ChapterⅣ:仮面のその下 ①
【VolumeⅡマスク・ザ・G―ChaptreⅣ:仮面のその下】
「大体ワッドが知らない人のところへホイホイ行っちゃうのがいけないんでしょ!!」
耳元でアーリィが喧しく(やかましく)そう叫び、アインザックウォルフ邸の豪華な食堂に遠慮なく声が響く。
「悪かったって」
「ワッドは黙っていなくなっちゃうし、ローゼズはワイルドがアインザックウォルフに連れ去られたっていうし、屋敷に乗り込んでみればワッドなんか変なことしてたし!」
最後の部分だけ妙にアクセントが強かった。そしてそれはハーパーの部屋での出来事を思い出させ、顔が火照った。近くに座っていたハーパーもまた思い出して恥ずかしくなったのか、顔を俯かせる。
「だ、大体、いきなり扉を蹴破って来る奴があるかよ!それにジムさんもローゼズもいきなり攻め込んでくるなんてどういうつもりだったんだよ!?」
せめてもの反抗。しかし俺をジロリと睨む、アーリィ、ジムさん、そしてローゼズの視線は和らがない。
「も、元々はバーンハイムが全ていけなかったのです!」
顔を真っ赤にしたハーパーが立ち上がった。
「あいつが私の預かり知らないところで勝手にワイルド様拉致してこのような事態を招いたんです!この度は私の従者がとんだご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!」
そういってハーパーは深々と頭を下げたけど、
「そういうハーパーもなんだかベッドでワイルドと楽しそうにしていたでぇすよねぇ?」
ジムさんがジト目でそう言い、
「ハーパーずるい!」
ローゼズは頬を膨らませ、
「や、やっぱワッドあそこでなんかしてたんでしょ!!言いなさい!正直に白状しなさい!!」
アーリィは何故か顔を真っ赤に染めながら俺の肩をがっしり掴み、ものすごい力で前後に揺らす。
「や、だ、だから、俺は別にハーパーとは!!」
「なんでそこで吃るのよ!!」
「だから!」
「まぁまぁアリたん、そこまでにするでぇす」
ジムさんがアーリィの肩を掴む。アーリィは鬼の形相のままだが、それでも渋々俺を開放した。ジムさんに感謝。
「ワイルド後でお姉ちゃん達がゆ~っくり尋問するから覚悟するでぇす。」
「そうですね、あとでゆ~っくり何してたか話してもらいましょうね。ローゼズ、あんたも手伝うのよ!」
コクリ!
前言撤回したい俺だった。
「それは君もですよ?」
ジムさんが今度はハーパーをジト目で睨んだ。
「わ、私もですか!?」
「当然でぇ~す。馬の調教で慣らした私の実力を舐めるでなぁいですよ?」
ジムさんが邪悪な笑みを浮かべ、自然と嫌な冷や汗が出た。
「ワイルド様ぁ~!」
すっかり怯えたハーパーは立ち上がり、ジムさんの視線から逃れるように俺の背中へ隠れる。
「お、おい、ハーパー!」
「おだずげぐだざいばいるどさま(お助けくださいワイルド様)!」
すっかり怯え切ったハーパーは泣き出している。そんなハーパーを見て、ジムさんはより邪悪な笑みを顔面一面に湛えた。
「ほほう、この状況でもワイルドといちゃいちゃするでぇ~すかぁ。いい覚悟です!アリたん、この娘を引っ捕えるです!」
「アイアイマム!」
ジムさんとアーリィががゆっくりとにじり寄ってくる。
「皆様、大変お待たせ致しました」
その時、食堂へ続く扉が開き、涼しい表情を仮面のように貼り付けたバーンハイムがワゴンを押して入ってきた。バーンハイムはワゴンの横へ立ち、深々と頭を下げた。
「この度は私のせいで皆様方には大変ご迷惑をおかけしたことを大変申し訳なく思っております。つきましては非礼のお詫びとしてこちらをお召し上り頂きたく存じます」
バーンハイムがワゴンにかけられていたクロスを剥ぎ取る。ワゴンの上には、色とりどりで大量の、美味しそうな菓子類とお茶のポットが乗っていた。
「まぁ、そういうことなら尋問は後にするですね!アリたん、お座りです」
「はぁ~い」
なんだかアーリィはすっかりジムさんの飼い犬になっているみたいだった。
ジムさんは邪悪な笑みを、一瞬で輝く瞳に変えた。どうやらバーンハイムが持ってきたお菓子が気になるらしい。
それぞれの席へ着き、バーンハイムが慣れた動きで菓子とお茶を配膳してゆく。そして夜会が始まった。
出されたケーキは本当に美味しかった。甘すぎず、上品で、さすが名家アインザックウォルフが用意しただけはあると思う。そんな俺の感想と、他のみんなの感想もどうやら一緒のようだ。ケーキを頬張るみんなの顔は、どれも嬉しそうだった。
「んー!んー!」
特にローゼズは大喜びなようで、夢中になってケーキに向かっている。
「美味しいですか?」
ローゼズの隣に座っているハーパーは微笑みながらそう聞くと、
コクリコクリ!
