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「ねね」ちゃん  作者: きゃんぷ3
苦い思い出1
20/24

神社✖️喧嘩✖️回想

そんなこんなで…俺と兄貴は、車内でも「無言」だった。

車の中には重苦しい空気が漂っている。

ああ…もう…マジでっ…早く、帰りてえっ!!

俺は心の中でそう呟きながら、車のハンドルを握っていた。

そうしている内に、当然だが旅行の目的地「いろは神社」に到着した。

『リアルいろは神社』を、俺もスマホやPCで見たことはある。

だけど、肉眼で見る実物の『リアルいろは神社』は…鳥居の部分だけではあるが…何とも言えない雰囲気を醸し出していた。

兄貴が『ねねちゃん』を抱きしめながら、廃れた鳥居をくぐる。

兄貴が数歩、歩いた所で俺を振り返った。

「…二郎、来ないの?」

不安そうな表情で、兄貴が俺に尋ねた。

鳥居や参道にはみ出す木々や草を見ながら、俺は兄貴に言った。

「…俺はここで待っている」

俺の言葉を聞くや否や…兄貴は、泣きそうな表情を見せた。

「そんな…こわいよ、二郎…一緒に来てよっ」

子供の様な駄々を見せ始めた兄貴に…俺はドン引きしながら言い放つ。

「俺自身が、いろは神社に行きたかった訳じゃねーし。」

「二郎だって…「ねねちゃん」好きじゃないか!…だから行きたいか行きなく無いかで言えば…行きたい方だろ?!」

妙な形の責任転嫁的な感じだな…俺はそう思いながらも呆れて言った。

「好きじゃない。」

俺は続けてきっぱり言う。

「俺が好きなのは相棒の「ななちゃん」だ。」

「…でもっでもっ…相棒ならっ…」

「……相棒なら…っじゃねーよ!」

「…そんなっ二郎っ!一緒についてきてよっ」

「行かない!…ねねちゃんの事は…俺、そんなに好きじゃない」

俺がそう言い放った瞬間…兄貴は一瞬、『信じられない』といった表情を見せ、自分の頬をぴくぴくさせて怒りを見せ、俺に向かって抗議した。

「好きじゃない?!…ひどいよっ…ねねちゃんは…嫌われる要素なんてっ」

前にも言った通り…俺の兄貴は大人しい。

だから、あまり怒った顔を人に見せるのは珍しい。

そう、珍しい。

だけども、俺はこの時の兄貴の『怒り顔』を『どこかで何かよく見慣れた』何かを感じていた。

『怒った顔を人に見せるのは珍しい』でも、『どこかで何かよく見慣れた』…一瞬、この矛盾に対して…頭のどこかで何かが引っかかった。

でも、それ以上に俺は、兄貴に対して『怒りの再燃』の方が大きかった。

俺は矛盾を頭から追い払って、兄貴に怒りをぶつける。

「所詮、「ねねちゃん」ぬいぐるみだろう?!…「『ねねちゃん」はお母様の様に、俺を守ってくれてる!』…兄貴は、今朝俺に向かってそう言ったよな?」

兄貴は案の定、再度キョトンとした表情を見せて呟くように言った。

「…う、言った…言った…よ。」

「そこで、お母様の事に触れるならっ…ならっ、何とも思わないのかよっ!唯一自分の味方してくれた人物じゃねーか!…薄情過ぎじゃねえかっ!」

「…う、じ、二郎…」

「俺は、違和感感じていたよ…兄貴が今朝…お母様の最後の様子を…やっと話してくれた時も…結局話の最後は…自分の事ばっかでっ…お母様を気にかける言葉なんか何一つ言わなかったじゃねーか!その後ずっと「ねねちゃん、ねねちゃんって…ぬいぐるみの事ばかりでっ!」

