連れて行きたくない
お嬢様の愛人の南西蛮族が今年の予定について相談していた。今年のラブパレードには参加しない。子供たちも連れていかない。それを聞いたお嬢様は——長年の付き合いでお嬢様にその相談を聞き入れるつもりがないのは分かった——「どうして?」と尋ねた。お嬢様の愛人は、ダトベやギュキヒスの人間がする暴言から子供達を守るためだと言った。僕が何か言われるのは我慢できるけど、子供がそれで傷付くのは我慢できない。
お嬢様はリビングの長椅子に横になってその言葉をゆっくりと受け止めていた。
今のリビングには子供は1人もいない。みんな3階か山の下の宮殿にいる。大学の中のこの部屋にいるのは夕食を終えたお嬢様と愛人とあとはメイドの私だけだった。
お嬢様は言った。「そんなに暴言がひどいの?」
「ひどいね。何人かは懲らしめたけど、次から次に現れる。君に聞こえないところでやるのが腐ってる」彼は私を見た。「君も何回かは聞いただろう?」
私は肯定も否定もしなかった。しかしその態度でお嬢様は答えを察する。
陰口を言われるのは仕方がないことだ。
お嬢様はギュキヒス家の人間で、色黒とはいえ北方民族の典型的な容姿をしている。薄紫の目を除いては。それが南西蛮族の黒い肌と黒い縮れ髪、それに細い顎のラインといった輪郭や目や鼻のなんとも説明はできないが異民族然とした特徴との混血の私生児を連れ回していたら、気持ち悪いとか奴隷みたいだとかとても子供に聞かせられないような暴言を浴びせる人間は出てくる。誇りを傷つけられた南西蛮族の愛人がそんな人間の1人や2人を殺したところでいなくなることはない。
理性的なことに、この愛人は自分が何か言われることに関しては無抵抗を保てる。だが小さい自分の子供への暴言には自制が効かない。たとえ蛮族と言われて偏見を増長させたとしてもそこを譲るつもりはないようだった。
お嬢様は愛人の顔をじっと見たあとで両手を広げて迎え入れる姿勢になった。長椅子に横になったままだ。「おいで」
愛人は招かれるままにお嬢様に近づき、触れながら、「それでも連れていくかい?」と聞いた。彼もお嬢様が、その提案を受け入れるつもりが無いのは分かっているようだった。
お嬢様は愛人をハグしながら言った。「どんなに避けても言われることになる。それよりも大事なのはこの大陸がもっとグチャグチャに交流することだ。みんなが慣れてしまえばそんなことはどうでもよくなる」
「それは分かってるよ」彼もお嬢様の体に手を這わせながら言う。「けど子供たちがその矢面に立つ必要はなくない?」彼はそう言いながらお嬢様の鎖骨にキスをした。
「今も少しずつブユ族が北に移動しているし、ネラサウズ族も南に移動している。リザードマンも少しずつ交流するようになった」お嬢様は愛人の足に自分の足を絡めた。相変わらずエロい動きだ。「あと5年もすれば普通になる」
「5年後でも交流が広がらなかったら、今度こそ子供は不参加でいい?」愛人も興奮しているくせになかなか頑固だ。
「それはちょっと約束できないな」
「自分の子供を守ろうっていう気はないの?」愛人はお嬢様を責める口調になった。
「ネゾ君が子供を守りたいっていう気持ちは分かるよ。それに、敵を殺してもきりがないっていう理解も正しい」
「けど、子供が傷つくと分かってても連れていくつもりなんだね?」
「私たちが子供たちにできることは、あなたたちは悪くないって言い続けることだと思わない?」
「けど、大人に無遠慮に酷い言葉をぶつけられてショックを受けるのを見るのはたまらないよ」彼は心配そうな声を出した。「あんな風に傷つけられるべきじゃない」