「そう、なら良かったです。よかったら私のも食べますか?」
「良いの?」
「ええ。素晴らしい剣技を見させていただいので、そのお礼です」
「ありがとう。ハーパーもすごくカッコイイ剣技だった!」
「そ、そう?ローゼズの剣裁きも素晴らしかったですよ!」
フルフル
「わたしまだまだ。ハーパー、今度剣教えてくれる?わたしもっと剣も上手くなりたい!!」
「ええ!良いですよ!じゃあ代りにローゼズは私に銃を教えてくださいね?」
コクリコクリ!
「アーリィ、ジム!」
ローゼズがアーリィ達を手招きした。二人は少し席をハーパーへ寄せる。
「こっちがアーリィ=タイムズ、こっちがジム=ビーム。これハーパー=アインザックウォルフ」
「ちょっとローゼズ、人をこれ呼ばわりは……」
アーリィが苦笑いを浮かべるが、
「いいですよタイムズさん。そんな細かなこと私は気にしませんので!」
「懐深いんだね」
「剣を交え、ローゼズがどんな人かなんとなく分かったんです。今のは悪意はない。私はそう思います」
「あはは!なんとなくそれわかるよ!あたしもさっきバーンハイムさんと拳を交えて、あの人が純粋にこの屋敷を守ろうとしていたって思ったしね」
「まぁ、タイムズさんにはご迷惑おかけしましたけど……」
「気にしてないから。こっちも早とちりだったし。あと、あたしのことはアーリィで良いからね!」
「はいアーリィさん!私もハーパーと呼んでください!」
「ほぅ~う、女狐はアリたんも懐柔したでぇすね」
ジムさんがにやりとした笑みを浮かべハーパーを見る。ハーパーは少し震えて、身構えた。
「まっ、良いです。おいしいお菓子も頂きましたし。ジム=ビームです。宜しくです」
「ビームって……もしかしてハイボール牧場の?」
「そうですが?」
「ビーム家の名声はこちら(東海岸)にも届いております!なんでも西海岸では常に名馬を生み出す素晴らしい家系だとか。それにこのケーキのクリームはハイボール牧場から取り寄せミルクで作りましたの!」
「よくわかってるのです。日々、ビーム家が丹精こめて動物を飼育してるですからね」
「ここでお会いしたのも何かの縁!是非、アインザックウォルフを経由してハイボール牧場の素晴らしさを東海岸にも広めませんか?」
突然、ジムさんの耳がピクリと動いた。
「条件は?」
「7:3で構いませんわ。輸送は当家のアインザックウォルフ商会が最近配備を開始した自動車で行いたいかと。あとは船便で馬の輸送もしたいと思っております」
ジムさんは立ち上がり、そしてハーパーの手をがっちりと握り締めた。
「是非!宜しくお願いするです!」
「もちろんです、ジムさん!」
ジムさんの目には相変わらず現金が見え隠れしていた。
「あらぁ?ジムさん、ここでも商談成立かしら?」
ゆらりと、どこから現れたのかジョニーさんが食堂の入口にいた。
「ジョニーなんで?」
ローゼズが不思議そうに首を傾げる。
「バーンハイムさんに呼ばれてね」
「ジョニーさんはこの街の医者も兼ねてらっしゃるのですよ。本当に素晴らしい腕の持ち主なのですから」
ハーパーがそういうと、ジョニーさんは、
「あ、でも、ここで褒めても武器は作んないからね」
「それはまた別の機会にしましょう。今はお茶を楽しみませんと」
「わかってるじゃない」
「それぐらいは弁えているつもりです」
「まぁ、この様子だとみんな平気そうね。じゃあ私もお相伴に預からせて貰おうかしら?」
音もなくバーンハイムがジョニーさんにもケーキとお茶を配膳する。
ジョニーさんも加わり、テーブルの向こうはすごく楽しそうだった。
