41:新たな物語へ
此処から先は、後日談形式にしようと思う。
お嬢様と再会した後で起きた事件。それは、ある意味でデビルアンツとの戦いや天界兵器の発射よりも大きなインパクトがあったのだけれど、それを細かに話すのはやめておこうと思う。だって、俺が皆の前でビービーと泣いていて、お嬢様によしよしと慰められているところの話なんて恥ずかしいし。
そういうことで、ここからは簡単に。
では、当り障りのないところでベルゼブブからいってみようか。
まず、クイーンが俺たちとの戦いを終えた時のセリフを、少し思い出して欲しい。
バルバドスと和平を結ぶと、そうクイーンが言った時のセリフを。
――和平の条件は3つだ。
――一つ目、レッド・ホット・チリ・ペッパーからのネクロポリス国王軍撤退。
――二つ目、ダージリン修道会が所有する水源の譲渡。
――まずはこの二つをいますぐ約束するってなら、アタシらはアンタらを全面的に信頼し、いますぐにでもデビルアンツ全軍を引き上げるよ。
と
クイーンはそう言った。
ここで大事なのは、条件の内容ではなくて、和平の条件は3つであると言ったことなのだ。
思い出して欲しい。
彼女はあのとき、三つ目の条件をまだ提示していなかったことを。
そしてその提示を受けないまま、俺達は了承してしまったことを。
ではそれがどんなことになったかと言えば、
こんなことになった。
*
「ちょっと待ちなよ。何勝手に引き上げようとしてんだい? あたしはまだ和平の条件3つ目を言っちゃいないよ?」
和平の条件に従い撤退すべく、ネクロポリス軍をまとめていたベルゼブブに、しかしクイーンは不穏な声をかけた。
蝿の王は振り返って、訝しげに片眉をあげる。
「ワーデルモーデル。随分と後出しざんすね? てっきり『2つ』の言い間違えかと思ったざんすよ?」
クイーンは「ふん」と笑った。
「アタシは仮にも一族を預かる王なんだ。こんな肝心なところで言い違えやしないさ。3つは3つだ。そしてそのことに国王と女王が同意してる以上、この条件の履行は絶対だよ。……それとも、まさかいまさら反故にしようってのかい?」
不敵に笑うクイーン。
俺達の間に緊張が走った。
「反故にするつもりはないベイベー」
バルバドスが、そのギョロ目をじっとクイーンに向ける。
「けれども、その3つ目の条件がネクロポリスの国民に不利益を生むようなものなら、バルバドスも国民を預かるものとして承諾しかねるベイベー」
と、バルバドはその顔色にやや血気を見せた。
しかし国王の前に、静かにベルゼブブが歩み出る。
「フンバルトモレール。今更デビルアンツとネクロポリスが争う理由はないザンス
。その点は同意ザンスね?」
ベルゼブブは努めて冷静に言うと、クイーンは頷いた。それにバルバドスも、少し眼力を緩ませる。
「マダム・クイーン。その3つ目の条件には、悪意がないものとして信じて尋ねるザンス。その条件とはなんざんす?」
と、口ではそう言っているものの、彼の右手はこっそりと、腰の刺突剣の柄に添えられていた。バルバドスには矛を収めさせつつも、次第によっては一戦も辞さずの意思表示である。
そんなベルゼブブに対して、クイーンはこう言った。
自らの胸に手を当て、真摯な眼差しで。
「お前を夫に迎えたい。返事は?」
と。
「――――」
「――――」
おそらく、魔界の時間が止まった。
俺は凍ったように動けなかったし、
ポンタは豆鉄砲食らったスズメみたいな顔になった。
バルバドスは蛇に睨まれた蛙みたいになったし、エクレールは素数を数え始めた。
ティラミスとジェラートは『オット』という単語の意味を調べ始めたし、みーみは耳掃除を始めた。
そしてベルゼブブは、
ベルゼブブは、
ベルゼブブは、
「ふ~む。ワーデル。和平の条件としては悪く無いざんすね」
柄にかけた手をひき、冷静にそう言った。
その応答が信じられなくて目をやると、ベルゼブブは笑みのないまっとうな顔つきで、クイーンを見ていた。
