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プロローグ

 耳が外の気温によって痛くなっている。そこにイヤホンを付けて、音量ほとんどマックスで流すのは『ガーシュイン:ラプソディ・イン・ブルー』。クラリネットが、一九二〇年代を彷彿とさせる汽車のように、ジャズとオーケストラが見事に合わさった軽快なメロディーが、僕の足音と共に演奏される。

 僕は緊張していた。これから行われるのはバイトの面接。もう二度とバイトなんてしたくないと思っていたのに、お金が無くなってしまった。でも、音楽があれば気分は上々。この楽し気な雰囲気に身を任せて、笑顔で面接を終えることができれば良い。外に出るまでは、何度も何度もトイレに行っていたが、今の僕には関係ない。

 音楽があれば、僕はどうにでもなれる。気がする。


 スキップのような足踏みをして、歩道を進む。ピアノの余韻と、激しい旋律が交互にやってきて、僕のことを揺さぶってくる。頭を左右に揺らして、気分は指揮者のようだ。

 我を忘れて歩く。ここは日本で、皆が冷たい顔をして歩いている。僕だけが、どこか楽しそうに歩いて、周りの視線を奪っていく。素面でやれば変人扱いだが、ことこの曲の世界においては僕は主役になる。

 空には雲一つなく、青い。冷たい空気すらも、音の鋭さを助長している気がする。ピアノのパートは、かなり好きだ。しっとりとした旋律なのに、どこか楽しそうに、時に悲劇的に、また軽く演奏して、揺れる。足も同時にふらつく。

 ピアノの音が上がる。絶対音感なんて持っていないから、音は分からないけど、とりあえず音が上がっていく。笑顔を絶やさずに、僕の一番好きなパート……


——ファアアアアアン!!!


 イヤホン越しに、聞いたことのない音が混ざってくる。ハッと目を開けて、今自分がどこにいるのか確認する。ここは、横断歩道。信号は、赤。横から、トラック。

 一番好きなパートが、バァンと鳴り響いて、僕はその衝撃に吹っ飛ばされる。見えるのは、青い空。ブルー。その中に僕はいる。

 まさに、ラプソディ・イン・ブルー。僕はその中に飲み込まれて行く。


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