FinalChapter:そして次の地へ
【VolumeⅡマスク・ザ・G―FinalChapter:そして次の地へ】
「もう行っちゃうの?」
ジョニーさんは俺へそう聞いた。
「はい。まだ俺たちにはまだやることがありますから」
「他の遺跡を探しに?」
「はい」
「そう……ゆっくりレアドの話聞きたいと思っていたのに残念だわ」
そういうジョニーさんは本当に残念そうだった。
「すみません」
「良いのよ」
「あとジョニーさんこれからは……」
ジョニーさんは苦笑いを浮かべた。
「わかってるわ。もう遺跡は使わないし、武器もビーンズメーカーしか作らないって約束する」
「ありがとうございます」
「なにか困ったことがあったらいつでも来なさい。なんでも相談に乗ってあげるわ……」
ジョニーさんはそっと俺に顔を近づけ、
「勿論、どの子にしようか悩んだ時の相談でも良いわよん」
耳元で囁く。
「なっ!ジョ、ジョニーさん!!」
「ふふ、レアドの息子なんだから決める時はちゃんと決めなさいよ!」
そう言って胸を少し小突かれた。どことなく、ジョニーさんの雰囲気から俺はお袋のことを感じる。さすがはあのお袋の友達ってことか。
「それじゃあ行きます!色々とありがとうございました!」
俺はジョニーさんに別れを告げ、ローゼズたちの下へゆく。
「いつでも寄ってね!待ってるわよぉー!」
俺たちは馬に跨り、ジョニーさんの暖かい言葉を背に受けながら、ロングネックの森深くにある研究所を後にした。
「ねぇ、ワイルド」
森を抜けているとき、突然ローゼズが言葉を発した。
「どうした?」
「……」
「ローゼズ?」
「……タリスカーはもしかするハミルトンかもしれない」
ローゼズは呟くようにそういった。
ローゼズの話ではタリスカーはアードベックがやられた混乱に乗じて再び姿を消したという。
ロングネック港での戦いの時のタリスカーの言動を思い出せば、ローゼズがいう可能性は高いと言わざるを得なかった。
マッカランはローゼズがハミルトンを殺した後にスチルポットの遺跡を手に入れた。そしマスク・ザ・Gの一件から、遺跡には瀕死の人間を蘇らせる高度な医療技術も備わっていることが分かった。
タリスカーはかつてローゼズがその手で殺めた親友ハミルトンである可能性は状況から考えても高いと言わざるを得ない。
―――もしそうだとしたら今後タリスカーとはどう向き合ったら良いんだろうか……?
そんなことを考えながら馬を歩ませ、森を出る。
ロングネックの街は訪れた時の整然とした雰囲気はなかった。綺麗だった石畳の舗装路はところどこが砕け、均等に並んでいたガス灯の殆どが折れ曲がっている。
だけど、ガレキを撤去し、一日でも早く元の生活を取り戻そうと、街の人々は生き生きとした表情を浮かべている。
そこで特に活躍しているのがアインザックウォルフの人達だ。
ハーパーが呼びもどしたアインザックウォルフの人達は住人の中心になって復旧作業に従事している。聞くところによれば街の修繕の一切の資金は全てアインザックウォルフが提供しているという。
物凄い資金力というか、そこまでしても揺らがない程アインザックウォルフは力を持っているということか。
―――もしもアインザックウォルフが本気になればアンダルシアンを支配できるんじゃ?
