ChapterⅢ:彼女のいる日々③
そこには一昨日撃退をした無法者のシーバス=リーガルと彼を取り巻くシーバス一家がいた。シーバスは巨大なガトリングガンを手にしている。その銃口はまっすぐ俺たちへ向けられていた。
「ちょっとあんた!あたしの真似しないでよ!!」
同じくガトリングを構えたアーリィは怒りに満ちた声をあげる。
どうもやっぱりこないだ坊ちゃんと言われたことを根に持ってるみたいだ。
「がはは!坊ちゃんのを見て良いなぁと思ってよぉ!」
「また坊ちゃん言った!」
「坊ちゃんに坊ちゃんと言って何が悪いだぁ!」
「こ、こいつぅ!」
「アーリィ、落ち着け」
今にでもガトリングを撃ちそうなアーリィを宥める。
―――ここで銃撃戦になるのはあまり良いとは言えない。
こっちには老人もいるし、馬車も近くにある。
ここで銃撃戦になっちまえば、後が色々と大変そうだ。
「どうしますかワイルド様?」
ハーパーがそっと寄ってきて小声で聞いてきた。
「奴らの注意を誘う。油断した隙に一気。ハミルトンにはあの爺さんと一緒に馬車の中へ」
「承知しました。皆に伝えてまいります」
「頼む」
「なぁーにこそこそ話してんだぁ!?」
シーバスがそう叫ぶ。俺はシーバスへ居直った。
「なぁに、どうやってお前らをまた懲らしめてやろうかの相談さ」
「がはは!なんだそんなことか。今なら見逃してやる。さっさとそのジジイと馬車をおいて姿を消しな!」
相変わらずシーバスは調子に乗りやすい質のようだ。
「んだよお前ら、まだ性懲りもなく物取りなんてやってんのかよ?」
「まぁ、これが生業なんでなぁ!」
「暇なことで」
「ひ、暇じゃねぇだぁ!これでも俺らは一生懸命だぁ!」
シーバスは思い切り叫び、その拍子に銃口がわずかに逸れる。
その隙を突いて俺の背後からローゼズとハーパーが飛んだ。
「ッ!」
ローゼズはシリンダーの中から全ての弾を放ち、
「はぁぁっ!」
ハーパーはレイピアで斬りかかる。
狙うは首領のシーバス=リーガル。
だが奴の周囲にいた手下が颯爽とシーバスの前に立つ。
奴らは鈍色に輝く盾を構え、ローゼズとハーパーの一撃をそれで弾いた。
「やっちまえお前ら!」
シーバスの声を聞き、不吉な予感を感じる。
「散れッ!」
俺が叫ぶのと同時に皆は散り散りなって森の中へ飛び込んだ。
俺は森を駆け抜けてゆく。
背後からは三つ程度の気配。
十分に距離を起き、木の陰に隠れて様子を伺う。
息を落ち着け、俺は木の陰から飛び出してビーンズメーカーを放つ。
「ッ!?」
しかしそこには誰もいなかった。
「どこ狙ってんだい兄ちゃん!」
木々の間からナイフをもった無法者が飛び出してくる。
間一髪のところで身を翻し、斬撃を避ける。
再び木々の間へ飛び込み、そしてビーンズメーカーを放つ。
しかしまたしてもそこには誰もいない。
代わりに俺の隠れる大木が弾け、弾痕が刻まれた。
それでもシーバス一家の姿は見えず、敵の銃弾は容赦なく俺を狙う。
「クソッ!」
俺は森の奥深くへ飛び込んでゆく。
気配は確かにある。
だがその方向へビーンズメーカーを放っても手応えはない。
逆に俺へ向け、鉛玉が打ち込まれてくる始末。
――― 一体どこから!?