「ネクロポリスの総司令官たるこのベルゼブブと、レッド・ホット・チリ・ペッパー砂漠最強の脅威たるデビルアンツのクイーンが血族ともなれば、この和平は名実ともに強固なものとなるザンス。そしてネクロポリスもこの砂漠も、随分と平穏になるはずザンスね」
そのときの悪魔王の眼差しを見て、俺は自分が思い違いをしていたことを知った。
違うのだ。
夫や妻の意味が、自分たちとは違うのだ。
好きだとか嫌いだとか。
愛だとか恋だとか。
そういった自由な恋愛観で生涯の伴侶が決められるのは、本当に限られた者たちだけなのだ。
考えてみれば、そう、ここの砂漠とネクロポリスは互いに隣接している。
そして、互いが互いにとって大きな脅威となるのは、今回の戦いで十分に認識したことだろう。
だからこれを機に、『もし今後も争わずに済むのであれば』と、両者はそう考えたに違いない。
そしてそれを、最もわかりやすい形で確認する術がこれだったのだろう。
――ベルゼブブ。
――クイーン。
二人が、血族となること。
対等の関係というのであれば、本来であればバルバドスとクイーンなのかもしれない。けれども、バルバドスには既に伴侶がいるし、そうでなくとも国王が唐突な求婚に応じるというのは騒ぎの種となる。
であれば――ベルゼブブ。
クイーンはそう考えたのだろう。
ともあれ俺は、
この二人の向かい合う姿の意味を、
取り違えるところだった。
そして、バルバドスやティラミスもそれに気付いたのだろう。
二人ともが、俺の目を見て物言わず、小さく静かに頷いた。
と。
――そう思ったのだけれども。
「なにを言ってるんだい?」
クイーンは、まるで見当違いだとでも言うようなイントネーションでいった。
へ? とベルゼブブは瞬きする。
「血族関係? 和平は強固? 平穏? アタシはそんな返事を待っちゃいないよ。ベルゼブブ、お前はアタシをどう思う?」
彼女は言う。
「アタシはお前が好きだぞ?」
やっぱり時間が止まった。
ベルゼブブは固まった。
それ以外も固まった。
「ち、ち、ち、ちょっと待ったザンス。待つザンス。マダム・クイーン。そ、それは一体どういうことざんすか?」
ベルゼブブの顔がかつてないぐらい赤くなった。こんな表情もできるようになったんだな、と俺は妙に感心してしまった。いやそんな場合じゃないか。
畳み掛けるようにクイーンは言う。
「どうもこうも何もないさ。アタシはお前に惚れたんだ。蝶のように舞い蜂のように指す剣技。全軍を的確にまとめる手腕。暴走しそうになった国王を止める英断。交渉事の駆け引き。どれも男として完璧だ」
おそらくこれまで経験したことないであろう褒め殺しに
ベルゼブブは鼻と耳から湯気を吹き出した。
クイーンはそこで、
「けれどもそれ以上にさ」
怪しげな笑みを浮かべてペロっと唇をなめ、信じられないことを口走る。
「 面 食 い だ か ら 男 前 に 弱 い ん だ よ」
その瞬間、全員と全軍がぶっ倒れた。
「って!?!?!? ちょ!?!? ま、ま、待つザンス!!?!?」
俺達が転んで立ち上がるまでの間に、どうやらクイーンはガッチリとベルゼブブ@イケメンの手首を掴んでいたらしい。そのままズリズリと引きずられつつ、朝日の照らす方に消えて行く。
「ちょ!! ゲーデル!!!! こ、国王陛下お助けザンス!!!!」
振り返るベルゼブブは、テンパって顔真っ赤で泣いていた。
そんな国王軍総司令官にバルバドスは腕を組んで言う。
「まぁ、お前もそろそろ所帯持つのも良いかもしれないベイベー」
「なぁ!? 陛下!? っく! す、スカリン!! 助けてザンス!!!」
度は修道女に助けをこえば、彼女は抱腹絶倒していた。
「け、け、結婚式は……う、うちの教会で挙げぇや……っあははははははははははは!!」
涙をこぼして笑っていた。
「神式であれば、龍界も歓迎にござるよ。ぷーーーーー!!」
ポンタも巫女も一緒に笑い転げた。
「ヘーヒルトベンデル!! 人の一大事を笑うなんて酷いざんす!!! マママ、マダム・ステビア!!!! へるぷー!! 勇者へるぷザンス!!」
順調に遠ざかっていく悪魔王。
そしてクイーン。
俺が二人にかけるべき声は、
まぁこんなものだろう。
