第46話:チャンネル登録者数が五万人になった&五万人記念動画
「チャンネル登録者数が五万人になりました」
と、もえは笑顔で言う。お昼休憩の教室内で。外は雨が降っていて、地上は灰色に染まっている。他のクラスメイトも、「おめでとう」と、拍手してお祝いしてくれる。もえたちはお礼を言う。
「一万人から一気に五万人か。何でだ?」
るかちゃんは首を傾げる。
「きっと呉さんが、あの修学旅行で路上ライブをしていた時に、るかちゃんを弟子だと紹介したからですよ」
と、もえは言う。
「だから弟子じゃねぇよ。あたし夜風のメンバーじゃねぇだろ」
と、彼女は髪をかきあげると、
「……まぁそれでも、ありがたいよね。やっぱり元有名人に宣伝してもらうと、効果はかなりあるわ」
「今日、練習する前に呉さんに会って、お礼をゆわんとね」
と、えまちゃんは笑顔で言う。
「うん。修学旅行から帰った時にも言ったけれど、もう一度」
と、さなちゃんも言う。それから授業が続いて放課後になる。もえたちは傘をさして比治山楽器店へ¨帰る¨。さなちゃんの実家だから、帰るという言い方はおかしい。けれど、もえたちにとっては、あの場所はもう第二の家だった。
呉さんは、アコースティックギターのメンテナンスをしている最中だ。お仕事の邪魔をして申し訳ないけれど、るかちゃんは後ろへ。もえたち三人は並んで、
「呉さん。あなたのおかげで、チャンネル登録者数が五万人になりました。ありがとうございます」
と、もえたち三人は頭を下げる。
「何で私にお礼を言うんです?」
と、彼女は尋ねる。
「呉さんが道頓堀で、わたしたちに路上ライブをさせてくださったからですよ」
「そうですか。ところで、何で雨が降るのか知っていますか?」
彼女はそう尋ねる。もえは顎に手をやり、まぶたを閉じる。柔らかい地面ではなく、硬いアスファルトに落ちる雨音に耳を傾ける。――どう考えてもわからなかったので、まぶたを開けると、
「いえ、知りません」
「雲が泣いているからですよ」
彼女はそう言うと、弦交換を終える。ギターをチューニングする。椅子に座りながら、綺麗なアルペジオを奏でると、
「では、何で太陽が沈んで、夜になるんですか?」
と、次の謎を問う。海と太陽を想像して、沈んでゆくさまを。これもわからなかったので、もえは首を左右に振り、
「いえ、わかりません」
「太陽が眠るからですよ」
彼女はコードをジャーン! と、鳴らす。
「では、何で海は青いんですか?」
と、三問目を尋ねる。これにも、もえは即答で、
「いえ、わかりません」
「神様が青いクレヨンを落としたからですよ」
彼女はコードをジャーン! と、また鳴らす。
「おい何だよ、このやり取り」
「呉さん、ロマンチストじゃね」
るかちゃんはツッコむ。えまちゃんは、まぶたを閉じて笑う。――その後、もえは今日はバイトが休みなので、感謝の五万人記念動画を撮影をする。いつも通り比治山楽器店の地下練習スタジオで。
『みなさん、登録者数が五万人になりました。本当にありがとうございます』
と、もえは言うと頭を下げる。さなちゃんとえまちゃんも下げて拍手する。もえは顔を上げるとこう言う。
『それで演奏と行きたいところなんですが』
『うん』
と、えまちゃんは相槌を打つ。
『なんか忘れて気がするんですよね』
『歌詞じゃないん?』
『いえ違いますね』
と、えまちゃんは思い出させようとしてくれると続いて、
『ピック?』
『いえ指弾きなので』
『森下さん、ちゃんと動画とれとる?』
『撮れてるよ』と、さなちゃんは答える。
『そうじゃないんですよね』
『何でわからんのん?』
えまちゃんはツッコむ。彼女はスネアドラムを強く叩く。さらにバスドラムとハイハットペダルも踏み鳴らすと、
『もぅ……ええ加減、演奏するよ?『好きなこと仕事にして、メシが食えたらいいのにな』『緑色のきみ』『夜風コーヒー』『次は猫になりたい』の順番でね』
『あ、すみません! シールド忘れました! すぐに家から取りに行きますから!』
『いや取りに行かんでええ。ええったら!』
『もえちゃん、私のがもう一本あるから大丈夫だよ』
シールドというのはベース本体とアンプを繋ぐケーブルだ。それが無いと音を出せない。もえはベースをスタンドに立てかけ、防音扉へ向かおうとしたところ、二人にそう言われて立ち止まる。確かにもえの家は、二時間ぐらいかかるので止めるのも当然だ。もえは再び謝罪するとベースのストラップを肩にかけ、さなちゃんからシールドを借りる。マイクスタンドに前に立ち直す。
――演奏後、もう一度、視聴者にお礼を言うと撮影を停止する。今回はさなちゃんのギターアレンジを聞けたからある意味、レアなアーカイブになった。もえはよく物を忘れたり、失くしたりする。だから怒らない二人に感謝し、「ありがとうございます」と言った。
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