第115話 虹色の龍に乗った小さな姫! リリア、宮殿に降り立つ!
第115話 虹色の龍に乗った小さな姫! リリア、宮殿に降り立つ!
◆◆◆リリア、空へ!
隠れ家の庭。
リリアは小さな外套を身につけ、胸元のペンダントを確かめていた。
その隣には、リュリュとノクスがいる。
普段のリュリュは、虹色に光る小さなぬいぐるみの姿をしている。ノクスも、翼のない普通の黒猫の姿だ。
しかし、これから向かう場所は、激しい戦いが続く宮殿。
二匹は、いつもの姿ではなく、本来の力を使うことにした。
「リリちゃん、準備はいい?」
リュリュが尋ねると、リリアは元気よくうなずいた。
「うん! リリ、ぱぱとままをたしゅけにいくの!」
その瞬間、リュリュの体が虹色の光に包まれた。
小さなぬいぐるみの姿が大きくなり、立派な角と輝く鱗を持つ虹色の龍へと変わっていく。
「きゅおおおん!」
リュリュが翼を広げた。
その姿は、空を覆うほどではないものの、神々しい光を放つ美しい龍だった。
「わあぁ! リュリュ、かっこいいの!」
リリアは目を輝かせた。
続いて、ノクスも黒い光に包まれた。
普段は翼のない小さな黒猫だが、背中から大きな黒い翼が広がる。
「準備はできた。先に行くぞ」
ノクスは地面を蹴り、空へと舞い上がった。
リュリュは体を低くし、リリアが乗りやすいように背中を差し出した。
「リリちゃん、乗って!」
「うん!」
リリアはリュリュの背中にちょこんと座った。
「おやちゅも、もったの!」
「そこは忘れないんだね……」
ノクスが小さくつぶやく。
「おやちゅは、たいせつなの!」
リリアは大事そうに袋を抱えた。
リュリュは大きな翼を広げる。
「それじゃあ、宮殿へ出発!」
虹色の光が庭を照らした。
そして、リュリュは一気に空へと飛び立った。
ノクスも翼を羽ばたかせ、その隣を飛んでいく。
小さな姫の救出作戦が、ついに始まった。
◆◆◆空から見た町
リリアはリュリュの背中から、眼下に広がる町を見つめていた。
かつては美しい建物が並び、商人や住民たちの笑い声が響いていた町。
しかし、今は違った。
建物は焼け落ち、屋根は崩れ、通りには瓦礫が散乱している。
家々のあった場所には、黒く焦げた跡だけが残っていた。
「……あう」
リリアの表情から笑顔が消えた。
「おうち、ないないになっちゃったの……?」
リュリュは速度を少し落とした。
「そうだね。たくさんの人たちが、家を失ってしまったんだ」
「みんな、いたいいたいなの……?」
「きっと、怖い思いをした人もたくさんいるよ」
リリアは小さな手でリュリュの背中をぎゅっとつかんだ。
「リリ、みんなをたしゅけたいの……」
ノクスが隣を飛びながら言った。
「今はまず、宮殿へ向かおう。そこで助けを必要としている者たちが待っている」
「うん……」
リリアはもう一度、町を見下ろした。
小さな胸が苦しくなる。
けれど、泣いている場合ではない。
パパとママを助けるためにも、町の人たちを守るためにも、今は前へ進まなければならなかった。
◆◆◆破壊された宮殿
やがて、遠くに宮殿が見えてきた。
しかし、その姿も以前とは大きく変わっていた。
塔の一部は崩れ、外壁には大きな穴が開いている。
庭園は荒れ果て、宮殿の屋根もあちこち破壊されていた。
「宮殿まで……こんなことに……」
リリアは悲しそうに見つめた。
「リリちゃん、もう少しだよ」
リュリュは宮殿へ向かって高度を下げた。
宮殿の中庭には、負傷した兵士たちが横たわり、医師たちが必死に治療を続けていた。
そのとき――。
「上空に何かいるぞ!」
兵士の一人が空を指さした。
「龍だ!」
「虹色の龍が宮殿に向かってくる!」
ガル、セレス、アルセリアも空を見上げた。
「まさか、敵の新たな魔物か?」
ガルが警戒する。
しかし、龍の背中に小さな人影が見えた。
「あれは……!」
虹色の龍は中庭へとゆっくり降り立った。
そして、その背中から小さな女の子が姿を現した。
