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魔法とスマホの魔界戦記RPG  作者: 常日頃無一文
第1章:勇者目指して頑張りましょう。わっしょい♪
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10.3:旧国王、『復帰』へ

 目にも留まらぬベルゼブブの刺突が、真っ直ぐにバルバドスの喉から後頭部にかけて抜けた。


 比喩表現でもなんでもない、本来そのままの意味での串刺し。

 バルバドスはあっけなく絶命した。


 決闘が始まった、その瞬間に。


 劇的なドラマなど、そこに何もなかった。

 あったのは、拍子抜けするような幕切れだけ。


 終わったのだ。

 すべて。


 刺突の構えのまま、ベルゼブブはほくそ笑んだ。


「勝負あったザンス」


 と。


 悲鳴があがる。

 エカエリーナはその場に崩れながらも、ケロンにその悲劇を見せぬようヒシと抱いた。

 悲鳴。

 悲鳴。

 悲鳴。


 なんという事だろうか。

 俺は膝をついた。


 本当に、あまりにもあっけない結末だった。

 そして至極当然の、成り行きだった。


 目眩がした。

 吐き気もした。

 そしてジワっと目に涙の膜ができて、世界が歪んだ。


 ああ。


 俺はいまさらになって、

 ほんと、このいまさらになって、

 自分の愚かを責めたくなった。


 バルバドスは、倍以上レベルの違う敵とタイマン勝負し、そして死んだ。

 圧倒的な戦闘能力の差を、実感するまもなく、死んだ。

 当たり前じゃないか。

 一体俺は、そこに何を期待していたというのだ。

 みんなは、その先に何があると信じていたというのだ。


 バルバドスが、死んだ。


 無残にも、バルバドスは標本か干物のように剣に刺しぬかれ、磔のようにダラっとなっていた。

 両手両足を、だらんとぶら下げ。

 刺突の刃で、突っ立つだけの。


 干物のように、突っ立つだけの。

 そんなミジメな、薄っぺらい干物のような姿に、バルバドスは成り果てた。


 ――?

 

 俺はそのとき、奇妙な感覚に囚われた。

 バルバドスの亡骸に、違和感を覚えた。


 いや、違う。


 これはおかしい。


 なにかおかしいぞと。


 俺の抱いた違和感を、観衆も感じ始めたらしい。

 落胆の声に、さざ波のようなざわめきが起き始めた。



「**?」


 誰かがそれを言った。


「**?」


 ポツポツトながら口々に、


「**!?」


 その違和をつぶやきはじめた。


 俺はそして、違和感の正体を悟った。


 あの、デップリとした体型のバルバドスが――、


 ――『干物』のように刺しぬかれだって?


 この違和を、当事者であるベルゼブブはもっとクリアに感じているようだった。

 スカトロ貴公子は、自らが貫いたバルバドスを睨みながら


「これは……」


 と。


「これは**ザンス!!!!!」


 得心がいった。


 言われてスッキリした。


 そうだったのだ。


 バ ル バ ド ス が あ ん な に 薄 い わ け が な い 。


 そう、ベルゼブブが刺し貫いたのは。


 バ ル バ ド ス の 脱( ヌ ケ ) 皮( ガ ラ ) だ ! ! ! ! ! ! 


 その直後、ベルゼブブの頭上に向け、上空から凄まじい勢いで輝く何かが墜落した。

 どん! という太鼓を打つような音と衝撃。


「ぬぐ!?」


 間一髪。

 突進同様の高速ステップで、ベルゼブブはその一撃を後退してかわしたようだったが、彼の表情に余裕はない。


「ヘーヒルトベンデル。お前……」


 顔はこれまでに見たことがないほど、真剣そのものだ。


「お前まさか!!」


 煙を睨みつけるゼルブブ同様、

 皆がその、

 墜落してきたものの正体を見るべく、

 砂煙に釘付けになっている。

 望みを抱いて、固唾を飲んで見守っている。

 モクモクモクと、

 けぶる中を。


「――外したベイベー」


 まずそこから、バルバドスの声がした。

 すぐにケロンが「パパ!!」と、

 エカエリーナは「あなた!!」と、

 噴水の涙とともに歓喜の声をあげ、飛び上がった。

 皆も熱狂的な声をあげた。


 バルバドスは生きていたと。


 そしてそれに呼び出されるかのようにして、全容を現したのものの姿に、俺は目を見張った。


 体色は火の赤から水の青へ。

 耳のあたりに竜を彷彿とさせる長い水かき。

 皮膚には堅牢な鱗をまとい。

 鼻先に一本のツノを尖らせた、

 まるで小型の竜と言っても過言でない、そんな威容のカエルの悪魔が、ミツマタの切っ先をベルゼブブに向けていたのだ。


 ――これ、

 バルバドスなのか?