気配は感じる。
奴らが近くにいるのもわかっている。
だけど、姿を見つけることができない。
逆に奴らは俺の位置を正確に把握して銃撃を仕掛けてきている。
―――ここは奴らのホームグラウンドってことか
「うわっ!」」
数発の銃弾から飛び退く。
木の陰に身を隠すが、すぐに位置を感づかれ再び走り出した。
―――どうする?この先どうすれば!」
「ワイルド様ッ!」
不意に脇へ黒い影が現れた。
煌くレイピアの刀身が鉛玉を弾き、赤い火花を散らす。
しかし快傑ゴールドの体は緊張を緩めない。
「ご無事ですか?」
「ああ、助かっ……!」
言い終える前に俺とゴールドは飛び退く。
おそらくゴールドを追っていた連中が加わったのだろう、撃ちこまれてくる鉛弾の数が増えている。
「はぁっ!」
ゴールドは裂帛の気合と共に、レイピアで太い木の幹を叩き切った。
倒れる木々の間から三人のシーバス一家が転げ落ちる。
ゴールドはすかさずレイピアで迫撃を仕掛けようとするが、
「ッ!!」
僅かにレイピアの刀身が近くの木を擦り、斬撃の速度が落ちる。
彼女の目の前で体勢を整えたシーバス一家の一人の銃口がゴールドを狙っていた。
すかさず俺は引き金を引き、敵の一人を撃ち倒す。
「ありがとうございます!」
「ワッドッ!」
ガトリングを携えたアーリィを先頭に、ジムさんとローゼズが合流してきた。
「みんな無事だったか!?」
「全然弾が当たらないのです!!」
ジムさんは苛立たしそうにそう言う。
すると森の至るところからうすら笑いが響いてきた。
「がーっはっは!どうだ手も足もでぇねぁだぁ!ここは俺たちの縄張りだぁ!ここで俺たちを倒そうだなんて無理なんだぁなぁ!」
調子の良いシーバスの声が響き渡り、
「来るッ!」
ローゼズの叫びを聞き、俺たちは再び散った。
「あーんもう!どこにいんのよ!」
「ちょこまか隠れて本当に頭来るのです!」
しかしアーリィのガトリングとジムさんのライフルは葉を散らすだけで敵を捉えられていない。
「うぐわっ!」
辛うじてローゼズの銃撃は時折、敵を捉えているが、捕縛する前に他の奴が攻撃を仕掛けいたちごっこだった。
ゴールドもまた狭い森の中でレイピアを上手く扱えず、敵を満足に倒せずにいる。
俺もまた必死にビーンズメーカーを放ち続けるが、戦果はゼロ。
このままでは俺たちの方が先に消耗して、シーバス一家の思うツボだ。
そんな中、木々の間に見えた光景に俺は焦った。
木々の間に見える俺たちの馬車。
そこへ向け五人のシーバス一家の構成員がゆっくりと近づいている。
俺は考えるよりも先に地を蹴った。
「どこへ!?」
近くにいたローゼズが叫ぶ。
「馬車のところだ!ハミルトンが危ない!」
敵の銃弾が容赦なく俺を狙う。
それでも俺は構うことなく一気に駆け抜け森を抜ける。
「うおぉぉぉぉッ!」
俺はビーンズメーカーを放ちながら森を飛び出した。
そして馬車へ歩み寄っていたシーバス一家へ突きつける。
「おい兄ちゃん、戦いは数が多い方が有利って知ってるよなぁ?」
シーバス一家の一人が軽薄そうな笑みを浮かべながらそういう。
奴らの銃口が一斉にこっちへ向けられる。
さっき俺が乱射したおかげで敵の数は四人には減っていた。
だけど人数の比はあまり変わらないし、助けも望めそうにはない。
―――やるしかない、この人数を俺一人で!
撃鉄を倒し、グリップを強く握り締める。
刹那、俺の脇を赤い影が過ぎった。
次いで聞こえたのは数発の銃声。
しかし銃弾は俺へ当たることなく、赤い火花を散らしながら明後日の方向へ弾き飛ばされた。
「もう!一人で無茶だって!」
「ハミルトン!?」
俺の目の前にいたのはハミルトンだった。
彼女は馬車の車輪の手入れに使う金属ヤスリを両手に逆手に持ち、構えを取っている。
その姿はまるで二本のシースナイフを持つタリスカーのようだった。
「なんだい嬢ちゃん!そんなヤスリでなにしようってんだ!」
「あは!わかんないかなぁ?あんた達をこれで倒すんだよ!行くよワイルド君!」
「あ、ああ!」
ハミルトンは飛び、敵の銃口が一斉にそっちへ向いた。
ハミルトンが二本のヤスリで銃弾を弾いている隙に、俺は横へ転がりビーズメーカーを放つ。
「うぐわっ!」
一人に命中。残り三人!
