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1,旅立ち

 あれから一年間、師匠からの言いつけを守り毎日筋力トレーニング、柔軟運動、走り込みに励んだ。

 リシャール叔父さまのようなガッチリ体系になってしまうのではと心配していたが、結果は全くそんなことにはならなかった。

 医者も心配するほどに不健康にやせ細っていた私は、ようやく普通体系へと変わったくらいだ。きっと筋肉が付きにくい体質なのだろう。身長も去年と比べて伸びたけれど、思ったよりも伸びていない。同じ年頃の子と比べると、かなり小さい方だ。

 お母様は成人女性の平均身長だけれど、お父さまもお兄さまたちも平均よりも高い方なのになんで伸びないのだろうか。せめてお母様と同じくらいまでにはなりたい。

 だがしかし、随分と健康にはなったとは思う。風邪をひいても寝込むほど悪化しなくなったし、意識を失うこともほとんどなくなった。筋肉量が増えたからなのか、冬も人並み以上に凍えることもなく過ごせたし、真夏も簡単に暑さでばてることもなかった。

 いいことばかりだ。きっと筋肉ですべては解決するのかもしれない。

 師匠のことはとんでもない師匠としか思っていなかったけれど、今では少しだけ見直している。少しだけだけど。

 だが健康になったからと言って、障壁魔法の習得を諦めたわけではない。

 倒れることはなくとも、暑さ寒さは嫌だし、気圧の変化には相変わらずなれない。もっと快適に日々を過ごすために私は障壁魔法習得を目指し魔術学院ソルシエールに必ず合格するのだ。



 ◆



 雲一つない晴天。旅立ちの日にぴったりだ。

 ついに今日私は王都へと向かう。魔術学院ソルシエールの入学試験に合格できれば、そのまま王都に暮らすこととなり、オトテール領に戻るのは早くて夏の長期休暇の時だろう。

 そんなに長い間オトテール領を離れるのは初めてだ。不安もあるがそれ以上に楽しみでもある。

 門の前では家族と使用人一同が私を見送るために来てくれている。


「頑張ってきなさい、ブランシュ」

「何かあったらすぐに連絡するのですよ!」

「ブランシュまで行ってしまうと寂しくなってしまうな。兄としてここは、気持ちよく送り出さなければならないんだろうけど……。帰りたくなったらいつでも戻っておいで」


 マクシムお兄さまの姿はない。お兄さまは一年前に王都へ向かい、今ではサージュ学園の寮で暮らしている。

 夏休暇には帰ってきたけれど、それ以来会っていない。王都で逢う時間があればいいのだけど。

 いや、私が入学試験に合格してソルシエールに通うことになれば会える時間も出来るだろ。マクシムお兄さまからの手紙にも『何としてでも受かれ、落ちたら許さない』と書かれていたので、絶対に受かるつもりだ。


「行ってらっしゃいませ、お嬢様。コレット、お嬢様をお守りするのですよ!」

「まかせて、母さん!」


 貴族の子女は使用人を連れてきてもいいとのことなので、コレットは私の専属メイドとして一緒に王都へと行くこととなった。一人では心細いけど、コレットがいるなら頼もしいかぎりだ。


「お嬢さま、そろそろ出ませんと馬車が行ってしまいますよ」


 ここから王都まで馬車で五日ほど。丁度お父さまの知り合いの商人が領都に来ていたので、隣町まで馬車に乗せてもらえることになった。隣町に着いたらそこからは乗合馬車で王都を目指す。

 コレットの手を借り、荷台へと乗り込む。続いて手荷物を運び入れる。クラハから手渡されている大きなバスケットは昼食用だろうか。見送りに来ていた使用人たちに食べ物や日用品などを押し付けられている。これはもう少しかかるかもしれない。

 私は荷台から屋敷を眺めてみる。私が生まれてから十二年間暮らしてきた屋敷。長い間離れるのは初めて経験だ。こうやって改めて眺めると、なんだか感慨深い。

 いろんな思い出が駆け巡る。楽しかったことも、苦しかったことも、辛かったことも、悲しかったことも色々あった。今ではすべてがいい思い出だ。


「お嬢様、お待たせしました。参りましょう!」


 コレットが慌てながら荷台に乗り込むと、馬車がゆっくりと動き出した。

 お父さま、お母さま、ダニエルお兄さま。クラハに執事のアンドレ。それ以外にも屋敷の使用人たちが集まっている。手を振る人、声援を送ってくれる人、皆が笑顔で送ってくれる。

 あ、お父さまだけ涙ぐんでいる。その横でお母さまが無言でハンカチを差し出していた。

 見送ってくれる皆の顔を一人ひとり眺めていると、なんだが無性に泣きそうになってきた。でも泣くわけにはいかない。最後には笑顔でと決めているのだから。

 グッと涙をこらえて、笑顔を手を振る。


「行ってきます!」


 この日、私はコレットと共にオトテール領を旅立った。


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