「久しぶりの『グリモア解放』はどうやバルバドスはん!!」


 

 ――――グリモア解放と。

 ティラミスが大きな声で言った。グリモア――それは彼女が今胸に抱き、そしてベンダシタイナー城の地下金庫から取り返した分厚い本だ。

 そして彼女はこの展開を、

 このバルバドスの変質を、

 さも予定調和といった『どや顔』で見ながら言ったのだ。


 ――久しぶりの『グリモア解放』はどうやバルバドスはん!


 と。


 バルバドスが、その返事の代わりとばかりに槍を振った時、今度はヒュンヒュンというぬるい音ではなく、ビュバッ! ビュバッ! と鋭く風をきる音が響いてきた。


「身体は軽いぜベイベー」


 その声に、ティラミスはニィと八重歯をむいた。そして彼女は高らかに宣言する。


「さぁ、バルバドスはん! アンタの本当の力を見せる今がそのときや! フラグ回収行くで!」


 そしてグリモア胸に抱きつつ、反対の手をベルゼブブに差し向け、大喝した。


「 ハ エ が カ エ ル の エ サ で し か な い こ と 教 え た れ や ! ! 」

 

 弾けるような歓声があがった。

 皆が拳をネクロポリスの空に高く突き上げ、怒涛の雄叫びをあげた。

 そしてバルバドスが、


「O K ベ イ ベ ー ! ! ! ! 」


 とヤリを掲げた瞬間、歓声は驚嘆のうなりに変わった。

 彼は愛槍を体の前で風車のようにビュババババっ! と回すや、回転を維持したまま槍を身体の左に右に鮮やかに振り回し、流れるように背中に回してから頭上で一層強烈にぶん回し、最後は「ハ!」という裂帛の気合と共にパァン! と槍をリングに打ち付けた。

