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ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅢーハミルトン=バカルディChapterⅢ:彼女のいる日々
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ChapterⅢ:彼女のいる日々⑤



「せいっ!」


ハーパーは木材を放り投げ、レイピアを何回も素早く振った。

レイピアで切り刻まれた木材はそれぞれ均等の大きさに切り分けられる。

周囲から感嘆の声が漏れ、ハーパーは照れ笑いを浮かべていた。


「ふむふむ、ここは完了ですね。では次がこっちのエリアに人手を回すです」


ジムさんは祭準備の中心のテントの中で図面とにらめっこ。

どうやら設営の進行管理を手伝っているらしい。


「あら?お嬢ちゃん上手に焼けてるじゃない!あんた将来良い嫁になるわよ?」

「そうですか?あっはは~」


街のおば様方に混じって仕出しの手伝いをしているアーリィは、自分が焼いたパンを褒められてヘラヘラしていた。

みんながみんなそれぞれの得意分野を活かして祭の準備を手伝っている。


「行くぞローゼズ」

コクリ!

「せーの!」


重い角材を一緒に持ち上げて、一番奥の設営場所へ向けて歩き出す。

俺とローゼズはというと主に力仕事をメインに行っていた。

資材を運んだり、力が必要なところを手助けしたりだ。

手伝いを初めてもうだいぶ経つけど、やっぱり準備の進み具合は遅いと感じる。

別にみんながサボっているわけじゃなくて、根本的に短時間で仕上げるための人手が不足している様子だった。


「ねぇワイルド、ハミルトンは?」


ふとローゼズがそう聞いてくる。


「あーそういえば……」


さっきからどこにもハミルトンの姿が見えない。

どこかにいるのだろうかと周囲を見渡すけど、やはりどこにもハミルトンの姿は見つけられなかった。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


道の向こうから慌てふためくヒースの保安官の声が聞こえた。

気になってそっちを見てみれば、何故かそこには縄で縛り上げたシーバス一家を引き連れたハミルトンがいた。


「あは!大丈夫ですって!それにこの人たちって、物取りだけど殺しはしてないんでしょ?」


「え、ええ、まぁ……」

「あは!なら私に任せてください!」


そう言ってハミルトンはシーバス一家の首領シーバス=リーガルを見た。


「な、なんでぇ!俺たちになにさせようってんだ!?」

「見て分からない?アンタ達が悪さしてたせいで開拓祭の準備が遅れてんだよ?だからアンタたち、準備を手伝いなさい!」

「なんでぇ俺たちがそんなこと!」

「文句あるわけ?」


ハミルトンは眉間にシワを寄せ、しかし口元だけは笑みを浮かべながらシーバスを睨んだ。


「お、おいてめぁら姉さんのご指示だ!手伝うぞ!」


すっかりハミルトンにビビっているシーバスは一家へそう叫ぶ。シーバス一家は全員、ハミルトンを怖がっているようで、誰も文句は言わなかった。


「あは!ありがとうー!」


ハミルトンは人が変わったような明るい笑顔を浮かべて次々とシーバス一家の縄を解いてゆく。

シーバス一家は首領のシーバスを先頭にハミルトンの指示に従って準備を進めてゆく。

ヒースの街の人も寛容なのか、シーバスたちを受け入れ、協力して設営を続行し始めた。


「凄いなハミルトンって」


俺がそういうとローゼズは笑顔を浮かべて、


「ハミルトンはわたしの自慢の友達!」

「そうだったな」


嬉しそうにそう言うローゼズを見て、俺も嬉しくなった。


「姉さん!次はどうしましょう?」

「じゃあ次は向こうでステージの設営だね!」

「へい!お前らいくぞぉ!」


すっかりハミルトンの部下になったシーバス達は楽しそうに設営に従事している。

俺たちもそんなシーバス達に触発されて、設営の手伝いを進めてゆく。


「じゃあ次はあっちですね!」


すっかり祭準備の現場責任者になったハミルトンの指示で、設営はどんどん完了してゆく。


「そこローゼズサボらないッ!ジムさんも商売はあと!あーんもう、アーリィはまごまごしてんの!ハーパーを見習いなさいよ!って、ハーパーも……あは?ワイルド君どーしよっか?」

「なんとかするっきゃないっしょ?」

「あは!だよねー。よぉーし!やっちゃうぞぉ!」


ハミルトンは気合充分で設営を続ける。


 活発で、明るくて、人懐っこくて面倒見の良いハミルトン=バカルディという人間。

きっとハミルトンと出会わなければローゼズはずっと冷たい殺人マシーンのままだったんだろうと思う。


「ローゼズそっち持って!」

「うん!」


仲良く一緒に資材を運ぶハミルトンとローゼズ。


―――ハミルトンの記憶が無くなったのは偶然とはいえいい事だったのかもしれない。


 ローゼズとハミルトンの間にある過去の事実が消えることはない。

でも、それをローゼズが口にし無い限り、ハミルトンが思い出さない限り、それはなかったことになる。

それさえなければハミルトンはタリスカーではなく、ローゼズもまた罪の意識に苛まれることはない。


―――このままの状態がずっと続いてい欲しい。今のように二人には仲良くずっと笑っていて欲しい。


そう思う俺だった。


「ワイルドくーん!こっち手伝ってぇー!」

「あいよー!」


俺はハミルトンとローゼズの下へ駆けてゆく。

祭の準備は夜遅くまで続くのだった。


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