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第二歌.『いきなり寮生活』

 何もかも訳がわからない。情報量の多さですでに頭の中がパンクしている。入学式なんてもはや聞いていない。いや、聞けない。それほどまでにその他がどうでもいい。


 名前を呼ばれても上の空だ。


 俺は今頃普通科の席に座っていた。なのに体育科の方に座りこの状況に嫌気がさす。大きなため息をつくと隣から小声をかけられた。


「大丈夫? ずっと元気ないけど?」


 確か新賀歌って人……。


「う、うん。大丈夫」


 実際は大丈夫ではないけど。

 入学式が終わり、教室戻ってきた。


「入学式が終わりお前たちは詩術士として歩み始めたことになった。我々教師はその全てを叩き込む。これからは寮に入り毎日を術士として訓練を行う。しばらく親には会えないから最後に話しておきなさい」


 え? 寮生活なの? ちょ、ちょっと待ってくれ。もう追いつけない


「各自解散して会ってきなさい。30分後一階下駄箱集合だ」


 皆ぞろぞろと教室から出ていったが一人俺と同じく残っていた。


「土御門君大丈夫? 親んとこ行かんの?」


 確か関西弁の……


「讃岐君だっけ? それこそ君は行かないのか?」


「ん~? 俺関西から出てきたから、親来てないねん。君は? 何かずっと魂が抜けてるっていうか」


「俺元々普通科志望だったんだ」


「めっちゃ賢いやん」


「でも父さんにしてやられたよ。昔はそれこそ目指していたけど、段々その気も失せて……。父さんもそこまで言ってこないし周りから強制されることもなかったから縁のない話と思っていたんだけどね」


「ふーん。兄弟とかは?」


「一人っ子だよ」


「てことは土御門家の跡取りってことやな。そりゃ何が何でも入れさせるわな」


「そうなの?」


「詩術士における土御門家は全ての術士を纏めるリーダーや。そこの一人息子なら将来は同じ役職に就くことになるやろうし、何より土御門晴秋っていえば全術士の中でも最強と名高いんやで。その息子は当然期待されとる。君は全術士の未来の希望なんや」


「かもしれないけど……」


「ていうのは世間様の評価や。土御門家の人間って言っても十人十色や。君みたいなのがいても不思議やない。讃岐家もそういうのいっぱいおるし。君が偶々土御門家の当主の息子ってだけの普通の人間やん。俺、弟おるんやけど。弟も将来は外に出るって言ってるし」


 いい人なのかも。


「ありがとう、ちょっとは気が楽になったよ。えっと……讃岐君」


「斂造でええよ。晴馬君」


「ありがとう、斂造」


「親は来てるんやろ。とりあえず会ってきいや」


「そうするよ」


 もっと遠慮のない人かと思ってた。ちょっとは友達になれたのかも。


 母さんの所に行き、言いたいことを言わなければ。状況を受け入れるにしても先ずは心の整理が必要だ。


「改めて入学おめでとう」


「おめでとうじゃないよ。しかも寮生活なんて聞いてないし」


「あなたに渡した冊子『入学について』を見てないの?」


「うっ……、見てないかも」


「そうかと思って荷物は全部送ってあるから。初めて親元離れることになるけど、実際任務になればそういうは当たり前になるからその練習と思って」


「てか父さん、偉い人だったんだね。入学式にも来賓席にいたし、と、友達からも聞いた」


「お父さんから言わなくてもいいって言われててね」


「そのくせ無理やりこっちに入学させるし無茶苦茶だよ。……まぁでも友達も出来そうだしちょっとは頑張ってみるよ」


「そう? 良い子なのね。でも無理はだめよ」


 母さんとはこれでしばらくお別れか。不安しかないけどやれるだけはやろう。

 集合場所の下駄箱に行くと2クラス全員か揃っていた。


「一組は私に着いてこい。二組は清原先生に着いていくこと」


 俺たちは一組、二組は清原 凪(きよはら なぎ)先生という。


 一つの棟に一クラスが入る。地上2階建てで、先ず1階エントランスには皆が集まれそうな広場になっている。入口から見て左手には食堂がある。朝昼晩のご飯はここで食べる。コックもいて、その人が寮長だ。


「この方はこの建物の寮長渋川 清次(しぶかわ きよじ)さんだ。君らの食事や生活をサポートしてくれる。料理人は他にも数人いる。だが常駐しているのは渋川さんだけになる。元々詩術士として長く活動もされていたから相談があればこの方に聞いてもいい。私よりもキャリアが長いからまた違った知見を得られるだろう」


 見た目からして60歳は超えていそうだ。つまり現役時代は前線で戦い、離れた後はこの様に未来の詩術士のサポーターとして働いているのか。


 次は各部屋についてだ。入口から見て右手側は男子部屋とその奥には風呂場とランドリーがある。部屋には既に名札が設置されている。2階は女子の部屋で大方男子と同じだ。部屋の中はワンルームより狭いが学生にしては広い。部屋の廊下にはトイレと水場がある。簡単な料理なら出来そうだ。部屋にはベッドとテレビ、クローゼットが備え付けてある。かなり贅沢だと思う。部屋には実家から送られてきた荷物と各教材、体操服などの必需品か既にある。