―――この調子で行けば!
「どぉくだぁ!」
すると背後から巨大な威圧感を感じる。
それと同時に俺の体は物凄い圧力で背中から思い切り突き飛ばされた。
「うわっ!」
「ワイルド君!?」
軽く数メートル突き飛ばされ、転げわまり、うつ伏せに倒れこむ。
ハミルトンが俺の前へ降り立つ。
その先にはガトリングを構えたシーバス=リーガルがいた。
「蜂の巣だぁ!」
シーバスのガトリングが高速で回転を始め、無数の銃弾がハミルトンと俺へ突き進む。
「ふん!」
しかしハミルトンは素早く逆手に持った二本のヤスリを振り、銃弾を弾き続ける。
だが、
「あっ!」
ハミルトンが手にしていたヤスリが限界を迎え、バラバラに砕けた。
幸い、シーバスも弾を撃ちつくていた。
しかしシーバスの部下がすぐさまガトリングへの給弾を開始する。
「ヤスリでそこまでやるたぁ上出来だぁ!今ならこの場で謝れば許してやるでぇ!」
シーバスは勝ち誇ったかのようにそういう。
その時だった。
「ハミルトン!」
突然ローゼズの声が聞こえた。
ローゼズは馬車の上にいた。
彼女の手には二本の鞘に収まったシースナイフが握られている。
「ローゼズ?それは……」
「受け取る!」
ローゼズがシースナイフを投げ、ハミルトンは見事にキャッチした。
「ありがとう!ローゼズ!」
ハミルトンは鞘からナイフを抜き放ち、両手へ逆手に構えた。
一瞬でハミルトンは伝わる気配ががらりと変わった。
彼女が手に持つナイフのような鋭利で研ぎ澄まされた雰囲気。
俺の背筋はゾクリと震える。
一瞬、ハミルトンの姿がタリスカーに見えた。
「なんだぁ?そのナイフで何しようってんだぁ?」
「あは!こうするのッ!」
ハミルトンは地を蹴って思い切り飛んだ。
ローゼズに匹敵する跳躍にその場の誰もが視線を仰ぐ。
シーバスの周りにいた取り巻きがハミルトンへ向け銃撃をするが、
「あは!遅いよ遅い!」
ハミルトンは全ての銃弾をシースナイフで弾き、そして取り巻きの一人の懐へ潜り込む。
刹那、取り巻きの一人に鋭利な軌跡が過ぎった。
ハミルトンのナイフはガンベルトを引き裂き、おまけにズボンのベルトさえも両断する。
ストンと取り巻きの一人のズボンが地面へ落ちた。
「バイバイ!」
ハミルトンの回し蹴りが決まり、取り巻きの一人は思い切り森の奥まで吹っ飛ばされる。
「何するだぁ!」
シーバスのガトリングと残り二人の銃撃がハミルトンを襲う。
ハミルトンはナイフで全ての銃弾を弾き、バック宙で距離を置いた。
ハミルトンの横へローゼズが降り立ち、ビーンズメーカーの銃口をシーバス達へ突きつける。
「ハミルトンすごい!」
「なんか勝手に体が動くねぇ!」
「ハミルトン、でも……」
ローゼズは鋭い視線をハミルトンへ送る。
するとハミルトンは笑った。
「あは!大丈夫!だって刃物で切ったら誰だって痛いもん!」
「さすがハミルトン!」
「ワイルド君!ローゼズと私で軽くアイツ等ぶっ飛ばすから後の捕縛よろしくね!」
ハミルトンとローゼズは同時に地を蹴った。
「来るだァ!!」
シーバスのガトリングが火を噴き、取り巻きの銃撃が二人を狙う。
「あは!だから遅いって!!」
ハミルトンがナイフで全ての銃弾を全て弾く。
ローゼズの神速の銃撃の一発目が取り巻きの手から銃を落とし、二発目が腹へぶつかってその場へ倒す。
「お頭ァ!」
