ChapterⅢ:ハイボール牧場の決闘 ④
朝靄が立ち込め、
少し先の風景はわずかばかり陰影を浮かべているだけだった。
そんな中で母屋からアーリィが、
車輪付きの木箱を引きずりながら出てきた。
「遅いぞ」
「ごめん、ちょっと整備に手間取っちゃって」
いつもおどけた様子のアーリィだが、
今日は真剣な瞳の色をしている。
さすが保安官候補だと改めて思った。
「整備って何の?」
「これこれ」
そう云ってアーリィは木箱を指すけど、
なんのことだか分からない。
「これで全員ですね?」
レバーコック式のライフルを手にしたジムさんが、
全員へ目配せをする。
ローゼズ、アーリィ、フレッドさんと奥さん、
そして俺はそれぞれ頷き返した。
「それじゃ……!」
アーリィは引きずってきた木箱を開ける。
そこには巨大な筒があって、鈍色の輝きを放っていた。
回転式連装砲、
いわゆるガトリングガンと呼ばれる重そうな装備をアーリィは軽々と持ち上げた。
「そんなのが入ってたんだな」
「こういうこともあるだろうなぁって思ってね。念のために」
「念のためにしちゃ随分大きいよな」
「大は小を兼ねるって言うじゃない!」
「そういうもんか?」
「そういうもん! 加えて備えあれば憂いなし!」
会話を交える俺とアーリィへ、
少し冷たい視線が向いていると気がつく。
ローゼズだった。
彼女の視線はアーリィのガトリングガンへ注がれている。
「安心してください、私は保安官候補ですから。こんな装備を持っててもローゼズさんの意思はちゃんと尊重しますから」
アーリィがそう言って微笑んで見せると、
ローゼズの視線から冷たさが消えた。
どうやらローゼズはアーリィのことを信頼しているようだった。
「さぁ、時間です! 配置に付きましょう!」
「うん!……」
ジムさんとペアを組むことになっているアーリィは、
そう受け答えるが立ち止まりこっちの方を見ていた。
さっきまでは引き締まっていた視線が、
なんか妙に緩まっているように思うのは気のせいだろうか?
「アリたんダメですよぉ、そんな目しちゃ。ワイルドとロゼたんが組むのはこの作戦に必要なことなのですから!」
「わ、わかってますって! ワッド!」
アーリィは何故か頬を赤らめていた。
「危ないことしちゃダメだからね! 怪我も許さないからね! 良いね!?」
「言われなくても気をつけるって。お前こそいつもの調子で転ぶんじゃねぇぞ」
「転ばないもん! 大丈夫だもん!」
「まっ、お互い頑張ろうぜッ!」
親指を立ててみせると、
アーリィもはにかみながら同じ動作を返してきてくれた。
アーリィはジムさんと共に朝霧の中へ消えて行く。
「皆さん、くれぐれも無茶はしねぇでくだせぇ。おねげぇします」
「フレッドさんこそ、息子さんやジムさんのためにも危ないことはしないでくださいね」
俺の言葉にフレッドさんは親指を立てて了承した。
フレッドさんと奥さんもまた朝霧の中へ消えてゆく。
「俺たちも配置に付こうか」
コクリ。
俺とローゼズもまた朝霧の中へ入っていた。
母屋を囲む柵を超えるとすぐ手前には塹壕が設けられていた。
俺とローゼズはそこへ入り、身を隠し息を殺して、
その時を待った。
俺は腰元に括りつけた縄が絡まっていないか確認する。
その指先はわずかばかり震えていた。
それは恐怖なのか、武者震いなのかは分からない。
しかし心臓はいつも以上の鼓動を発していて、
呼吸はまるで走ったあとのように乱れていた。
「大丈夫。わたしが守る。ワイルドはワイルドの仕事をちゃんとしてくれれば良い」
ローゼズの瞳は既に賞金稼ぎの輝き方になっていた。
しかしどこか、初めて会った時よりも温かみを感じる。
すると不思議なことに指の震えが止まった。
――信じよう、ローゼズのことを!
