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ビーンズメーカー ~荒野の豆鉄砲~  作者: DSSコミカライズ配信中@シトラス=ライス
VolumeⅤー再臨の黒ChapterⅡ:決意。そして……
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ChapterⅡ:決意。そして…… 【ハーパー=アインザックウォルフ】①

●ハーパー=アインザックウォルフ●



 また街がひとつ消えた。

家屋は無残にも焼き払われ、そこに暮らしていたいた人々は皆銀兵士シルバーソルジャーの餌食となった。

許しを請うもの、勇敢に戦うものの、皆全て等しく【破壊】の中で【死】を迎えた。

そんな中で私はもう一年以上、快傑ゴールドとして戦いを続けていた。

でも一度守った街であっても、私が他のところへ向かっている間に、その街は滅ぼされ跡形もなくなっていた。

それが今のアンダルシアンの現状だった。

そして私の故郷であるロングネックも例外ではなかった。


 一年前、マドリッドが陥落して一ヶ月も満たない内にプラチナローゼズが率いる銀兵士軍団によって東海岸にある主要都市は全て焼き払われ、ガレキの山と化していた。



「当主様!もはやロングネックは終わりです!早くゴールドメダル号へ!」


港に停泊しているゴールドメダル号の前でバーンハイムが叫ぶ。

ロングネックが銀兵士に襲われた日、私は苦渋の決断を迫られた。


―――無謀だとしてもロングネックで戦い続けるか、再起に掛けこの街を見捨てるか。


 私はフランソワお姉様にアインザックウォルフとしてロングネックを守ると約束した。

でも私はその約束を破った。

故郷とアインザックウォルフの誇りを捨て、私は逃げた。

結果として何代も続いたアインザックウォルフの歴史はロングネックと共に滅んだ。

脈々と続いていたアインザックウォルフの富と名声は私の決断で一瞬で無くなった。

でも後悔はなかった。

何故なら今のアンダルシアンには名声や富など無用のものだからだ。



「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊】を!【死】を……」

「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊】を!【死】を……」

「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊】を!【死】を……」

「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊】を!【死】を……」

「【死】をもたらすために【破壊】を!【死】をもたらすために【破壊】を!【死】を……」


 燃え盛る炎の中、異様な文句を口走るアンダルシアンの民が、同じアンダルシアンの民を虐殺していた。

家屋へ容赦なく火を放ち、逃げ惑う人々を無差別に殺してゆく。

プラチナローゼズの驚異は銀兵士よりも、暴徒と化したアンダルシアンの民の方だった。

彼らは【プラチナローゼズに下った人々】

人として考えることを捨て、【死】をもたらすためにただ【破壊】を繰り返す暴虐の使徒。

獣となった人間。

今のアンダルシアンにある貨幣以上の絶対価値。


―――プラチナローゼズから逃げるか、それとも奴に下り破壊の使徒となるか?


「貴様達ぃぃぃッ!」


 私は同じアンダルシアンの民へ剣を向けた。

快傑ゴールドとしてアンダルシアンを混乱させる者は、例え同じ民であったとしても容赦はしない。

世界を破壊しようとする暴徒は許せない。

だから私は剣を振った。

数多くの同胞を倒し続けた。


 本音を云えば―――辛かった。

延々と続く戦いの肉体的な疲労よりも、こっちの精神的な疲れの方が私を苦しめた。

でも、私は戦い続けた。

助けを求める人がいれば東奔西走。

昼夜を問わず、広いアンダルシアンを休まず駆け回った。


しかしそれでも私の行動は一個人の小さなものでしかなく、焼け石に水だった。

幾ら私が戦い続けようとも、アンダルシアンは確実に滅亡への道を確実に歩んでいた。

私以外にも【サント・リー】とかいう中央政府の敗残兵と無法者集団で結成されたレジスタンス組織が大規模なプラチナローゼズへの抵抗活動をしていると聞いていた。


でも彼らの行動もまた、アンダルシアンの中では小さなうねりでしかなかった。

もはや私を含め、今のアンダルシアンの民にはプラチナローゼズを食い止める術を持っていない。

そう、今は。


だけど少し先はきっと違うはず。


―――彼の準備が済めば。彼が立ち上がれば!


私にアインザックウォルフを捨てる決断と、

泥沼のような戦いへ身を投じる覚悟を決めさせてくれた彼。

彼はアンダルシアンは再び平和を取り戻してくれる。

彼にはその力がある。

私はそう信じている。

だから私はその日まで彼を支えると決めた。


一年前、彼の周りにいた人達はそれぞれ旅立って行った。

だからその時、私は決めた。


―――私は何があっても付いてゆく。支えてゆく。


居なくなってしまった彼の最愛の人に代わって支えると決めた。

きっと世界を救ってくれる彼の、心の中にできた大きな隙間を少しでも埋めたいと思った。


出会ってから今日まで、私は強く逞しい彼に心惹かれていた。


今でも出会ったあの日、彼にしてもらった腕枕の感触が忘れられない。


あの強く、逞しい腕。

深淵のように深い黒を湛える瞳。

彼の髪一本から指の先までが愛おしい。


私は彼を強く愛している。

はっきりと言い切れる。

だけど、彼は決して私を生きる意味にしてはくれない。

私は彼の生きる意味になれない。


だって彼の中には今でも【あの人】の存在があるのだから。

居なくなってしまった【あの人】のために戦う準備をしているのだから。


ただ彼自身のしたいことのために、厳しい試練を課しているだけ。

でもその行動が成功すれば、それは結果として世界を救うことになるんだろう。


だけど私も世界を救いたいから、彼の手助けをしている訳じゃない。


―――ただ好きだから。彼のことを愛しているから。それだけだから。


愛している彼のしたいことを全力で応援したい。

できる限り支えてゆきたい。


だから私は彼のためならば、どうなっても構わない。


―――彼のためならば……この命さえも……私は……


それだけ私は彼を、ワイルド様を愛していたのだった。


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