「ここが最後だ」


 案内されたのはなんと地下だ。地下は自主トレーニングができるようになっている。筋トレグッズやマシーン、壁は術に耐えられる特別製らしい。至れり尽くせりだ。雨天の時もここで訓練が出来そうだ。


「これが寮内の全容だ。今日はこれですべてのスケジュールが終わりだからこの場で解散とする。土日を挟み月曜日から本格的に開始する。それまでに部屋を片付けたり、交流を深めるのも自由とする」


「「「ありがとうございました」」」


 先生はこの場から離れて行った。


「は~い、注目」


 と言うのは斂造だ。


「せっかく同じクラスになったんやし、親睦会でもせえへん? もちろん先ずは部屋の整理してから」


「さんせー!」


「歌ちゃんありがとうな。他の皆は?」


 親睦会くらいはしないとな。これから3年間を暮らすメンバーだし。


「俺もいいよ」


 二番手は俺だ。


 そして全員が賛成したので親睦会は開催することになった。


「じゃあ、晩ご飯の後にエントランス集合で!」


 という訳で各々部屋に行き荷解きだ。


 俺の場合、親が勝手に送ってきたので何が入っているのかわからない。主に私服や下着類だが、その中に手紙が一通入っていた。


【晴馬へ


 入学おめでとう。騙すみたいになったが、父さんはどうしても晴馬に詩術士になって欲しかったんだ。言い聞かせるやり方ではお前は動かないだろうから。このような手法になった。申し訳ない。


 送った荷物の中に竹刀のように長めの物があるはずだ。それは代々土御門家で伝わった相伝の武器の外見を似せたものだ。本物は父さんが持っている。いつか本物渡す為にもその使い心地の練習をしておいてくれ。名は


『都牟刈(つむがり)』


 言い伝えによると三種の神器の一つである天叢雲剣を模倣したものらしい。

 似せたものではあるが記紀に合わせて作られているから使用感は良いぞ。しばらく寂しくなるが頑張るんだぞ。次あった時文句を言ってくれ。全部受け止める。


 父より】


 そうだな。文句は会ったらいっぱい言ってやる。


 とりあえず中身を確認してみる。見た目は教科書にも出てくるような青銅剣みたいな感じだ。重さは結構ある。ずっとは持ち上げられない。


「これが武器……? なんか全く切れなさそう」


 俺にとっての剣はやはり日本刀みたいにすごく切れそうなビジュアルをイメージしてしまうが、実際は術と絡めて使うだろうから切れ味とかは関係ないのかも。

 インターホンが鳴り扉を開けた。


「や~晴馬君。荷造り終わった~?」


「終わったよ。そんな荷物ないし」


「学生の荷物なんてそんな無いしなぁ。そんなことよりご飯食べへん?」


 そう言えばもう夜か。気付かなかった。


「いいよ。行こうよ」


 食堂のご飯はビュッフェスタイルだ。聞けば夜はビュッフェ、朝と昼はいくつかあるメニューの選択制だ。贅沢すぎる。


 一番乗りで来たが次に来たのは新賀歌だ。


「けっこう早くに来たつもりだったのに~」


「俺らも今来たとこやで~」


「えっと~讃岐君と土御門君だったよね」


「斂造でええよ」


「よろしくね! 新賀歌だよ」


「知ってる。君有名人やで」


「そうなの?」


「関西を拠点を置いてる讃岐家にも名前は轟いてるで。新進気鋭の新賀家の詩姫(うたひめ)、俺らと同じ歳で既に実戦に参加してる天才って伝わってるで」


「天才なんて照れるなぁ」


 この子もう実戦に行っているんだ。同じ歳なのに。


「讃岐家にはいつもお世話になってるよ。武器はやっぱりSANUKI製だね」


「讃岐家の本文やからね。プライド持ってやらせてもらってるで。まぁ俺自身は作ったことないけど」


「斂造君って面白いね。土御門君は? 土御門家の割には何にも聞かないけど?」


「実は最近まで術士としての『何か』ってのはやってこなかったんだ。成り行きというか、騙されたというか。てか父さんが偉い人だったのも今日知ったし」


「意外だね~。色んな人いるし術士にならない人も沢山いるし」


 讃岐家もそうだけど術士家系でも術士にならない人って沢山いるんだ。何か安心する。


「じゃあ色々教えてあげるね。これでも教えるのは得意なんだよ」


 楽しく団欒しながら3人で食事をする。途中何人か入ってきたが、その中に古賀和人がいた。楽しく話していた新賀さん『むっ』と顔した。


「ど、どうしたの、新賀さん?」


「あぁ君、術士の世界知らんからこの関係も知らんのか。古賀家と新賀家はめっちゃ仲が悪いんやで。なんでかは知らんけど」


「まぁ、一族の因縁ってやつ。古賀は新賀に受けた恩を忘れて未だに突っかかってくるんだよ?」


「そ、そうなんだ……」


 一族の話だから何とも言えないや……。


 食事も終え、約束通りエントランスに集合して飲み物を片手に親睦会か開催された。皆術士なのであれこれと相伝されてきた術について相談したりされたりしていた。


 俺はまだ術士じゃないから何一つも理解できないからただ相槌を打っていた。でも話した人は皆いい人たちだ。こんな俺でも優しく接してくれる。このクラスでも何とかやっていけそうだ。



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