ChapterⅢ:彼女のいる日々④
「そういやハミルトン、さっきの爺さんはどこ行ったんだ?」
「私が飛び出すまでは一緒にいたんだけどね。逃げちゃったのかな?」
「ハミルトーン!一人逃げたでぇーす!」
っと、馬車の轡を握る俺のところまで、後ろで捕縛したシーバス一家を監視しているジムさんの声が聞こえてくる。
馬車の横を縄抜けしたシーバス一家の一人が馬車の横を必死な顔をして走り抜けてゆく。
「ちょっとごめんね。よっと!」
隣に座っていたハミルトンは軽快にジャンプし、逃げた奴の前に立ちはだかるや否や、上腕にくくりつけたシースナイフを鞘から抜く。
「どこへ逃げるつもり?お・じ・さ・ん?」
ナイフは上手いこと逃げた奴の首筋に当たるか当たらないところに添えられていた。
「あひぃ!」
驚いたシーバス一家の一人はその場で尻餅を付く。
「あは!戻ろうねぇ~」
ハミルトンは手際よく、再び奴を捕縛すると馬車の後ろまで連れて行った。
シーバス一家総勢三十二名が馬車の後ろにゾロゾロと続いていた。
捕らえたシーバス一家をヒースの保安官へ引き渡すためだ。
彼らをローゼズ、アーリィ、ジムさん、ハーパーは馬車の後ろを歩きながら監視をしている。
しかし縄で縛っているとは言え、中には縄抜けをする奴もいるだろうという判断でハミルトンには前にいてもらっていたが、正解だったようだ。
再び軽快な動作で俺の隣にハミルトンが収まってくる。
「そういやハミルトン、何か思い出したか?」
「えっ?」
「いや、なんだその……随分戦い慣れしてるように見えたから」
「……なんか料理と一緒の感覚なんだよねぇ。こう自然と体が動くような?だから記憶は全然」
「そっか」
ひとまず俺は内心安堵する。
さっきの戦い方は明らかにタリスカーのそれと同じだった。
もしかするとハミルトンの中に眠るタリスカーが目覚めてしまったんじゃないかと思ったが、それは考え過ぎだったようだ。
ようやく森を抜け、道の先に賑やかな町の様子が見え始めてくる。
周囲を山々に囲まれた緑豊かな巨大都市ヒース。
街を東西南北に貫く道には絶えず馬車や行商人が往来している。
そして町の中も正午になっていないにも関わらず、人が多く賑やかだった。
商人が威勢よく呼び込みを行い、多くの買い物客が道を行き来している。
そんな中を通るんだから、当然俺たちが注目を集める。
そりゃ馬車を先頭に、縄で捕えた無法者をゾロゾロ引き連れているんだ。
注目を浴びない方がおかしい。
「あは!ちょっとこれ恥ずかしいね」
ハミルトンは恥ずかしそうに俯くのだった。
俺たちは街の注目を浴びながら街の東の入り口近くにある聞くヒース保安官の事務所へ向かう。
そして白い石造りの大きくて立派な建物の横に馬車を止めるのだった。
事務所の扉を開けると、奥の机で立派な髭を蓄えた保安官と背の高い白髪の紳士が何かを話していた。
紳士の様子から深刻な雰囲気が伝わってくる。
どうやら俺のことに気付いてないらしい。
「すみませーん!」
俺が声を上げると、保安官がハッと顔を上げ駆け寄ってくる。
「すみませんでした。どうされましたか?」
視界に隅にシーバス一家の手配書が入った。
「こいつら捕まえてきたんですけど」
「ええっ!?シーバス一家をですか!?」
俺が手配書を指差すと保安官は凄く驚いた様子を見せた。
若干引き気味な俺。
すると奥より血相を変えて白髪の紳士が駆け寄ってくる。
「シーバス一家を捕まえたとは本当ですか!?」
「あ、え、ええ」
「一体何人!?」
「三十二人全員っすけど……」
「「おおっ!!」」
それまで深刻な表情を浮かべていた紳士と保安官が急激に表情を緩め、
「町長やりましたな!」
「本当に!これで安心ですわ!!ありがとうございます旅の人!」
なんだか物凄く喜ばれてる。
それだけで苦労してシーバス一家を捕まえただけはあると思った。
さすがに三十二人もなると保安官事務所の留置場へは収まりきらなかった。
という訳で、シーバス一家はひとまず保安官事務所に併設されている馬小屋につなぐことになった。
「なんでぇ!どうして俺らがこんなところにぃ!」
首領のシーバス=リーガルが不満そうに叫ぶ。するとハミルトンは、
「あは?おじさん、散々悪いことしてきたんだから文句言っちゃダメだよ?」
素早くナイフを抜き、にこやかな表情のままシーバスの首筋へナイフの刃を当てる。