俺は塹壕の中で小さく深呼吸をして、
気持ちを落ち着かせた。
朝陽が上り、朝靄が次第に履けてゆく。
すると遠くから馬蹄の音が聞こえてきた。
音の数は瞬く間に増え、ハイボール牧場へは無数の馬蹄の音が響き渡る。
やがて馬蹄の音が止んだ。
塹壕から少し顔を出して正面の様子を伺ってみる。
予想通り二十数名はくだらないゴールデンプロミスの構成員が、
うすら笑いを浮かべながらそこにいた。
だがそんな集団の中心は凛然とした空気に包まれていた。
男であるにも関わらず髪を後ろで結った屈強そうな男が三人、
何かを担ぎながら佇んでいる。
彼らはアンダルシアンでは全くみたことの無い袖の広い上着に、
裾が広がったズボン
――以前、たまたま本で見た"和装"――
を身にまとっていた。
ガンベルトの代りに、腰には帯を巻き、
そこへ東方鎖国独特の武装 刀剣を差している。
東方鎖国の戦士"武士"の三人は担いでいた何かをそっと下ろした。
朝霧の向こうから担ぎ台に座った何者かが姿を現す。
「やぁや妾こそは東方鎖国鳥居藩藩主が娘、竹鶴であるぞ!」
甲高く幼い声が高らかに響いた。
幼さはあるが、勇ましいその叫びに俺の背筋は震えた。
朝靄が次第に履け、そして小さな少女が姿を現した。
ガラス玉のような輝きを持った黒く丸々とした瞳。
緑を主とした和装は、少女を囲む三人の武士よりも煌びやかだった。
おかっぱ頭の凛然とした少女:竹鶴は手にしていた謎の木片
――あれは確か本で見た"しゃもじ"っていうものだっけ?――を高く掲げる。
「牧場主よ! 妾の文を読み、どの答えに至ったかお聞かせ願おう!」
竹鶴の声が高らかにハイボール牧場に響き渡る。
が、俺たちは息を潜め続けた。
「なるほど! それが其方らの答えなのじゃな? あいわかった。ならば!」
竹鶴は再びしゃもじを強く空へ向かって掲げた。
竹鶴の座る担ぎ台が地へ降り、
それを担いでいた三人の武士が、
腰に差した刀剣の柄を握りしめ腰を落とす。
「父上が決めた生類庇護の令に従い、妾は馬さん牛さんをこの地より解放すると宣言する!」
一気に空気が張り詰めた。
ローゼズはビーンズメーカーのグリップに手をやり、
俺は縄を握り締める。
「いざ参らん! 妾の力を思い知らせるのじゃ! 行け響、山崎、白州!」
「「「オオオ―――ッ!!!」」」
三人の武士が勇ましい声を上げ、そして始まった。
竹鶴の周りにいたゴールデンプロミスの構成員は、
奇声を上げながら空へ銃を放ち、
一斉に馬の轡を揺らす。
無数の馬蹄が砂煙を上げながら、
ハイボール牧場の母屋の前に設置した藁の壁へ接近してくる。
敵がある程度、藁の壁に近づいたところでローゼズは手で合図を送った。
すると、左の塹壕に隠れていたアーリィが姿を現す。
「保安官舐めんなぁ!」
アーリィのガトリングが火を噴いた。
毎分200発を放つ銃身が高速で回転し、
接近してくるゴールデンプロミスヘ数えきれないほどの銃弾を撃ちこんでゆく。
激しいガトリングの発射音と跳弾の音はゴールデンプロミスが乗る馬を動揺させる。
馬が暴れ、手綱で制御できなくなった無法者は、
地面へと次々落ちてゆく。
しかしアーリィの射撃は止まらない。
更にジムさん、フレッドさんと奥さんまでもがライフルでの射撃を始めた。
ゴールデンプロミスは次々と落馬し、
激しい銃撃に堪らず、
牧場前に設置した藁の壁へ逃げ込んだ
―――だがそれでも牧場の土は一切血で染まってはいなかった。
ローゼズの指示通りアーリィ、ジムさん、そしてフレッドさんと奥さんは、
