳なので、そこまで話してもらえたら分かりますって。
どうやらレントでは、相当に情報収集に力を入れているらしい。
情報機関に所属する情報員もかなりのエリートで、相当な能力が必要とされるそうだ。
中には、引退後、レント行政を指揮する評議員になる者も少なくないと。
評議員とはレントを運営している最高行政府の委員のことらしいです。
世界中の都市、町を駆け回り日夜情報収集に励んでいる、そんなエリート情報員達が重要と判断した案件については即中央に指示を仰ぎ、必要に応じてレントから上席情報分析官が派遣され実地検分に当たるという。
今回俺が依頼された仕事というのが、この上席分析官を護衛すること。
大陸東方にあるローレンシアとアルザザの2国は、それぞれ亜人差別、人間差別の傾向がある国で、その主義の違いからたびたび対立してきた。ローレンシアは、隣接する国家フォルナークとの仲がそれ以上に険悪だったので、フォルナーク存在時はそれ程アルザザとの武力衝突も無かったそうだが、フォルナークが滅亡した今はアルザザとの衝突にも躊躇が無いらしい。
今回もその衝突の一つ。
ローレンシアの南部、アルザザからは北方に存在するエスピナ砦で緊張感が高まりつつあり、ここ数日中にも武力衝突に至るのではないかと見られている。
エスピナ砦は長年ローレンシアが保有してきた砦で、アルザザ国境付近にあるのだが、国境付近に存在する他の砦に比べると存在価値は低く、今まで武力衝突に至ったことは無いらしい。それが、今回はどういうわけか、アルザザ側が砦近くに兵を集め、またローレンシア側もそれに対抗していると。
今までに無かったことでもあるので、何か裏があるのではないか?
両国の思惑を調べ、かつ両国の戦力の状況を視察するというのが今回の目的らしい。
「最近は戦争など無いと言ってませんでした?」
ここ数年は平和だと聞いていたような。
「それはレントを含む大陸西方の話ですよ。この辺りでは、戦争など起こってませんからね」
ということは、東では普通に戦争が起こっているということか。
「そういう事でしたか。でも、今回はなぜ僕に依頼を?」
S級の冒険者たちに依頼すればいいでしょ。
うん?
そもそも、冒険者ではなくレントが保有する兵士に任せればいいのでは?
「ハヤトさんの腕を見込んでのことです」
自信たっぷりに答えちゃって。
反論しにくいわ。
「買い被りですよ」
「謙遜されるのは分かりますが、私の知る限り、このレントにハヤトさん以上の技量を持った冒険者はいません」
そこまで見込まれましたか。
うーん、困ったなぁ。
確かに、最近自信も出てきてはいるけど。
「それは言いすぎです」
ライナスさんは笑顔・・・。
「実は私の親しい友人が情報分析官をしておりまして、その者にハヤトさんの話をしたところ是非ともと請われまして」
腕の話はスルーですか。
俺が強いのは確定だとでも。
まあ、ライナスさんの目の前で叡竜倒してるしね。
魔法も虎徹を使った剣術も見せてるし。
強いと思われても仕方ない面はある。
うん?
ちょっと待てよ。
俺のこと話したってことだよね。
軽くとはいえ、一応口止めしたのに・・・。
「もちろん、詳しくは話しておりません。門兵に話した程度も伝えていませんから」
まあ、門兵が知ってる以上でなければいいか。
ある程度は覚悟してるし。
とはいえ、誰もその件について話しかけてこないな?
ばれてないのかな。
それなら、ありがたい。
「レントにハヤトさん以上の者がいないと私が思っているのも事実ですが、それ以上にその友人がハヤトさんに興味を持ってしまったようなのです」
そんなに興味を持つって。
本当のところ、どこまで話したんだろ?
「ですが、僕には経験が足りません」
「叡竜との闘いぶり、その状況判断、その後の振る舞い。どれをとっても、経験以上のものがあると私は確信しております」
また、言い切っちゃって・・・。
「それに、この話はハヤトさんにとっても悪い話ではありません。報酬はかなりのものになりますし、先ほど言われた経験という点でも、冒険者にとってはこれ以上無いものだと思われます」
得難い経験。
確かに、それは俺も思ってたんだよね。
それに、相当な報酬か。
いくらだろ?
もしかして5000セルクとか?
・・・魅力的かも。
「もう一つ。その友人、名前をランスアールというのですが、この者とは知り合っておいて損は無いと思いますよ。ちょっと変わった人物ですが」
この世界でも知人は大切だよね。
できる人となれば尚更か。
外堀は埋まりまくりだなぁ。
というか、受ける気になってるよ、俺。
でも、その前に一つ懸案事項が。
「ライナスさんの言われることは良く解りました。ですが、一つ気になることが」
「何でしょうか?」
「視察期間はどれくらいかかるのでしょうか?」
そうなんですよ。
大陸東方でしょ。
行って、視察して、帰って来て。
一体どれくらいの時間がかかるのやら。
さすがに長期は無理だ。
鍛錬にも支障をきたすしね。
「長くても1週間程度で済むと思いますが」
1週間?
どうやって行くの?
そんなに近いの?
「今回はレント情報部直の重要任務ですから、往復の転移石はもちろん用意されています。ですから、拘束時間はあちらでの滞在期間のみ。今の緊張状態から察して、1週間以内には戦闘になると判断しているようですので、ハヤトさんも1週間程度でレントに帰って来れるのではないでしょうか」
転移石?
あれか。
瞬間移動、ワープできるってやつ。
この世界にはそんな物まであったのか!?
興奮するねぇ。
もう、受けちゃいますよ。
金と経験とワープ、冒険者のため・・・。
問題はないよね?
辻斬りは・・・。
最近遭ってないし、まあ仕方ないか。
こちらから探せるものでもないしね。
うん、問題なし。
よし、やってみよう!!