「しゅ、しゅびません!!」
シーバスはビビッて大人しくなった。
「行こっか?」
爽やかな笑顔のハミルトンが俺へそう促す。
条件反射なのか俺の背筋はぞくっと震えた。
「どしたの?」
「あ、いや、行こう!」
「?」
不思議そうな顔をしたハミルトンの手を取ってその場を跡にする。
―――やっぱまだハミルトンとタリスカーが被っちまう瞬間があるな。
内心俺は自身へ苦笑し、なんとかこの癖を克服したいと思うのだった。
「ありがとうございましたワイルド様、それにお仲間の皆様。これで無事、明日の開拓祭を迎えられます」
保安官の事務所の前ではヒースの代表の白髪の紳士が俺たちを迎えてくれた。
「開拓祭?」
「はい!実は明日はヒースがここに開拓されてから丁度100年を祝う祭があるのです。ですがシーバス一家が邪魔をするのではないかと懸念してましてねぇ……ですがワイルド様方がシーバス一家を捕まえてくださったおかけで明日は安心して祭を迎えられます!」
なるほど、たぶんさっき保安官と事務所で話していたのはこのことだったんだろう。
「あの、宜しければなのですが明日の祭を見物していってはいただけませんか?今回のお礼です。街中へは明日、ワイルド様方からは御代を頂かないよう指示ておきます。もちろん賞金もご用意いたします!」
「是非受けるのですワイルド!」
真っ先に声を上げたのはジムさんだった。次いでローゼズが袖を引いてくる。
「んー」
「祭行きたいのか?」
コクリコクリ!
「まぁ、良いんじゃないの?」
アーリィも乗る気だった。
「ワイルド様、よもや食糧補給の目的をお忘れではないでしょうね?」
ハーパーに指摘されて、思い出したことは黙っとこう。
「それでしたらそちらももこちらで手配致しましょう。必要なものを仰ってください。すぐに用意させますので」
大盤振る舞いのヒースの町長だった。
ここまでしてもらって誘いをお断りするのは人として良くない。
「じゃあお言葉に甘えていただきます。よろしくお願いします」
俺がそういうと町長は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ありがとうございます。祭は明日です。今夜は是非、我が家に泊まって下さい!」
なんだか至れり尽くせりで少しくすぐったい感じがする。
でも話がこうなったのなら素直に受け取るとしよう。
俺は馬車をヒースの保安官に預け、町長に続いて街の中を行く。
良く見てみれば、着いたばかりの時に感じた賑やかさは、その何割かが祭の準備湧く人々だったことに気が付く。
「この大通りは明日の祭のメインストリートになります」
町長がそう説明してくれた。石造りの立派な道路の左右には、保安官事務所と同じ白壁の建物が軒を連ね、道の向こうまでずっと続いていた。多くの人が通りに居て、白い屋台用のテントを建てたり、資材を運んだりしている。
みんな明日の準備に忙しそうな様子だ。そんな中ハミルトンは落ち着きなく周囲を見渡していた。
「どうかしたかハミルトン?」
「あの、町長さん、もしかして準備遅れてます?」
すると振り返ってきた町長が苦笑いを浮かべた。
「いやはやお嬢さんのご指摘通りで。実はシーバス一家が物資輸送の馬車ばかり襲うものですから物資が届かず遅れてまして……ですがご安心を!シーバス一家が捕まった今、何も憂いはござません!明日の開催には必ず間に合わせてご覧にいれます!」
「ふーん、そうなんだ」
突然、ハミルトンが俺たちの中から外れた。
「みんなごめーん!私、準備の手伝いするからー!先に行っててー!」
そう言ってハミルトンは近くの設営中だったテントへ駆け寄って行った。
ハミルトンは準備をしていた人たちへ近づくなり、すぐさまその輪の中に入って準備を始める。
でもそうしたいと思っていたのは何もハミルトンだけじゃない。
「すんません町長さん、俺も手伝います!」
そう言って俺はハミルトンが手伝っている屋台へ向かう。
丁度、屋台の屋根の骨組みを持ち上げようとしたところに加わる。
「ワイルド君?」
「俺も手伝うよ」
「あは!ありがとー!」
ハミルトンは晴れ渡るような笑顔を浮かべる。
するとローゼズ達もまたそれぞれ人手が必要そうな所へと飛び出して行く。
こうして俺たちは明日の祭に向け準備を手伝うことにしたのだった。