わざと狙いを外して銃撃をしていたのだ。
四人はアーリィのガトリングを中心に銃撃を繰り返す。
「行くッ!」
「おう!」
ローゼズが塹壕から飛び出し、
俺もそれに続いた。
藁の壁から何人かのゴールデンプロミスが発砲を仕掛けてくる。
「もっと右!」
ローゼズの言う通り、少し右へ軌道修正。
すると俺の脇を銃弾がすり抜けてゆく。
冷やりと緊張の汗が俺の背中を濡らすが、
そんなのは一瞬の出来事。
回避できなかった銃弾の軌道に合わせてローゼズは、
ビーンズメーカーを放った。
豪速の豆は鉛弾を打ち、軌道を逸らす。
そんな神技の銃撃をローゼズは平然と繰り返しながら、やがて飛んだ。
ローゼズの跳躍に驚いたゴールデンプロミスは一斉に顔を上げる。
その隙にローゼズは素早くハンマーを連続でコックし、
シリンダーに収めされている豆を全て放った。
全ての豆はゴールデンプロミスへ命中し、奴らを無力化する。
ローゼズは手早く豆の装填を済ませ、
まるで機関砲のように銃撃を繰り返していた。
圧倒的な力だった。
ローゼズの動きを追うだけでも精一杯の俺だった。
俺は豆を打ち込まれ気絶したゴールデンプロミスを、
一人一人縄で拘束してゆく。
だがそれでも多勢に無勢。
ローゼズの背後で一人の敵が無防備な彼女の背中へ銃口を向けていた。
「させるかよッ!」
俺は縄を放って、敵の腕を拘束する。
敵の手から銃が落ちた。
俺はそのまま縄を引き、敵を地面へ叩きつける。
その間にローゼズは五人もの敵を無力化していた。
ロ ーゼズが銃撃を繰り返し、俺が縄で次々と拘束してゆく。
二十数名いたゴールデンプロミスは瞬く間に縛り上げられ、
無力化されてゆく。
「とぉりゃぁ!」
野太い声と殺気を感じた俺は思わず後ろへ飛び退いた。
鋭い軌跡が俺の前へ過り、前髪が数本散る。
目前には巨漢の東方の武士の一人が、
刀剣をまっすぐ構え、俺を睨みつけていた。
その瞳は猛禽類を思い起こさせ、
俺の背筋を自然と凍らせる。
「大丈夫!?」
ローゼズが俺の前へ立ち、
銃口を巨漢の武士へ突きつけた。
巨漢の武士の背後から、
長身の武士と中肉中背の武士に付き添われた竹鶴が姿を現す。
「ほぅ、そなたらあっぱれじゃ。かような戦力差をたった数人で覆すとは。ならばこっからは妾たちとの一騎打ちじゃ!」
竹鶴はしゃもじを俺とローゼズに突きつける。
「妾の力を思い知らせるのじゃ! 行け、響、山崎、白州!」
俺とローゼズは地を踏み構える。
だが三人の武士はなかなか動かない。
「……姫様、一つよろしいでしょうか?」
「なんじゃ響! こんな時に!」
巨漢の武士に竹鶴姫は怒鳴り散らす。
「いえ、例え異国の地といえどもこれは一騎打ち。拙者は武士としてまずは名乗りを上げるのが道理かと思いまして」
巨漢の武士がそう提案し、
「たぁ~しかに兄者の言うとおりだねぇ。俺もそう思うよ姫さん?」
長身の武士はニヒルな笑みを浮かべながらそう言い、
「そうですそうです! 兄者方の言うとおりと自分も思います姫様!」
中肉中背の武士が同意する。
「ええい! 勝手にするのじゃ! はようやれ!」
竹鶴姫はやや面倒くさそうにそう云ったのだった。
「「「ははっ!!!」」」
再び、巨漢の武士が向き直ってきた。
「お初にお目にかかる。拙者、東方鎖国鳥居藩余市城御庭番頭目・響 九十郎と申す!」
巨漢の武士:響に続き、
「同じく御庭番・山崎 発芽。よろしくねぇ~」
長身に武士:山崎が名乗り上げ、
「同じく御庭番!白州 麦芽! さすが兄者方! ご立派な名乗りで!」