兄貴が唇をワナワナさせた。

一緒に兄貴と育って来た俺は、知っている。

それは、兄貴が泣き出す5秒前の合図だ。

「お母様は、いつもいつもっ…兄貴ばっかりだった!…俺よりもっお父様よりもっ…兄貴を優先したっ!」

俺は、学芸会演習日の『ビンタ事件』を思い出した。

あの事件以降、俺とお母様の距離は少しずつ…少しずつ溝が出来ていった。

お母様と俺の関係はちょっとずつ変わっていったが…兄貴とお母様の関係も距離も変わらなかった。

それを自覚した俺は…実家にいる事に違和感を感じる様になった。

都内の医大への受験に失敗し、都外の医大に受かった時は…俺はどこかでホッとしていた。

実家と距離を取る大義名分を得た様な気がしたからだ。

>『製造物責任があるからな…』

お父様の言葉を俺は思い出す。

そうだ。

お父様や、お母様が作った家族だ。

俺が、俺の意思で作った家族じゃない。

それなのに…お父様もお母様も…ふたり共逃げている!

それなのに…何で俺は逃げちゃいけないんだ!

「俺は、真っ平だからな…お母様の代打で、兄貴のお守りなんて。」

自分でも驚くほど冷たい声が俺は言い放っていた。

「…いっその事、「ねねちゃん」に守ってもらいなよ…守られなきゃ、兄貴は何一つ出来ないんだろ?」

兄貴は俺の挑発に対して何も言わなかった。

只々、唇を噛み締めて恨みがましい目で俺を睨んでいた。

兄貴の表情が物語っていた。

俺の挑発が「不愉快」だと。

そしてその「不愉快」は、兄貴の底辺部分から泥を纏った状態のまま、緩慢な動きで心の表面迄へと姿を現す…そんな感じだった。

そこに兄貴が口にしない『怒り』を俺は見た気がした。

そしてその兄貴の表情も、俺にとっては見覚えのあるものだった。

兄貴の顔はお母様に似ている。

そう思ったとたん、俺の頭の中にお母様の声が蘇った。

>『二郎くんは、嘘つくし…家族を蔑ろにするし…どんどん悪い子になってる!…嘘をついてまで…あんな学校なんかに行くなんて…どうかしてるっ!」

蔑ろ?

俺よりも…お父様の方が蔑ろにしているじゃないか?!

何で、俺だけ責められるの?

「…ひ、ひどいよっ!二郎は…家族を放って…自分だけ家を出て好き勝手して…俺を放置しているくせに…この石段を登るだけじゃないかっ!…そんな事ぐらい付き合えないの?!」


>『家から学校までは…たったの15分間だけじゃないのっ!…お兄ちゃんにそんな優しさも持てないのっ!』


手前勝手な事を言う兄貴の顔に…お母様の顔が重なる。

頭の奥では勿論分かっていた。

顔や言っている事がお母様と同じでも…これはお母様ではない。

兄貴はお母様ではない。

そしてお母様はもういない。

でも、俺は止められなかったんだ。

俺がお母様に向かって言いたかった事を…。

「…お父様には…俺に対して文句を言ったみたいに…不満を言えたのかよ?」

「………うっ…う…ぐうっ……!」

兄貴の…俺に向かう怒りが…分かりやすく尻込みしはじめた。

「自分で厄介事抱え込んで…どうしようなくなって…でも、お父様が自分の『生命線』だから、お父様に嫌われる勇気もないからから…『簡単な俺』に全部押し付けている。」

「…ひどいっひどいよ…何で意地悪いうんだよっ…」

兄貴の『泥を纏った様な怒り』はすっかり影を潜めてしまっていた。

それを認識しても、俺は自分を止められなかった。

俺はトドメを刺す様に…苔がびっしり生えた石段の遥か彼方を指差して言った。

「…石段を上がった本殿に…「ねねちゃん」がいるんだろ?…ほら、行けよさっさと!」

「……う、うっ…ぐうっっ……!」

反論出来ない悔しさが…兄貴の呻き声の現れている。

「…『ねねちゃん』でもお母様でも、誰でもいいからさっ!喜んで助けてくれる奴のトコに…さっさと行けよっ!!」


「………ううっ…うっ…あああああ&£※〆€$£&[]}※〆っっっ!!!!」


最後は声にならない『喚き』を辺りにちらしながら…兄貴は…石段の向こう側へ逃げて行った。


走って逃げる兄貴の姿が次第に小さくなっていく。

そしてその姿は…霧に飲み込まれ…完全に見えなくなった。


*****


俺は悪くない。

俺は絶対悪くない。

だから、兄貴が戻っても絶対に…ぜっ絶対に謝らないっ!

