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魔法とスマホの魔界戦記RPG  作者: 常日頃無一文
第2章:ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪ ヘイヘイヘイ天界ビビってる♪
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40:再会

 空へと消えた天界兵器の光弾に対する歓喜と

 ベルゼブブに起きたまさかの珍劇に対する驚愕@【詳細後ほど】に

 レッド・ホット・チリ・ペッパー砂漠で大笑いしていた俺達だったが。


 もう一度ここに放たれてきた天界兵器の一撃を見逃し、

 轟いてきた衝撃でもってその被弾を体感して沈黙する。


 しかもよりによってその場所が、

 ネクロポリスからレッチリに差し掛かる辺り

 もとい

 お嬢様の乗るカボチャの馬車だった辺りだと想い出して

 俺はようやく驚愕の声を上げる。


「――って! こんなふうに騒いでる場合じゃねー!!!」


 歓喜の渦を突破し、そんなふうに俺が全力でかけ出したものだから


「にゅ!? 御主人様(センパイ)のおしりがボクを呼んでいる!?」


 呼んでない呼んでない。ともあれみーみも後に続き、


「え!? ちょ、どないしたんやステビアはん! みーみ!?」


 ダージリン修道会のシスターが俺の後を追い、


「ん? ティラミスどこ行くんトイレか?」


 ダージリン修道会の元修道女長がその後を追い、


「そうそう――って! 違いますステビアがただならぬ様子で走っていくから!」


 ノリツッコミはさておき。


「ふ~む、ティラミス殿が標準語を話すとはタダ事ではござらんな。どれ拙者も」


 次期龍帝もとい皇龍妃なんかも後を追い、


「「「「「あ、ちょっと姫様!!」」」」


 なんだかんだでその侍女とかも後に続いて、


「わ~! なんだか楽しそうですマストビー!! 私もいきますメイビーー!!」


 お祭り騒ぎで測定不能天使までも追いかけ、


「あ~、現在クイーンに拉致られて不在のネクロポリス皇国軍指揮官ベルゼブブに代わって国王直々に命令するベイベー。全軍そこで待機、もしくはベルゼブブの身の安全確認のためクイーンを追尾だベイベー。それじゃバルバドスも行ってくるベイベー」


 あげくは悪魔王にして死者帝国ネクロポリスの国王まで駆け出す始末。


 結局その場に残ったのは、


「「「「「「あばばばばばばばば(全軍待機承知しました!!!)」」」」


 ネクロポリス皇国軍だけだったりした。


 そうして結局、レッド・ホット・チリ・ペッパー砂漠に会していた一同、

 その主要たるメンバーは、

 天界兵器の被弾箇所へと赴いたのだった。


 結局、俺達がその場所に辿り着いたのは、おおよそ半日を費やした夕暮れ時。

 戦の疲れも昼間の熱さも、お嬢様の安否に対する焦燥がすべてをかき消し、

 一心不乱の無我夢中で、俺はそこまでかけることができた。


 けれども。


 そこで俺を待ち受けていたのは、静寂にして深遠なる一つの絶望だった。

 その場にあるべきカボチャの馬車、

 まるでまるで見当たらない。


 そして代わりに顕現していたのは、

 ただひたすらに、深い深い底なしの巨大な穴。


 馬車など欠片も見当たらず、

 おろかそこには、


 ――お嬢様の片鱗さえ見当たらない。


 俺はその意味を理解し放心し、


 その場にへたり込んだ。

 