中肉中背の武士:白州が何故か最後に響と山崎のことを賞賛していた。
「フォア・ローゼズ!」
すると影響されたのか、ローゼズまで名乗りをあげていた。
暫くしてローゼズの視線が俺へ傾く。
「やんなきゃダメ?」
「こっちもしなきゃ失礼」
「まぁ、そうだけど……」
ちょっと気恥ずかしい気もするが、俺は、
「ワ、ワイルド=ターキーだ!」
すると響は満足そうな笑みを浮かべた。
「異国の地でも名乗りに応じてくれるか! あっぱれ! これで心置きなく戦えるというもの!」
しかし響の笑みは一瞬で消え、
その眼差しは猛禽類のソレへ戻る。
「其方らに恨みはござらんが、竹鶴姫様の命に従い切らせていただく! ……山崎、白州、奴に嵐の陣を仕掛ける!」
「「応ッ!!」」
一列に並んだ武士達が接近してくる。
一瞬、先頭の武士・白州が刀剣の柄を握り締める。
僅かばかり磨き抜かれた刀身が見えたかと思うと、
俺の視界は一瞬で真っ白に染まった。その中で揺らめく影が見える。
危険を察知した俺が身を逸らすと、
長身の影と共に刀剣が鋭く振り落とされる。
更に横からの殺気を感じる。
既に俺の目の前には巨漢の武士・響が刀剣を上段に構えていた。
刀剣の鋭利な輝きに俺の背筋は一瞬で凍る。
刹那、鋭いビーンズメーカーの炸裂音が聞こえた。
響の体勢が少し崩れ、俺の前を刀剣の軌道が過ぎった。
俺はそのまま身を投げ、地面を転がり、距離を置く。
少し離れたところには地面へ刀剣を打ち付けた姿勢でいる響の姿があった。
――今のはなんだったんだ?一瞬、視界が奪われた途端、急に攻撃が?
訳がわからなかった。
だが、相手はゴールデンプロミスの無法者など足元にも及ばない手練。
それだけは確かにわかった。
「行くよ!」
気が付くと、刀を構えた長身の武士・山崎が接近していた。
殺気を感じた俺は飛び退き、山崎の斬撃を避ける。
「ワイルド!」
すると俺から少し離れたところにいたローゼズが、
山崎へ銃口を向ける。
「山崎兄者の邪魔はさせん!」
「ッ!?」
中肉中背の武士・白州がローゼズへ斬りかかる。
間一髪のところで避けたローゼズだったが、銃口は山崎から外れる。
「余所見はだめだよお兄ぃさんっ!」
再び山崎が突進を仕掛けてきた。
山崎は二段、三段と斬撃を繰り返し、俺に反撃の暇を与えない。
「案外素早いねぇ!」
「そりゃどうも!」
一瞬、山崎に隙が出来た、
俺は奴の腕へめがけて縄を投げた。
しかし山崎は刀剣を素早く何回も振り、そして鞘へ収めた。
俺の放った縄は一瞬でバラバラに切り裂かれる。
「すごいすごい! まるで東方鎖国で有名な三味線屋の仕置人みたいだねぇ」
「くっ……」
山崎は余裕の笑みを浮かべているが、隙は一切なかった。
しかし刀剣と銃なら距離のアドバンテージでこちらが有利。
自然と俺の右腕は腰下のリボルバーへ伸びる。
「ダメッ!」
ローゼズの声を聴き、反射的に動きが止まってしまう。
ローゼズは俺に合流し、銃口を前へ突きつけた。
「抜いちゃダメ! 殺しダメ!」
「で、でもよ!」
「ダメ! 誰も殺しちゃダメ!」
「誓いは立派! しかし真実から目を逸らしては拙者等には勝てんぞ!」
響が高らかにそう言い放つ。
しかしその瞳は鋭い眼光を宿していた。
「ローゼズ殿よ、刀剣そして銃、あまねく武器は全て殺しを成すための道具!それを持つ者は全て殺戮者と心得よ!」
「っ!」
一瞬、ローゼズの肩が震えたような気がした。
「ち、違う!」
ローゼズは声を震わせながら必死に首を横へ振った。
