ChapterⅡ:決意。そして…… 【ハーパー=アインザックウォルフ】②
夕暮れ時、今日も泥沼のような戦場から私はゴールドメダル号が停泊している島を目指していた。
私に残された唯一の財産である東海岸の無人島に、カイト状のマントで空を切りながら今日も戦いを終え帰還する。
私はゴールドメダル号の甲板に降り立ち、カイト状に広げたマントを着脱した。
「お帰りなさいませ、当主様」
いつも通りバーンハイムが迎えてくれた。
私はマスカレードを外し、怪傑ゴールドからハーパー=アインザックウォルフへ戻った。
「ありがとうバーンハイム。食事の準備は?」
「既に整えております」
「わかりました。直ぐに呼んで参ります」
私は足早に甲板から、船内の自室へ飛び込んで行った。
ゴールドクロスを外し、汗や泥で汚れた体をシャワーで簡単に洗い流す。
身なりを整え、鏡に向かったとき、一瞬そこに誰が映っているのかわからなかった。
顔色が青ざめ、酷く疲れきった表情を浮かべている女。
それが今の私自身と気づくのに数秒要した。
「いけません、こんな顔……!」
自分で頬を叩き、一括入れる。
はっきりとした痛みは私の顔へ生気を蘇らせる。
―――彼のためにも、私は笑顔でいなければ!
私は髪を整え、そしてゴールドメダル号から出た。
ゴールドメダル号(船)から岩礁ばかりの岸へ降り立ち、その向こうにある、鬱蒼と木々が生い茂る森の中へ向かってゆく。
森へ踏み込むと、いつものように奥から絶え間ない銃声と微かな息遣いが聞こえる。
森の奥にある開けたところでは黒い影が縦横無尽に駆け回っていた。
銃声が響き、木の枝からぶら下げられている丸い藁の塊が次々と撃ち落とされてゆく。
数は全てで10。
その内8は真ん中を撃ち抜かれて地面へ落ちるが、残り二つは銃弾が掠っただけで、揺れるだけだった。
「畜生ッ!」
ワイルド様は地面へ降り立つとかがみ込み、悔しそうに地面を拳で叩いた。
右頬に一文字の切り傷が浮かぶ彼の横顔。
その瞳はもうずっと冷たく凍りついたままだった。
出会った頃のような暖かさは、今の彼の瞳には無い。
この島に私と共に逃げ込んだ一年前から、今日までずっとワイルド様はこうして銃撃の訓練に励んでいた。
―――きっとこの訓練はプラチナローゼズを殺すためのもの。
【あの人】を……【アーリィさん】を殺したアイツへ復讐するための……
はっきりと言葉で聞いたことはないが、多分そう。
そして、殺意の裏に見え隠れする彼のもう一つの意思は私の胸を強く締め付けた。
【殺意は殺意を呼ぶ】
一度の殺人はまた新たな憎しみと殺人を呼ぶ。
ローゼズ達と一緒にいたワイルド様は、殺人を強く否定していた。
絶対に犯さないようにしていた。
どんな相手であろうと殺さず、戦い続けてきた。
でも、そんな彼は今明確な殺意を抱いている。
殺人を犯し、その上でそれを否定する行為。
憎しみの連鎖を止める唯一の方法。
―――それは殺人を犯した自らがこの世から消えること……
「どうかしたかハーパー?」
気が付くとワイルド様は私の方をみていた。
私は笑顔を形作る。
「お疲れ様です、ワイルド様!お食事の準備が整いましたよ!」
「……分かった」
ワイルド様はホルスターに銃を収め、向かってくる。
相変わらず、ワイルド様の目は氷のように冷たい。
でも今日はそれが一段と強いと、私は感じていた。