なんて冗談めいた想像でも、若干現実味を持ってしまう。
でも、家督を継いだのがあのハーパーなのだからそんなことはしないだろう。
むしろこれからどんどんアインザックウォルフの評判を上げてゆくに違いない。
脇に見える海には既にバーレイの艦隊は無く、青い水平線が続いているだけ。波は静かで、海は穏やか。もはやロングネックは平和そのものだった。
「お待ちくださいッ!」
突然、凛とした声が聞こえ俺は馬を止める。
俺の前に現れたのは麗しい人だった。
身なりこそシャツにベスト、ロングスカートと質素なものだけど、そんなありきたりな衣装でさえも、それらが煌びやかなドレスと思えてしまうくらい、彼女の放つ雰囲気は威厳に満ちていた。
黄金色の髪はロングヘヤーからセミロングへ変わっていたが、快活なところもある彼女には良く似合っていると思う。透き通るような青い瞳はまるで宝石のよう。目鼻立ちはくっきりとしていて、可愛らしいというよりも綺麗と言う方が正しい気がする。でも、実は暗闇が苦手で、凄く甘えん坊な所のあるやつ。
その名はハーパー=アインザックウォルフ。アンダルシアンで一位二位を争う名家の四代目当主だ。
そんなハーパーは大きなトランクを持って俺の前に立っていた。
「どうしたんだそんな大荷物持って?ロングネックをほっといて旅行か?」
「ええ!その通りですよ、ワイルド様!」
冗談で言ったつもりだったのだが、ハーパーは真面目に、そして元気よく答えた。
青い瞳は輝きを放ち、その様子からは微塵も揺らぎが感じられない。
なんとなくハーパーが何を考えていること予感した俺は馬から降り、ハーパーに歩み寄る。
「良いのか?色々とあるんだろ?」
「それは全部バーンハイムに丸投げにしてきました!後顧の憂いは一切ございません!」
ハーパーは胸を張って、自信満々に答える。バーンハイムさんは今頃一体どんな顔をしているのかと想像を巡らせたが……うん、ダメ、いつもの無表情しか浮かばない。
「お前なぁ……そんなんでアインザックウォルフの当主が務まるのかよ?」
「そのために私はワイルド様に付いて行きたいのです」
「えっ?」
「私はまだ未熟者です。例え家督を継いだとしても、私はまだまだお姉さまの足元にも及びません。でもいつかはお姉さまを超えます。そのためにも様々なものを見聞きし、今はより自分を研鑽すべきと思ったのです!」
やっぱり微塵も揺らいでない。
「良いんじゃない?」
するとアーリィが声を上げた。
「良いのかよ?」
「旅は大勢の方が楽しいしさ!」
「まぁそりゃそうだけどよ」
「私もハーパーの同行に賛成でぇす」
ジムさんは馬から降り、俺へ耳打ちをする。
「ハーパーがいればいざという時お金に困らないのでぇす。なってたってアンダルシアンでも指折りのお金持ちなのでぇすから!」
「ジムさん、ハーパーの金目当てですか?」
ジムさんは胸を張った。
「当然でぇす!世の中金なのでぇす!」
「何の話をされてるのですか?」
ハーパーはきょとんとした表情で聞く。
「いや、何でもないよ。じゃあ本当に良いんだな?」
「はい!」
ハーパーは再び胸を張り出す。
「不肖ハーパー=アインザックウォルフ!ワイルド様にお供させて頂きます!この私が加わったからにはどんな強敵が現れても鬼に金棒!実はこの私、何を隠そう快傑ゴー……」
その時ローゼズがハーパーへ近づいた。
「ハーパー」
「なんですか?これからが良いところなの……」
ローゼズは突然構えを取った。そして、
「グッ(G)っと踏み込み、ガッ(G)と快傑!人呼んでさすらいのヒィーロォー!……快傑ゴォールドゥッ!」
何故か快傑ゴールドの名乗りの真似をした。
なんだ、こう冷静になって見てみると、
―――すっげぇ恥ずかしい……
実際、名乗りの真似をしたローゼズも頬を真っ赤に染めている。
「い、いきなりどうしたというのですかローゼズ?」
「これ、凄く恥ずかしい……良くできたと思う」
「えっ……そ、そうですかぁ!?」
突然ハーパーは悲鳴に似た声を上げ、顔を真っ赤に染めた。
「うん。一体こんな恥ずかしいポーズ平然とできる快傑ゴールドの正体誰だろう?」
「ッ!」
たぶん、きっと、おそらくローゼズはハーパーが快傑ゴールドだってことに気づいていて、わざとからかっているんだと思った。
「で、ハーパー、続き」
「つ、続き?」
「ハーパーは実は隠そう……何?」
「!!」
―――そりゃ名乗りのポーズを恥ずかしいと言われりゃ、名乗り出せないわなぁ……
「ハーパー何!?」
しかしローゼズは執拗に迫る。
「そ、それは……うわぁ~んワイルド様ローゼズがいじめますぅ~!」
「のわっ!!」
ハーパーが俺に飛びついて来た。すると背後から恐ろしいほどの殺気を感じる。
「ハーパーあんた!」
アーリィも馬から飛び降り、
「ハーたん!旅の同行は許しますですけど、ワイルドとイチャイチャするのはダメです!」
ジムさんもまた俺とハーパーへ迫る。
「ハーパーずるい!」
ローゼズもまた俺へ飛びかかってくる。
そこから一時間程度の記憶が曖昧になった俺。
ハーパーを加えた俺たち五人は、次の【遺跡】を目指して、再び荒野に旅立ってゆくのだった。