俺は鳥居の側の石段に腰掛けたまま、頑なにそう誓った。

どうせ、兄貴はヘタレだ。

怖くなって直ぐに…石段を降りて来るはずだ。


だか、時間は俺を次第に冷静にしてくれた。

鳥居の向こうの苔だらけの階段を…俺は無機質に眺める。


そして俺はさっきの「矛盾」の正体について思いを巡らせていた。


>『怒った顔を人に見せるのは珍しい』でも、『どこかで何かよく見慣れた』

そこで俺は思い出した。

『どこかで何かよく見慣れた怒った顔』それはお母様の顔だった。

俺とお母様の間に少しずつ「溝」が出来て広がって行った…俺はさっきそう言った。

それは、お母様も感じ取っていたらしい。

だけど、お母様はその「溝」が広がって行く、どころか…「溝」が出来た事自体を認めくなかったっぽい。


『お母様と、お兄ちゃんと二郎くんの3人で旅行に行こう!』

俺が大学に入学し、すこし経った頃にお母様から提案を受けたことがある。

兄貴は嬉しそうだった。

もちろん、お母様も。

だけども、俺は気乗りしなかった。

だから俺だけ断った。

すると、お母様の表情が瞬時に消え…代わりに怒りの表情に変わったのだ。

「…嫌な子ね!…もういいわっ!」

結局、旅行はお母様と兄貴だけで行った。

旅行のお土産は、お父様には買ったらしいが…俺には無かった。

そこから…お母様は、次第に俺を大事にしなくなった。

俺の住むマンションの掃除だとか…そういう事はしてくれたけど…それは兄貴に対してもそうだった。

ただ、兄貴には色々ブランドモノの服とか買ってやっても…俺には一切なかった。

お母様の「怒り」

それは、自分と「同じではない」事に対する怒りだ。

それは、「数ミリのズレ」さえも許せない寛容の無さ。

お父様は、お母様にとってスポンサーだから頭が上がらない。

だから、お父様との間に違いを垣間見ても…お母様はスルーする。

兄貴はお母様と完全にイコールだから罰は受けない。

俺だけがお母様と顔も似てない…完全に同じでないから罰を与えられる…。

俺は、そんな事を思いながら…苔だらけの階段の遥か上段を覆う霧を見つめていた。

だが、霧を眺めている内に…段々と鬱積した感情から覚め、兄貴に対して不安になって来た。

どれだけ時間が経ってんだ?

ヘタレの癖に…なんで直ぐに逃げ出さない?

くそっ…俺は…兄貴が戻るまでここで待機しなきゃなんねーの?!

俺、さっさと家に帰りたいんですけど!?

冗談じゃねーぞ…何、意地張ってんだよ…クソ兄貴っ!

お母様が居なきゃ…頼る人間は俺しか居ない癖にっ…俺を不快にさせてんじゃねーよ!

この場所でこれ以上、時間を潰したくない。

俺は、意を決して鳥居をくぐり、石段を一段一段…踏みしめて歩く。

…そうしないと…石段を覆う苔で…足を滑らせそうだったからだ。

すると、本殿に辿り着く前に石の置物があるのが見えた。

石の置物は…カエルだか、犬だが…何かの動物だとは分かるが…苔のせいでハッキリした事が分からない。

確か…『リアルいろは神社」』何て言っていた奴も…何の置物なのか分からないとか…いっていたな…。

いや、なんの置物はかなんて…どうでもいい。

とにかく俺は、この場所に余り深入りしたく無かった。

その時だ。

置物から少し急な下り坂になっている草地部分に…兄貴の頭が見えた。

兄貴は下り坂を見渡しているのか…頭を下向きに揺らしていた。


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