第二十二話 辻斬り
道場の帰り。
背後から、いきなりの襲撃。
びびったぁ~。
剣気に気付かなかったら、やられてたね。
剣気察知による危険回避。
前世で師匠に散々やられたからなぁ・・・不意打ち。
おかげで、なんとか察知できたよ。
というか、はじめて役立ったね。
しかし、大怪我するところだ。
打ち所が悪かったら死んでたかも。
さてと。
襲撃剣士。
痩身ながらも只者でないのは判る。
しかし・・・。
驚いたのはその顔。
なんと!
マスクを被ってました。
「・・・」
仮面の剣客なんて、今時流行らないよ。
うん?
この世界では流行ってるの?
とはいえ、かなりの腕前。
正眼に構えた剣先がそれを物語っている。
手には木剣。
木剣ということは、殺す気はないということだね。
それにしては、さっきの剣気は凄まじかったな。
ギルベルトさんに貰った木剣を次元袋から取り出し、俺も中段、正眼に構える。
この世界に来てから、こんな剣気を発する相手に対したのは初めてだ。
おもしろい!
けど、まずは。
「僕はハヤトという者です」
「・・・」
「襲われる覚えはないのですが、勘違いでは?」
「・・・」
変わらぬ剣気。
こちらに覚えは無いけれど、そちらにはあると。
間違っていないということだね。
ならばよし。
とりあえず、様子を見ようか。
どう動く?
じりじりと時間が過ぎる。
俺から動く気はない。
かなりの腕前だと分かるが、負ける気はしないかな。
技量だけならまだしも。
今の俺の身体には、並々ならぬ速さと力が備わっている。
負けることは、まずないはず。
さて、どんな剣術を使うのか。
一見の価値ありだ。
対峙する時間に耐え切れなかったのか、マスクが木剣を上げ上段に構える。
溢れ出る殺気。
殺気!?
瞬間、跳躍したマスクが上段から強烈な一撃を打ち込んでくる。
「えい!」
裂帛の気合を込めて打ち込まれた一撃。
半歩下がってそれを避ける。
剣先が鼻先をかすめる。
おぉー、凄い。
使っているのは同じ木剣。
正眼の構えから判断すると、同規格だな。
ならば、間合いはつかめる。
てらいの無い一撃。
強烈だが、今の俺にとって避けるのが難しい一撃ではない。
渾身の一撃を避けられたマスクは右に一歩跳び退いている。
俺は木剣を下段から右に動かし、右脇下に構える。
誘ってやる。
もう一度打ってこい。
マスクは再び上段に構え、踏み込んで一撃。
さっきより気負っている。
今度は避けることなく、下から振り上げた木剣で相手の勢いを削ぐようにいなす。
そのまま、木剣を返しマスクの肩に軽く一撃を見舞う・・・。
避けたよ!?
俺の木剣はマスクの肩先をかすめただけ。
やるなぁ。
楽しくなってきたぞ。
さて、次はどうしてやろうか。
とりあえず、正眼に構えてと。
再び対峙するかと思った次の瞬間。
後ろに跳躍。
踵を返して、走り去っていった。
すごい速度で。
・・・。
えっ?
逃げたの?
思わず見送ってしまいました。
しっかし、なかなかの腕前だったな、あのマスク剣士。
逃げ足も並じゃない。
追いかければ、追いつけないことも無いかもしれない。
第三区のこの辺りは小路が入り組んでいて、脇道に入るとすぐに迷ってしまう。
土地勘の無い俺にはキツイ。
やっぱり無理だね。
うーん、逃がして良かったのかな。
いくら木剣で殺意が無かったとはいえ、マスクで襲ってきたからなぁ。
誰が何の目的だよ。
襲われる覚えは無いし・・・。
捕まえて正体を暴けば良かった。
これって、通り魔なのか?
辻斬りとか?
木剣でも辻斬りって言うのかな?
・・・。
翌日、入用の物を買いにライナスさんの店に出かけたついでに、マスク剣士の話をすると。
「それは、おそらく・・・今巷でひそかに話題の辻斬りかもしれませんね」
おぉ、辻斬りと翻訳された!
やっぱり、辻斬りなんだ。
なんか、この語感にちょっと感動する。
その辻斬り、レントにいる腕自慢の者ばかりを選んで襲っているとのこと。襲われた方も、木剣による攻撃のため治癒魔法で回復可能な程度の怪我ですんでいるからか、それとも自分の負けを喧伝したくないためか。とにかく黙秘を決め込むことが多いそうだ。
そのため、被害の報告も正式にはなされず、マスク剣士は犯罪者として追われてもいない。
微妙な話だね。
犯罪者じゃないなら、逃がしても良かったといえるけど。
まあ、今度遭ったら捕まえましょ。
それにしても、なぜ俺が狙われたのかが解らない。
別に有名人でもないし。
ちなみに、俺とライナスさんの話を途中から聞いていたミュリエルさん。
「いきなり背後から襲われるなんて・・・。無事で良かったです」
涙ぐんでたな。
心配させたみたいだ。
「ハヤト様に何かあったら、私・・・」
なに?
私何なのですか?