だけど、テーブルの反対側に座っている俺は何故か一人ぼっち。なんだかさっきからずっと置いてきぼりを食らっているような気がする。
ちょっと寂しいけど、でもテーブルの向こう側でみんなが笑っているのは、それはそれでいい事だと思った。
普段は口数が少ないローゼズだけど、みんなに囲まれて嬉しそうに笑っている。
そんなローゼズやみんなの顔を見て、嬉しく思う俺がいるのは確かだった。
「皆様ご満足いただけたようで何よりです」
「のわっ!」
いつの間にか俺の背後にいたバーンハイムさんが声をかけてきた。
「いきなり声かけないでくださいよ!びっくりするじゃないですか!」
「申し訳ございませんでした。そこまでワイルド様が皆様に見とれているとは思ってもおりませんでしたので」
「み、みとれてなんかいませんよ」
「お嬢様をですか?」
「だからなんでハーパーなんだよ……」
「申し訳ございません。それは私でした」
「えっ?」
「不肖バーンハイム、アインザックウォルフにお使えしてはや二十数年になりますがお嬢様があのような顔をされるのは久々に拝見いたしました」
「そうなのか?」
「はい。お嬢様は長い間……孤独でいらっしゃいましたから」
初めてバーンハイムさんの声のトーンが少し下がったような気がした。
「もしかして小さい頃両親と姉を亡くしたからか?」
「ご存知でしたか」
「さっきハーパーから聞いて」
「勿論、幼い頃先代当主様とフランソワ様……ハーパーお嬢様のお姉さまを同時に亡くしたこともあります。ですが、一番の原因は当家の家訓にあります」
「家訓?」
「『力あるものは他の模範となるべし』この家訓に従い、お嬢様はずっとあらゆることで一番になり、他の模範となるため努力をされてきました」
そういえばハーパーはずっとローゼズに対抗意識を燃やしていた。
たぶん、そうした態度はこの家訓が元にあるんだろう。
「殆どはお嬢様の努力通りそうなっております。ですが、そうした人間をワイルド様はどうお思いになられますか?」
「正直、何も知らなきゃとっつき難いよな」
「仰る通りです。お嬢様は多くの方より尊敬されております。しかし、お嬢様と同じ目線に立って話せる人間はここ(ロングネック)には一人もおりません。でも、今目の前にいらっしゃるお嬢様はローゼズ様達と一緒の目線でお話をされているように私には見えるのです」
テーブルの向こうでは、相変わらずハーパー達が楽しそうに話をしていた。時には笑い、時には少し怒ったような。ただ凛然としている、とっつき難そうな彼女はそこにいない。ジョニーさんの研究所前で、初めて会ったハーパーの印象と、今俺が感じているハーパーの印象はまったく違いものになっていると思う。
「ワイルド様、本日はお越しいただいて本当にありがとうございました。そしてこれからもどうかお嬢様のことを宜しくお願い致します」
そういってバーンハイムさんは深々と頭を下げる。
正直、言葉の最後の部分が妙に気になって仕方がない。
「た、大切な人ですって!?」
突然、ハーパーの素っ頓狂な声が聞こえ、俺の視線はテーブルの向こうへ移る。
ハーパーは一人立ち上がり、肩を震わせながらローゼズを見下ろしていた。
「ワイルドはわたしの大切な人、とってもとっても大切な人!」
「ちょぉっと待つでぇす、ロゼたん!」
今度はジムさんが椅子の上に立った。
「私とワイルドは将来ハイボール牧場一緒に経営しようと約束した中です!」
「ええっ!!??」
再びハーパーが悲鳴にも似た声を上げた。ハーパーは視線をゆっくりとアーリィへ傾ける。
「をえ!?あ、あたし!?あたしは、ワッドの幼馴染だけど……その……!」
