彼と彼女のおはなし
映画をみた次のときは、水族館。
その次は買い物をしにいって、その次はご飯を食べに行った。
まるで高校生みたいな健全なデートを数回繰り返してきた。
その間、樹くんは学んだらしく、
会計バトルはいつもじゃんけんで決めていた。
……ちなみに、樹くんが勝ったらおごり。私が勝ったら割り勘。
理不尽な気がするのは、気のせいじゃないはず。
そして今日。
またしてもご飯を食べるために待ち合わせをしている私であった。
「ごめん、遅れた」
「私も今来たところだから。っていうかまだ10分前だし。」
数回会ってるうちに気づいたこと。
必ず樹くんは10分前に待ち合わせ場所にやってくる。
「今日はイタリアンなお店です」
「おいしいの?」
「……ネットの評価は高かったです」
お店や場所は事前に調べてきてくれる。
「じゃあ行こうか。混んでないといいなぁ」
「人気なお店なんだ」
「そこそこ、ね」
歩幅を合わせて歩いてくれる。
絶対に私を道路側に歩かせない。
「おなか空いたなぁ」
「相川はいつもおなか空いてるね」
「成長期だから」
「まだ成長するの?」
こうして会っているうちに気づけたことはたくさんあった。
私が知らなかった樹くんを、知ることができた。
つまり、だ。
会えば会うほど、私は。
「……美味しかった!」
イタリアンなお店を出て、幸せな気分の私は思わずそう言っていた。
「お口に合いましたか」
「とっても!ネットもあなどっちゃいけないね!」
「そりゃーよかった」
さて今日も美味しいご飯を食べれたし。
いつものように後は帰るだけ。
そう思っていたのに。
「相川、ちょっとだけ、時間くれる?」
真剣な表情に、黙って頷くしかなかった。
連れてこられたのは公園。
へぇ。こんなところに公園なんてあるんだー……。
とか、考えてる場合じゃない。
「相川」
びく、と思わず肩があがってしまった。
「……はい」
小さな公園。遊具はブランコと砂場と滑り台のみ。
夜だからか、人の気配も、ない。
そんな公園のベンチに、並んで座る私と樹くん。
これって、もしかして、もしかしなくても。
どきんどきん、と心臓がやけにうるさく鳴っている。
いや、自意識過剰か。思い込みはよくない。
落ち着け落ち着け、深呼吸だ。
「あのですね、こんなところにつれてきてなに言われるか分かってるだろうけど、」
「……はい」
「相川のことが好きです。付き合ってください」
……まさか、本当にこんな言葉を言われる日が来るなんて思わなかった。
「今日はお酒入ってないよ。……信じてくれる?」
『私お酒が入ったときのそういう言葉、信じないタイプだから安心して』
『じゃあシラフのときなら信用してもらえるわけだ』
そうだった。あの日、私は確かにそう言った。
「……なんで、わたしなの、いつから……」
「高校の頃からずっとだよ。でも正直、合コンで会うまで忘れてた」
少し困ったように笑う樹くん。
そう、そんな笑い方も、最近知った。
会えば会うほど、知れば知るほど、私は、
「合コンで相川と話してるうちに高校時代の気持ち思い出してきて、遊びに行ったりするうちに
高校時代よりもさらに相川のこと好きになった」
「これまで何度か遊びに行って、少しでも俺のこと好きになってくれてたら付き合ってほしい」
「友達としか思えないなら今日で終わりにする。今まで振り回しちゃって本当にごめん」
さらに樹くんのことを、
「……私、高校時代から、ずっとずっと好きだったよ。多分、樹くんより私のほうが片思い暦長い」
好きになっていくんだろうな。
「……、いや、俺のほうが長い」
「絶対に私のほうが長い」
「いやいやいやいや、俺のほうが長いね」
「いや、絶対に、っ!」
続きの言葉は、
口をふさがれてしまったがために声にはならなかった。
「……なんで突然キスとかしてんの」
「えー、いや、かわいくてつい……」
「つい、じゃないわ」
「確認すればいい?」
「それも恥ずかしいのでやめてください」
絶対に顔が真っ赤になってるだろう。
でも、まぁいっか。
「……俺と、付き合ってくれる?」
「こんなのでよければ」
その日の帰り道、
初めて手をつないで帰った。
きっと私は顔が赤かっただろうしいつも以上にとげとげしていただろうし、
なんだか樹くんもぎこちなかった気がしなくもない、けど。
2人とも、幸せそうに笑っていたからよしとしよう。
お付き合いありがとうございました。
これにて完結です。
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