・・・。
なんか俺に対する思い入れ凄くないか。
ミュリエルさんに、そこまで思って貰えるような事をした覚えは無いんだけど。
嬉しいんだけど・・・、申し訳ない気もするよ。
かと思えば。
ミュリエルさん、涙ぐんだあとで。
「ハヤト様に挑むなんて100年早いんです。今度はやっつけてください!」
すごい剣幕。
・・・。
翌日からは、また普段通りの生活。
鍛錬、依頼遂行、道場で指導、この繰り返し。
こなす依頼の質は落ち、量も減ったけど、今のところ金銭的には問題なさそう。
ギルベルトさんが回復するのもそう遠くないだろうから大丈夫だ。
金銭的なことで言うと、いつまでもこの宿に留まるのはどうかと考えたりもする。
自分の家を買うことはできなくても、部屋くらいは借りた方がいいのかな。
とはいえ、この先ずっとレントに住むと決めたわけでもないし・・・。
とりあえずは、もうしばらくこの宿に居ることにしようかな。
時間が空いた時には、両性具有の手掛かりを探すべく書物をあさったりもしています。
この世界では紙は貴重だから、本などというものは簡単に手に入れることはできない。今の俺にできる事といえば、借りて読むくらいだ。
レントでそれができるのは、中央図書館。
行ってみたんだけど、図書館とは名ばかりのものでした。
第一地区にある建物の一室だけでしたから。
大学どころか、高校の図書室よりも小さいくらいかな。
そこで、閲覧可能な書物を調べているんだけど、今のところ手掛かりなし。
もちろん、まだまだ読んでいない書物は多いけど・・・。
まあ、そんなに甘くないよね。
ところで。
ギルベルトさんの腰痛。
実は、俺の治癒魔法で治療を続けていたんです。
腰痛というと、いくつか原因が考えられる。
そもそも治癒魔法とは再生の術法みたいだから、椎間板の変形、軟骨の突出が腰痛の原因だった場合には効果があるのか判らない。
なんて思っていたんだけど、試してみたら・・・。
「少し楽になったみたいです」
怪我の治療のような劇的な効果は無かったけれど、確実に効果はあるみたいです。
小効果だけど続けていけば、なんとかなる手応えがあるね。
ということで、継続して治療。
大分良くなってきました。
しかし、治癒魔法って優れものだよなぁ。
治癒魔法2はもっと凄いんだろうか?
早く覚えたいかも。
そして、明日は道場での指導最終日。
ギルベルトさんの腰痛もほぼ治ってきたので、これからは自分一人でも指導できるそうです。
今日と明日の指導で俺の仕事は終了。
「本当に色々とお世話になりました。道場での指導ばかりか、腰痛の治療までしてもらって・・・。なんとお礼を言えば良いか」
まだ、明日が残っていますよ。
「あまり気にしないで下さい。たまたま上手くいっただけですから」
「いえ。少ない給金なのに、申し訳ないです」
確かに、給料は少ないですね。
「その代わりといっては何ですが、これを受け取ってもらえませんか」
差し出されたのは、一振りの大剣。
西洋風の両刃の剣だ。
西洋の剣のことは良く判らないけど、悪くなさそうだ。
「このようなものを・・・、いいのですか?」
「古い剣ですが、良かったら受け取って下さい」
ありがたい。
虎徹はあまり使いたくないし、とは言っても短剣だけでは心許無い。
剣を買おうと思っていたところなんだよな。
ありがたく頂戴することにしました。
その帰り道。
再び辻斬りと遭遇。
またまた、背後に剣気を感じて飛び退くと。
今度は木剣を投げつけられてましたよ。
二度目だから最初ほど驚かないけど。
それにしても、背後からの突然の攻撃にマスク姿。
・・・。
今日は捕まえてやろう。
ということで、木剣を取り出し相対する。
マスクももう一振りの木剣を手に正眼に構える。
そこから上段に移行し、俺の頭に向かって振り下ろす。
今回はすぐに攻撃してきた。
しかも、前回同様の攻撃。
工夫は無いのか?
と思ったんだけど。
剣先が俺の頬をかすり・・・。
一筋の血が流れ落ちる。
おぉ!
避けきれなかった!
剣先が伸びてきたよ。
ホント、やるなぁ。
やっぱり楽しい。
すぐに捕まえようと思っていたんだけど、仕合を楽しんでしまう。
数合の打ち合い。
本当に面白い。
剣先が伸びたり、左右に変化したり。
ギリギリの間合いで避けるのが難しいくらいだ。
とはいえ、技巧を凝らしているせいか、前回よりは剣勢が無い。
木剣でいなすのは簡単だ。
潮時だな。
相手の木剣をこすり上げ、軽く横薙ぎ。
それを避け、後ろに跳躍するマスク。
今回は逃さない。
すぐさま、俺も追いかける。
が、・・・。
突然、目の前が真っ白に・・・。
何?
・・・。
煙幕でした。
後方に跳躍するやいなや煙幕を投げつけ視界を奪う・・・。
忍者かよ!
しかし、まあ・・・。
お見事だね。
また、逃げられちゃったよ。