何故かアーリィは顔を真っ赤に染めて、チラチラと俺の様子を伺っているように見えた。その時突然、俺へ誰かが抱きついてきた。
「ジョ、ジョニーさん!?」
「ふぅん、近くでみれば確かに沢山の女の子を手篭めにできそうね。この大胸筋なんて素晴らしいじゃない」
「あひゃ」
ジョニーさんの指先が俺の胸を、触れるか触れないかの強さで撫でる。
「それに可愛いけど男らしい顔つき……あの小さい子がいい男になったわね」
すごく近くにジョニーさんの顔があった。妖艶な顔つきは俺をその場に縛り付ける。
「なにしてるですか!幾らビジネスパートナーとはいえ、許しがたいです!」
ジムさんが椅子の上で叫ぶ。ローゼズ、ハーパー、そしてアーリィの視線が何故か突き刺さる。
「さぁ、ワイルド君一緒にお風呂に入りましょうねぇ」
もはやなされるがまま、俺はジョニーさんに手を引かれ、フラフラと食堂を連れ出される。そのまま手を引かれて連れ込まれた先は、何故かお風呂場だった。
大理石で固められた豪華な脱衣所に暫し圧倒される俺。
「ほら、早く脱ぎなさいよ」
「えっ!?」
気が付くと目の前のジョニーさんは何故かバスタオルを一枚羽織っただけの姿でいた。アーリィと同じくらい胸は無いが、なんというか、大人の色香がそんなことなんてどうでも良いと思わせるほど、視線は釘付け。そうなってようやく俺の思考は正常に戻り、この異常事態を認識する。
「なっ!ななな、なんなんですか!これは!?」
「何って、お風呂に入るに決まってるじゃない?バカなの?」
「いや、バカとかそういう問題じゃなく……ッ!?」
急に後ろから手を引かれた。視界が急に暗転し、顔にとっても柔らかい感触を感じる。
目に前に見えるはとてもとても深い胸の谷間。
「ダメ!わたしが一緒に入る!」
何故か俺はバスタオル一枚になっているローゼズに抱かれていた。髪を下ろしているローゼズは妙に新鮮で、自然と耳が熱くなる。
刹那、頭上に鋭い気配を感じる。
俺は思わずローゼズを突き飛ばし、後ろへ飛び退く。さっきまで俺とローゼズの居たところへ鋭く風呂掃除用のブラシが叩き付けられていた。
不意に再び肩に感じる柔らかい感触。
「ワイルド様!先ほどお礼に私が御背中をお流ししますね!」
ハーパーだった。ハーパーもまたバスタタオルを一枚羽織っているだけ。しかもローゼズか、いや、それ以上の谷間が目の前にある。
―――やば、鼻の奥がひくひくする……!
その時、脱衣所へ何かが投げ込まれた。投げ込まれたソレは爆発音と共に壮絶な光で脱衣所を覆い尽くす。俺は再び手を取られ、成すがまま、成されるがまま走る。
飛び出した先は、たっぷりと湯の張られた石造りの露天風呂。
迷う暇もなく俺はそのまま湯船へドボン。
「ぷはっ!な、なんだ!?」
湯船の底から這い出るの同時に三度目の柔らかい感触を肩に感じる。
「さっ、脱ぐです。お姉ちゃんとゆっくりお風呂に浸かるです」
ジムさんだった。しかもバスタオルはおろか何も着ていない。
「早くするです、ワイルドぉ~」
ジムさんは遠慮なしに胸を押し付ける。つーか、まずい、胸のなにがしがピンポイントで当たってる!?もはや俺の思考は破滅寸前。
「ずるいッ!」
湯煙の奥から赤い影、ローゼズが飛び出してきた。ローゼズは手に持ったリボルバー型の水鉄砲を物凄い勢いで放つ。神速の銃撃は水鉄砲でも健在で、水の弾幕がジムさんへ向けて降り注ぐ。
「ふふん、ロゼたんがそう来るのは計算済みでぇす!」
しかしジムさんは木の桶を翳し、ローゼズの銃撃を見事防いだ。
「ハーパー今ッ!」
ローゼズが叫んだ。湯煙の向こうから鋭い殺気が躍り出る。
「てぇぇぇぇ!」
「ハーパー!」