「リリア王女!?」
騎士団長が驚きの声を上げた。
そこにいたのは、二歳のリリアだった。
4 リリア王女、宮殿に到着
「リリア王女様! どうしてこちらへ!?」
騎士団長が慌てて駆け寄った。
ガルたちも信じられないという表情でリリアを見つめている。
「王女様が、龍に乗って現れた……?」
「いったい、どうやってここまで……」
医師たちも治療の手を止めていた。
騎士団長はリリアの前にひざまずき、真剣な表情で話した。
「リリア王女様! 宮殿は大変危険な状態です。ここにいてはなりません。今すぐ別荘へお戻りください!」
周囲の兵士たちも心配そうにリリアを見つめた。
しかし、リリアは首を横に振った。
「だめぇ!」
小さな声だったが、はっきりとした返事だった。
「リリ、いたいたい、なおしゅの!」
「王女様……?」
リリアはリュリュの背中から降りると、負傷した兵士たちの方へ歩いていった。
「リリア王女様! お待ちください!」
騎士団長が呼び止める。
けれど、リリアは立ち止まらなかった。
目の前には、傷を負って苦しんでいる兵士たちがいる。
リリアはその小さな手を、兵士の傷ついた腕へとそっとかざした。
「いたいいたい……ないないになぁれぇ」
その瞬間、リリアの手から柔らかな光があふれ出した。
◆◆◆小さな姫の奇跡
リリアの手からあふれた光が、負傷した兵士の体を優しく包み込んだ。
すると――。
「……あれ?」
兵士が目を見開いた。
腕にあった傷が、みるみるうちに消えていく。
痛みもなくなり、血も止まり、傷ついていた皮膚は元どおりになっていた。
「傷が……治った?」
兵士は自分の腕を何度も確かめた。
「そんな……!」
そばにいた医師が驚きの声を上げる。
「傷が完全に消えています! しかも、回復魔術では考えられないほどの速さです!」
騎士団長も目を見張った。
「リリア王女様……今のは、魔術なのですか?」
ガルたちも驚きを隠せなかった。
「王女様が治療魔術を……?」
「でも、あの光は普通の魔術とは違うよ」
セレスがつぶやいた。
リリアはみんなの視線を感じると、小さな人差し指を口元に当てた。
「ないちょ!」
「えっ?」
「ないちょなの!」
リリアは、にこっと笑った。
騎士団長たちは顔を見合わせた。
「王女様……そのような魔術を習得されていたのですか?」
「ないちょぉ!」
リリアはもう一度、同じ言葉を繰り返した。
誰も、それ以上は尋ねられなかった。
リリアは次の負傷者のところへ向かった。
「つぎのひと、いたいいたい?」
「お、王女様! 私は大丈夫です。王女様こそ危険ですから……」
「だめぇ。いたいいたい、なおしゅの!」
リリアは再び手をかざした。
「いたいいたい、ないないになぁれぇ!」
柔らかな光が広がり、兵士の傷が消えていく。
その後も、リリアは次々と負傷した兵士たちを治していった。
腕の傷も、足の傷も、深い傷も。
リリアが手をかざすたび、兵士たちの体から痛みが消えていった。
医師たちは驚きながらも、すぐに治療の手伝いを始めた。
「こちらの兵士もお願いします!」
「王女様、次はこの者を!」
リリアは小さな体で一生懸命に動き回った。
「はぁい! まかせてぇ!」
やがて、先ほどまで苦しんでいた兵士たちが、自分の足で立ち上がれるようになった。
「ありがとうございます、リリア王女様!」
「王女様のおかげで、また戦えます!」
兵士たちは深く頭を下げた。
リリアはうれしそうに笑った。
「よかったぁ!」
◆◆◆リリアの決意
負傷者の治療が一段落すると、リリアは宮殿に集まった兵士たちの前に立った。
小さな体で、周囲を見渡す。
「みんな、きいてぇ!」
兵士たちは一斉にリリアへ注目した。
「リリ、ぱぱとままをたしゅけにいくの!」
騎士団長が息をのむ。
「王女様……!」
リリアは続けた。
「あの、くろいきりがでているところにいくの。そこに、ぱぱとままがいるの!」
ガルはリリアの言葉を聞き、真剣な表情になった。