「何が違うか!武器は所詮殺しの道具! それを扱い、相対する者はいかなる理由があれど殺人者!その真実から目を逸らすでない!」
「違う違う違う!」
明らかにローゼズは動揺していた。
ローゼズは何度も首を横へ振り、響の言葉を否定する。
出会ってから今まで、
ここまで動揺するローゼズの姿を初めて見た気がする。
「違う! わたしは誰もころさない! 絶対にころさない!」
「待てローゼズッ!」
俺の静止を振り切り、ローゼズは飛んだ。
ポンチョを開き、一際長い銃身を持つバレルへ換装して、
シリンダーの中身を全て放った。
銃身から放たれた弾は直進せず、
左右に大きくぶれながら響たちへ向け突き進む。
「変わった軌道だけど!」
「自分と山崎兄者の前には無駄!」
山崎と白州は抜刀し、全ての弾、
――カシューナッツ――を切って捨てた。し
かし、一発だけ撃ち漏らしがあった。
その弾は戦いを見守っていた竹鶴姫へと向かう。
「姫様ぁ!」
響が飛んだ。
大きな体を竹鶴の前へ滑り込ませ、
ローゼズの放った弾を胸で受けた。
「かはっ!」
「響!?」
「ひ、姫様をお守りすることこそ我が使命。加えてかような攻撃、日々鍛錬を欠かさぬ拙者にとってはおもちゃの豆鉄砲と同じこと!」
「お主……」
「拙者は所詮武芸しか脳の無い殺戮者。しかしこの命、この武技、全ては竹鶴姫様をお守りするためのもの!姫様のためでしたら拙者は姫様をお守りするための剣となり盾となりましょう!」
響は咳払いをし、
再び大地を雄々しく踏みつけた。
「ローゼズ殿! 乱心のあまり狙いを外し、事故とはいえ、姫様へ凶弾を放ったこと許すまじき! 山崎、白州参るぞ!」
その時、無数の弾丸が響たちを脇から襲った。
しかし咄嗟に刀を抜いた山崎はその銃弾全てを撃ち落とす。
すると今度は白州が刀を振り落す。
彼に向け進んでいたライフル弾が真っ二つにされ、地面へ落ちた。
「ひゃぁ~全部落とされるなんて!」
「凄い相手なのです!」
「アーリィ、ジムさん!?」
ガトリングを持ったアーリィと、
ライフルを手にしたジムが俺たちに合流してきた。
「敵はこの東方からの迷惑者だけだよ!」
アーリィはガトリングを突きつけた。
「全く隙がないですね……」
ジムさんもまたライフルを構えながら、
苦々しい表情をしていた。
「わたしは誰もころさない……私はだれもころさない!」
ローゼズは気持ちを落ち着かせるためそう繰り返し呟いていた。
肩の震えは次第に収まってゆく。
「大丈夫か?」
コクリ。
いつも通りのローゼズに戻る。
何故響の言葉にあそこまで動揺していたのかは分からない。
しかし今はそれを聞く場面では無い。
俺たちと東方の武士達の間には一色触発の空気が垂れこめていた。
お互いに隙を伺いあっている。
だが、いざ打ち合いともなれば、
例えこっちの武装が銃であっても打ち負ける可能性は十分ある。
――考えろ俺。何かあるはずだ。きっと何かが!
いつ張り裂けてもおかしくはない緊張の中、
俺はここまでの響達との戦いを思い出し、
必死にヒントを探り……そして見えた。
――おそらくそうしなければ響達の隙を生み出すことはできない。
「ええい! なにをもたもたしているのじゃ! 響、山崎、白州! 嵐の陣で一気に決着をつけるのじゃ!」
「「「応ッ!!!」」」
響達は殺気を伴い、隙を殺しつつ、
白州を先頭、間に山崎が入り、最後を響が詰める嵐の陣を敷いた。
――来たッ!
「ローゼズ、アーリィ、ジムさん、俺に考えがあるんだ。ここからは全部俺の言う通りにしてくれないか!?」