剣を背負い直し、大きく手を降って言う。
「お幸せにー!!!」
「ゲーデール!!!」
「大天使からも祝福しますマストビー!」
遠ざかっていく二人の影に続いて
ゾロゾロとデビルアンツも率いられるように下がっていく。
みーみはそれを眺めつつ
「この調子だと、確実に尻にしかれるっすね~」
などと両手を組んで頷いていた。
「は、離すザンス! ちょっと待つザンス!」
「ふふふいつまで照れてんのさだらしないね。据え膳食わぬは男の恥と言うじゃないか」
「あ、そうだザンス!! マダム・クイーン!! チンは変態ザンスよ!? 結婚したらひどい目にあうざんすよ!?」
「変態変態おおいに結構さ。虫は変態と脱皮を繰り返して一人前になるもんさ」
「ち、違うざんす!! 変態違いざんす!! チンはスカトロざんす!!」
「へぇ。それじゃぁフンコロガシマスターのゲリニカに張り合ってご覧よ」
そんな仲睦まじい(?)会話をを交わしつつ、着実に小さくなっていく二人。
彼らを見送りながら、バルバドスは呟いた。
「……蓼食う虫も好き好きだからなーベイベー」
実はそれ、結構酷いこと言ってないかと思う俺だった。
*
まぁ、ベルゼブブに関してはこの辺りで。
ちなみに、この何年か後に、ベルゼブブとクイーンは一人の子を授かることになる。
その子の物語は、また別のRPGで。
ともあれ、つぎのお話に入ろうか。
今度はある意味で、もっととんでもないお話。
けれども、一瞬で終わるので聞き逃さないようにしてほしい。
準備はOK? いくぜ?
*
「えっとさ、皇龍妃はん。一つ聞いてええ?」
「拙者のことはポン太で構わないでござるよ。そして何でござろう?」
ベルゼブブとクイーンの姿がすっかりなくなってから、ジェラートはポンタにある重要な悩みについて尋ねた。
「クイーンとの和平の条件の一つにさ、水源の譲渡ってあったよな。あれのことやねんけど……」
そこから先を、やや言い淀んでいるジェラート。しかしその理由は、もちろん分かる。ここはレッド・ホット・チリ・ペッパー砂漠。毎日を熱射と極寒そしてデビルアンツの脅威にさらされる過酷な地。そのうちの最大の脅威がなくなるのであれば、水源譲渡もやむなしかもしれない。とはいえしかし、修道女も人間である。これまでの豊富な地下水を失うとなれば、やはり教会の存続は厳しくなるだろう。
そしてこの懸念に対して、ポン太は以前、『それに関しては責任をもつ』というようなことを、ジェラートとティラミスには言っていた。
だからそれについて、ジェラートは尋ねようとしたのだろう。
何か、本当にうまい手があるのだろうかと。
そしてそれを察したポン太は、サラっと応える。
「ああ、それなら何も問題ないでござる」
笑顔でとんでもないことを。
「龍 界 の 露 天 風 呂 が 堰 き 止 め て る 雨 水 を 開 放 し た ら こ こ は 熱 帯 雨 林 も 同 然 で ご ざ る」
万感の思いを込めて俺達はもう一度ぶっ倒れた。
*
さて、これでもうこの話は大方片付いたようなもの。
俺の物語も、ひとまずこれで一段落。
次に始まるのは、きっと新しい物語。
少しの間お別れだ。
これから始まる新たな物語で出会う時、
そこでも俺はプレイヤーなのか。
そこでも俺は勇者なのか。
それは始まってみるまで分からないのだけれど。
ただそれでも、
――これだけは言うことができる。
その物語を紡ぐのは、いつだって君なのだ。
――3章につづく――
ども、常日頃無一文あらため空猫ヒットです^^
第2章、読了ありがとうございました!
次回からは第3章になりますが、一旦ここで完結させて頂きます。
最終的にはプレイヤー様も50名超えて、
作者的には満足だったのですが、
まだまだ未熟な部分や見返して全消ししたくなるような部分も
多々あったので、まだまだ面白くしていけると思います。
さてこれから当分は
評点・アクセス・お気に入り・感想
といった採点待ちの時間にしようと思います。
今後の指針にさせてくださいませ。
結果次第で3章の執筆に踏み切る予定です。
それではまた^^