「王女様。私たちがご一緒します」
セレスも一歩前に出た。
「そこは、非常に危険な場所です。王女様を一人で行かせるわけにはいきません」
アルセリアもうなずく。
「私たちが必ずお守りします。王女様に何かあってはなりません」
騎士団長も深く頭を下げた。
「王女様を危険にさらすわけにはいきません。どうか、私たちにお任せください」
しかし、リリアは小さく首を横に振った。
「ちがうの」
「王女様?」
リリアは真っすぐにガルたちを見つめた。
「リリアじゃないと、やっちゅけられないの!」
その言葉に、周囲が静まり返った。
二歳の小さな王女。
いつもは笑顔で、甘いおやつが大好きな女の子。
そのリリアが、今は誰よりも強い決意を宿した目をしていた。
ガルは、その姿を見つめた。
「……王女様」
リリアは胸元のペンダントを握りしめた。
「ぱぱとまま、たすけるの。みんなも、たすけるの。リリ、いくの!」
その姿は、二歳の子どもとは思えないほど堂々としていた。
ガルはセレス、アルセリアと顔を見合わせた。
そして、静かにひざまずいた。
「畏まりました。私たちもリリア王女と共に戦います」
「私も一緒に行くよ。王女様を必ず守るからね」
「私もよ! 今度こそ、あの邪悪な魔術を止めてみせるわ!」
騎士団長も剣を掲げた。
「王女様のために。そして、この帝国を守るために。私たちも同行いたします!」
◆◆◆再び立ち上がる兵士たち
そのとき、先ほどリリアに治療してもらった兵士たちが前へ出てきた。
「私たちも行かせてください!」
「王女様に助けていただいた命です。今度は私たちが王女様をお守りします!」
「まだ戦えます!」
負傷していた兵士たちが、次々と声を上げた。
医師たちは驚きながらも、兵士たちの体を確認した。
「本当に傷が治っています……。これなら、戦うことも可能でしょう」
ガルは力強くうなずいた。
「よし! ただし、無理はするな。負傷者を守りながら進むぞ!」
「はっ!」
宮殿に、久しぶりに力強い返事が響いた。
絶望に沈んでいた兵士たちの目に、再び希望の光が戻っていた。
それは、小さな王女が起こした奇跡だった。
◆◆◆邪悪なエネルギーの源へ
リリアはリュリュのもとへ戻った。
「リュリュ、いくよぉ!」
「うん! しっかりつかまってね、リリちゃん!」
リュリュは再び虹色の龍の姿で翼を広げた。
リリアはその背中に乗り、ペンダントをぎゅっと握った。
「ぱぱぁ、ままぁ、まっててねぇ!」
ノクスは黒い翼を広げ、ガルたちの前に舞い降りた。
「邪悪なエネルギーの痕跡は、こちらだ。俺が案内する」
「頼むぞ、ノクス!」
ガルが答えた。
「王女様、私たちもすぐに続きます!」
騎士団長の声に、兵士たちが一斉にうなずく。
リュリュは大きく翼を羽ばたかせた。
虹色の光が宮殿の中庭を照らす。
その光を追うように、ノクスが先頭を飛び、ガルたちと兵士たちも邪悪なエネルギーの源へ向かって進み始めた。
向かう先には、黒い霧が渦巻く場所がある。
そこには、脱獄したザルヴェインたち三人もいるはずだった。
そして、その奥には、神々さえ警戒する暗黒の力が待ち受けている。
天界では、ゼノたちが水晶の鏡を見つめていた。
「リリア……ついに宮殿の兵士たちを救ったのね」
フィオナが胸をなで下ろす。
しかし、ゼノの表情は晴れなかった。
「じゃが、これから向かう場所は危険じゃ。暗黒の神の力が満ちておる」
アテナは静かにうなずいた。
「リリアの力があれば、道を切り開けるかもしれない。でも、決して油断はできないわ」
オルフェは水晶の鏡に映る黒い霧を見つめた。
「運命が、大きく動き始めている……」
そのころ、リュリュの背中に乗ったリリアは、前方に広がる黒い霧を見つめていた。
「リリ、こわくないの」
小さな手をぎゅっと握る。
「ぱぱとまま、たしゅけるの!」
虹色の龍が、黒い霧へ向かって飛んでいく。
小さな姫と仲間たちの戦いが、いよいよ始まろうとしていた。