 衝撃による白煙が立ち上る中、バルバドスは視線を一身に浴びたまま決めの型をとっている。

 それはまるで、東洋武術に見られるような演舞のごとき鮮やかさ。

 観衆同様、俺もまた息を飲んでいた。

 絶句だった。

 静まり返った中、同じく絶句しているベルゼブブに、バルバドスは片手をのばし、人差し指でクイクイクイ。


 ――こ い よ 羽 虫 


 ギョロ目でそういった。

 ビキビキビキと、蝿の王の額に青筋が走る。


「調子に乗ったザンスね!!!!」


 ベルゼブブはヴン! という風切音一つで一気に間合いを詰め、再び必殺の刺突を放った。俺にフラッシュバックするのは再び刺し穿たれたバルバドス。

 しかしである。


 奇妙な現象が起きた。


 カカカカカカカン! というような連打音と共に急速後退したのは、


「な、なんザンスか!?」


 狼狽えたような表情のベルゼブブだった。

 周囲もどよめいている。

 一体いま、何が起きたのだと。

 それを知るバルバドスばかりが、大きな口を不敵に歪めていた。


 俺が見た怪異をそのまま、誤解を恐れず言うのならば、ベルゼブブが飛び込んだ瞬間に、バルバドスはただ槍を横薙ぎ一閃。

 しかしその直後に、ミツマタの切っ先が大群となって、あらゆる角度からベルゼブブに襲いかかったのだ。

 そしてそれをベルゼブブが、必死の形相と神業的な剣捌きで防ぎつつ後退し、間一髪防ぎきった。

 そんな塩梅あんばいである。


「あ、あ、あんな」


 ワナワナと、ベルゼブブが震えている。


「あんな一瞬で、刺突七度だとザンス!?!?」


 ベルゼブブがそういった時、バルバドスはビュババっ! と槍を旋回させてから言った。


「いいや、ヨルムガンドの首は『八つ』だぜベイベー?」


 セリフの直後、パシン! という音を立てて、ベルゼブブのカ○ラが宙を舞った。


 頭頂部を光らせたまま、棒立ち青ざめたスカトロ貴公子。

 ふわふわ宙を舞う金髪カール。

 無情に舞うそれを見上げながら思った。

 あー、ひどい伏線が回収されたと。

 やっぱり、ヅラだった。

 皆がどこか哀悼を捧げるように見守っていたが、見上げるケロンがぼそりと


「お天道さまケロ」


 悪意なき鉄槌を放った時、観衆がドっと湧いた。皆が爆笑した。地面をバンバン叩いて泣き笑っている死者もいた。お前ら鬼かよ。


 俺はしかし、それよりも。急いで『ステータス画面』をポップアップして、バルバドスを参照する。

 変質したのは見た目ばかりではない。

 単なる脱皮ではない。

 明らかにバルバドスは強くなっている。

 グリモア解放。


 ――いったい、何があったのか。


 ドキドキと胸が高鳴る中、

 光の線が疾走し、その答えを空に描いた。 


 名前:バルバドス・ゲロッパーズ

 職業:ネクロポリス国王(神殺しヨルムガンド:ゴッドイーター)

 LV:66

 HP:6666 MP:250

 装備:トライデント・スピア『おじゃまたくし』

 解説:魔王軍72柱の1柱、悪魔王時代の力を取り戻したバルバドス。魔王軍引退&結婚後は余計な殺生をせぬよう、旧知の修道女ティラミスにお願いし、『超究極レベルダウン魔法』で自らの力を封じさせていた。五月雨のように襲いかかる凄絶な槍裁きは北欧の怪蛇になぞらえ、神々から『神殺しヨルムガンド:ゴットイーター』の名で恐れられていた。家族と国民を守るためなら、バルバドスはいつだって悪魔に戻るぜベイベー。悪魔だけど。バカ(真性的な意味で)