「そんな……」


 あまりにも陳腐で、やすい現実否定の言葉。


「うそだ……」


 感情変動がないままに、

 どっと湧き出る大粒の涙。

 俺は即座に理解する。

 いまハッキリ、心が折れたと。


 クイーンの悲運を前にしても、心は折れなかった。

 変体したデビルアンツを前にしても、心は折れなかった。

 天界兵器が放たれてきても、心は折れなかった。

 むしろ心は躍り、闘志は燃えて、身体は血の滾りを覚えた。 


 どうしてだろうか。


 どうして自分は、そんなにも強くあれたのだろうか。

 どうして自分は、勇者みたいにあれたのだろうか。


 そんなのはわかりきったことだった。


 最初から自明だった。

 いったい誰が俺を勇者にしてくれた。

 いったい誰が俺を救ってくれた。


「お嬢様……」


 いったい誰の笑顔が見たくて、俺はこの砂漠にやってきた。

 いったい誰の傷心が見てられなくて、俺はこの砂漠にやってきた。


「……お嬢様」


 名前を口にして、嗚咽が口から漏れてきた。


「ああ……」


 両手を砂について、


「うあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 泣きじゃくった。


「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 声も涙も止められなかった。


 こうなる前にどうして駆けつけなかった。

 こうなる前にどうして予感できなかった。

 愚かな悔悟が全身を震わせる。


 ティラミスは見つけられたじゃないか。

 クイーンだって救えたじゃないか。

 目的は果たせたじゃないか。

 何故そこから脱兎のごとく帰らなかった。

 天界を敵に回すことの意味は、

 ティラミスから十全に聞かされていたじゃないか。


 そして何より

 俺はいま、


 天界の天敵たる『彼女』に仕えているじゃないか。


 何を悠長に失念し、呆けて歓喜に浮かれていたのだ。

 そんなバカみたいに簡単なことが、どうして分からなかった。

 それはやっぱり俺が大バカだから、

 自分の最も大切にしていたものが、ことが、それが何なのか、

 

 ――失って初めて理解することができたのだ。

 

「ご、御主人様……」


 みーみの声。


「す、ステビアはん……もしかして……」


 ティラミスの声。


「ステビア殿……? いったいどうなされた?」


 ポンタの声。


「ま、まさか……こ、この魔力の残香は……」


 バルバドスの声。


 すべてが俺に向けられていたけれども

 何もかも一切耳に入らない。


「ステビー? ステビー? どうしたのですか?」


 眉根を寄せて、俺を後ろから抱きしめてくれる天使。彼女の声さえ、耳に届かない。


「ああ、なんという悲劇なのかしら。たいそう胸が傷んでしまうわ。こんな有り様となってしまっては、大天使長風情の駆逐ではまるでまるで許せないわね。私の可愛いく愛苦しいステビアをこんなにも気の毒に泣かせてしまうだなんて。もう一度天界を滅界化してやろうかしら?」


 お嬢様の声。

 今の俺には彼女の声さえ、耳に届かな――


「?」


 顔をあげた。


 俺は自分の耳に届いた幻聴を追いかけるように、顔をあげた。


 そしたら今度は、幻覚が見えた。


 天界兵器で跡形もなく消えたはずのお嬢様が、

 その跡形もなくなったはずの巨大穴のすぐ上に、浮いていた。

 憂鬱そうな表情で、俺を見下ろして。


 呆然とその幻覚に現実逃避していたら、

 その幻像は、優しく俺を抱きしめてくれた。


「よしよしよし。私のステビア。私の可愛らしいステビア。どうかそんな風に悲しまないで。泣かないで。一体全体どんなに辛いことかあったのか、この私には分からないのだけれども、お願いだから泣かないで。見ているだけでも胸が張り裂けそうだわ。よしよしよし。よしよしよし」


 幻聴幻覚に続き、幻触覚とか幻嗅覚とか色々な幻が、俺を包んでくれた。それはもう、ものすごい現実感を伴って。


「わぁ……なんかすごく……綺麗なお姉さんですマストビー……」


 うっとりするようなエクレールの声。

 さすが測定不能天使。

 俺の幻を見るなんて測定不能過ぎる。


「……お嬢様?」


 いい加減俺も気付いた。これがリアルであると。


「なぁに私のステビア?」


 すごく普通に、お嬢様が小首をかしげた時、


 ぼっ という音を立てて、顔から火が出た。


 一言で言うと、死にたかった。

 穴があれば、入りたかった。

 そして目の前には、穴があった。


 入れと仰せなのだろうか?

 むしろ。


 そんな俺に、彼女は未だ憂鬱そうな表情で問いかける


「ステビア。私のステビア。愛しいステビア。私は貴方とお久しぶりの抱擁をしたいのだけれど、ステビア、先にその涙の理由を教えてちょうだい? 事と次第によっては、今すぐ天界を滅ぼすかもしれないし、龍界を消し炭にするかもしれないし、魔界を塵にするかもしれないし、あるいはこの世界を無に帰すかもしれないから。……いったいいつどこの誰が、貴方をそんな風に泣かせてしまったの?」


 俺はグスンとハナをすすり、正直に言った。


「……お嬢様です。お嬢様が、私を悲しませました」


 と。

 そしてそれから。

 俺はお嬢様に力いっぱい抱きついた。

このお話も後2話ぐらいです。

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