ローゼズが屈み、ブラシを持ったハーパーが飛んだ。ローゼズの肩を踏み台にし、高く夜空へ舞い上がり、ブラシを剣のように上段へ構えた。
「縦ぇ!一文字斬りぃぃぃ!」
「のわっ!?」
ハーパーの鋭い一撃は俺とジムさんを分断した上に、更に一瞬湯船さえも分断した。
ハーパーの恐ろしさに震えを感じる。しかしそんな震えは再び肩に感じる柔らかい感触で吹っ飛んだ。
「ワイルド様、私が御背中をお流しします」
ハーパーだった。
「ハーパーずるい!」
今度はローゼズが反対側から抱きついてくる。
「仕方ありません。ではローゼズ、この場は半分にしませんか?」
「半分!それで良い!」
「お姉ちゃんも忘れちゃ困るです!」
背中にはジムさんが。
全身のあらゆる方向から柔らかい感触に襲われる俺。もうなんだか良くわからないが、気持ちが良いのは確かだった。
「アリたん何してるですか―早く来るですぅー!」
「あ、あ、はい!」
ジムさんがそう叫ぶと、湯煙の向こうからおずおずとアーリィが姿を見せた。アイツもみんなと同じバスタオル一枚。しかし、相変わらず残念なまな板だった。
「はぁ……」
思わずため息が漏れてしまう。しかしお蔭で思考は正常に戻った。
「ワッド……今ため息付いたでしょ!!」
「あっ!?」
鋭い殺気を感じたかと思えば、鬼の形相のアーリィが俺に最接近していた。
「こんのぉ、デリカシーゼロ男ぉッ!」
顎への衝撃。何故か宙を舞う俺の体。目下では拳を振り上げたアーリィの姿。
俺は真っ逆さまに湯船へ再びドボン。
いきなりアッパーを仕掛けてくるなんて、なんて乱暴な、と文句の一つでも言ってやろうと勢いよく湯船から顔を出す。
「アリたん何するですか!」
「そうです!ワイルド様がお怪我をされたらどうするおつもりですか!」
「アーリィ、めっ!」
ジムさん、ハーパー、ローゼズがアーリィに詰め寄っていた。
「あ、い、いや、つい!」
「制裁決定でぇす!ロゼたん、アリたんを速やかに拘束するでぇす!」
コクリ!
「ちょ!?ロ、ローゼズ!?」
「ハーたん君は下を責めるでぇす」
「承知!」
「さぁ、アリたん調教の時間でぇすよぉ~」
「うわぁぁぁ~~~!!ワッドぉ~助けてぇぇぇぇ!」
絶叫の先に聞こえた、妙に艶めかしいアーリィの声を聞いて、さすがに反応してしまう。もくもくと立ち込める湯煙の先では何が行われているのか、男子の俺には想像もできない。
「がははは!やれーもっとやれー!」
ジョニーさんはいつの間にか酒を用意し、飲みながら湯船に浸かっている。
どうしようもない状況なだけに俺は大人しくするほかすることは無い。
でも……なんとなく嬉しい気持ちの俺がいた。
湯煙の向こうから聞こえるローゼズやみんなの楽しそうな声。
―――ローゼズやみんなにはこれからもこうして笑っていてほしい。
「あっ、んっ、いやっ!やめ……ワッド助けてぇーーー!!」
「ッ!?」
っと、その時湯煙の向こうから顔を真っ赤に染め、涙目のアーリィが飛び出して来た。
「助けてお願いワッドぉ!」
アーリィは泣きじゃくりながら俺の背中へ隠れる。まな板とはいえ、多少はあるもの。
「なっ!」
アーリィの感触に思わず心臓をどきりと鳴らしてしまう。
「アリたぁ~ん、この期に及んでワイルドにせまるでぇすかぁ~!」
湯煙の向こうから邪悪な声が聞こえる。
「ロゼたん、ハーたん行くです!」
「「アイアイマムッ!!」」
すっかりジムさんの犬になった―――むしろ軍用犬―――ローゼズとハーパーが湯煙の向こうから飛び出してくる。
「アーリィてめぇ、こんな時ばっかり助けを求めんなぁー!」
この後の記憶は正直あまりない。