森の中に隠れていたシーバス一家が次々と押し寄せてくる。
奴らは次々とシーバスの前へ集まり、ハミルトンたちへ銃撃を開始した。
「幾ら出てきたって……」
「わたしとハミルトンには敵わない!」
それでもハミルトンはナイフで銃弾を弾き、ローゼズは敵を無力化してゆく。
俺もまたビーンズメーカーでシーバスを一家を倒し、縄で捕縛をしてゆく。
しかし数が多く埓があかない。
「ゴォールドゥ!」
すると、森の中から快傑ゴールドが飛び出してきて、敵の隊列を乱した。
「うららららッ!」
続いてきたアーリィはガトリングを放って敵を更にかく乱させ、
「そこです!」
ジムさんの正確なライフル射撃が次々とシーバス一家を撃ち倒してゆく。
快傑ゴールド達がやってきたおかげでシーバス一家は次第に数を減らしてゆく。
「あは!いっただきぃ!」
「ぬあぁっ!?」
シーバスの懐に潜り込んだハミルトンは下か一気にシースナイフを振り上げた。
ナイフはシーバスの手からガトリングを弾き飛ばしたばかりかズボンのベルトを引き裂き、ズボンを落とさせる。
「あ、あああ……!」
すっかりビビってしまったシーバスはゆっくり後ろづさる。
ハミルトンはバック宙で距離を起きローゼズと並んだ。
「行くっ!」
「うん!」
ローゼズとハミルトンは同時に高く跳躍した。空中で体をひねり勢いを付け足を突き出し、そして
「「これでぇ……おっしまぁぁぁいッ!!」」
「ふぐおうわぁッ!?」
ローゼズとハミルトンの靴底がシーバスの腹を思い切り蹴った。
シーバスの巨体が思い切り仰向けに倒れこむ。
シーバスは白目をむいて、泡を噴き気絶する。
着地したローゼズとハミルトンは互いにハイタッチをした。
「そいつはあたしに捕縛させろぉ~!」
アーリィは倒れこむシーバスへ向け猛然と走っていく。
「相当坊ちゃんとなじられたのが不愉快だったのでぇすね」
ジムさんは伸びているシーバス一家の一人を縛り上げながらそういった。
「ワイルド様、ハミルトンは大丈夫なのでしょうか?」
ゴールドはハミルトンの方を見ながらそういう。
きっとゴールドはハミルトンが再びナイフを手にしたことでタリスカーに戻ってしまうことを心配してるんだろう。
「大丈夫だろ、きっとな」
現にハミルトンは今、ローゼズと一緒になって伸びたシーバス一家を捕縛している。
保証は何もないけど、なんとなく大丈夫と思える俺がいた。
「でよゴールド、なんでお前ハミルトンがタリスカーだってのこと知ってるんだ?」
「えっ?」
「もしかしてお前の正体って……」
「ッ!!」
ゴールドは顔を真っ赤に染め、ハットを深く被りなおす。
「わ、私は快傑ゴールド!それ以上でもなければ以下でもなく、ましてや正体などありません!今日はこれにして失礼いたしますでありまする!ゴォールドゥ!」
そう早口でまくし立てたゴールドは慌てた様子で飛び、姿を森の奥へ消した。
「ハーたんも色々大変でぇすねぇ。ワイルド意地悪が過ぎますですよ?」
ジムさんは少し気の毒そうに俺をやんわり注意する。
「あはは、いやつい」
「まぁ、あの反応は面白いでぇすけどねぇ」
そういってニヤリと笑みを浮かべるジムさん。
「ワイルド様ぁ~ご無事ですかぁ~?私、またしても怖くて隠れておりましたあぁ~」
森の中からハーパーが素知らぬ顔でやってくる。
もうちょっとハーパーには優しくしてやろう。そう思う俺だった。