 『魔王軍引退&結婚後は余計な殺生をせぬよう、旧知の修道女ティラミスに『超究極レベルダウン魔法』で自らの力を封じさせていた』


 ああ。

 俺は天を仰いだ。

 そういうことかと。


 バルバドスとティラミスが一緒にいた理由。

 城に厳重に保管されていたグリモア。

 超究極レベルダウン魔法。

 ティラミスが、名前も見た目もガイコツっぽく姿を変え、ベルゼブブを欺いていた理由。

 昨日の彼女の言葉。


 全てが符合した。


「まぁ、そういうことなんよ」


 ティラミスの声。目を向けると、すでに防戦一方のベルゼブブを見ながら、彼女はニィっと勝気の笑みを浮かべている。


「神殺しヨルムガンド。ゴッドイーターバルバドス。世界創造神話に語られ、神々を苦しめたいう伝説の蛇は、バルバドスはんの槍術の比喩なんや」


 もう驚けないほど、俺の感覚は麻痺している。

 ただ呆然と、そうだったのかと、俺は冷めた理解をした。


 改めてバルバドスを見る。

 躍動する小竜型の悪魔。


 刺突、横薙ぎ、打ち下ろし、振り上げ、回転。

 その全てが鋭く流れるような連撃で、ベルゼブブは一手の反撃もできない。

 しかも時折、威嚇するようなビュババッ! という槍の旋回を入れた虚実混合の槍術のため、先読みも困難。

 ベルゼブブの顔は焦燥の汗にまみれている。

 が。


「調子にのるなザンス!!!」


 神がかり的なスキをついて放った刺突。しかし


「そのまま返すぜベイベー!!!」


 横薙ぎ一閃。

 そして再び、うねるように襲い来る『ヨルムガンド――八方からの高速刺突』。

 ベルゼブブはこれも再び、目にも留まらぬ早さで捌ききり、さらに


「二度も同じ手は通用しないザンス!!」


 今度は後退せずに突進。そのままバルバドスの懐に


「二度も同じ手は使わないぜベイベー」


 ベルゼブブのみぞおちには、下から振り上げられた槍の柄が打ち込まれた。

 槍による刺突後の引き動作を、回転打ち上げに変えての連撃。

 柄が大きく腹部にめり込んだ時に、『く』の字に身体が曲がったベルゼブブは、あまりの痛みと衝撃に目が飛びでていた。


「ベンデテモッターナーいてーー!!!!!!!!」


 どんなヤラレ声だよ!? ツッコミをこらえる俺。バルバドスの槍が風を切る。


「そして下からの振り上げは上からの打ち下ろしに繋がるんだベイベー。槍の初習ショホだが剣にこんなチートないだろベイベー」


 バチン!!! といういかにも痛そうな音を立てて、ヤリは地面にたたきつけられた。決着の打ち下ろし。

 が、そこにベルゼブブの姿はなかった。

 ヴーンと、間合いを開けた上空で、ホバリングしていた。


「ぐぬぬぬぬぬ!!」


 間一髪、回避に成功したらしい。そしてそのまま、静かに着地。


「お、お、おのれーザンス!!!」


 ベルゼブブは目を剥き、歯を剥き、顔を真赤にして、怒り心頭という様子だった。

 身体が震え、歯を食いしばり、口の端からはよだれをこぼしている。

 全く、まったくもって、バルバドスにベルゼブブの剣技が通じないのだ。


 ――スゲーじゃんあのカエル。


 俺はゾクゾクとした。


「まぁこんな風に、バルバドスはんめちゃめちゃ強かったんやけどさ、世界創造神話でヨルムガンドが神さんらを苦しめる記述はあっても、殺す記述はないんやな」


 ティラミスの語る言葉に、俺は振り向いて聞く。


「どういうことだよ?」


「そういうことや」


 ティラミスは即答し、人差し指を立てた。


「バルバドスはんは殺生嫌いなんよ。だから戦で勝っても命はとらへん。神も人も虫も殺さんどころか、死者さえ殺さんねんで?」


 そういえばゾンビも、シンドルワーで『あばばばば(バルバドス様はおれっちの命の恩人ですぜ)←なぜか今頃理解できる』と言っていたか。


「そこまでいったらアホや思たけど、事実としてアホやったんが、ウチに『超究極レベルダウン魔法』をかけさせたあげく、この天使の加護があるグリモアで効果を永続的にさせたんや」


 言いながらティラミスは、ポンポンポンと、グリモアの表紙を叩いた。


「まぁそれが原因で、バルバドスはんはこのグリモアと一緒にベルゼブブに目をつけられ、このネクロポリスは奪われたわけやけどな。まぁ、そのときに、バルバドスはんの力を封じてるウチを殺しに、ベルゼブブは、ウチを知ってるいう理由で奴隷にしたバルバドスはんを連れてダージリン教会までやってきたわけやけど、そのときバルバドスはんはウチを差し出すどころか、命懸けでこのローブで死神に変装させ、ベルゼブブから身の安全を守ってくれたんや。あと、処女もな。へへ」


 笑いながらも、ティラミスはどこか感慨深そうだった。

 不覚にもまた、俺は目をゴシゴシ鼻をグスンとやってしまう。最近どうも鼻炎がひどい。


 あ、いや。

 ちょい待った。 


 ネクロポリスを『奪われ』た だって?


「ちょっと待て。奪われたってどういうことだよ?」


「そういうことや」


 またもや鸚鵡返し。

 いやいや、まさか。

 俺はもう驚くことはないだろうと思っていたのに、またもや胸に高鳴りを感じ。


「それってつまり、奪われたってつまり。もともとネクロポリスは……」


 信じられない思いでティラミスを見つめていたら、彼女はそれを肯定するように頷いた。


「そう。バルバドスはんの領土やで」


「そうだったのか!?」


 あまりに大きな声を出したせいか、ティラミスは呆れたように笑った。


「ステビアはん。あんた、なんでベンダシタイナー城があっさり陥落したり、見張りのパンパアスが嬉々として武装解除したり、バルバドスはんが国王なったとき、国民があれだけ騒いでたか分からへんの?」


「えっと、はい」


 素直に言うと、ティラミスは苦笑していった。


「あれ、バルバドスはんの国王『復帰』に湧いてたんやで?」


 そうだったのーー!?!?!?!??!?!?!?


 驚きの絶叫を漏らす前に、ガキン! という一際大きな金属音を聞いて、リングを振り向いた。


 見れば、ヒュンヒュンヒュンと、空に一振りの剣が舞っていた。


 禁・刺突剣『ヘクソカズラ』だ。


 回転しながら弧を描き、刃が陽光にきらめく。

 やがてそれは落下に転じ、

 切っ先をリングに突き立てた。


 ビーーーンっという、刃鳴りの音。


 すぐ脇に、尻もちをついたベルゼブブと、

 その喉先に愛槍をつきつける、バルバドスの姿があった。


 誰の目にも明らかな、勝者バルバドス敗者ベルゼブブの構図。


「勝負あったなベイベー?」


 洪水のような歓声が起きた。

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