表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/65

第41話:2月29日は、るかの誕生日

※皆実えま視点




 夜の十時、うち(皆実えま)は、ホールケーキを作り終えた。

 道具の片づけをすると、歯磨きをして眠った。


 うちは毎朝五時に起きる。

 我が家の皆実家と宇品家の朝食とお弁当を作る。

 自分の分を食べると、宇品家のソファでまた寝る。

 いとこのるかに起こされる。


 今日は、るかの誕生日だ。

 彼女とうちは、いつも一緒に登校していた。


「るかってさ、夜風のキーボードやらんのん?」

「何よ急に」


 うちらは路面電車の駅で、立って待っていた。

 冬の朝風で体が、凍てつきそうになりながら。


「いや、夜風に入ってくれたらもっと楽しくなるのにって」

「あたしはバンドとか興味ないから」

「でもバンド活動したら、面白い物語が閃くじゃろ?」

「そうだな、最近書いてる」

「え、どんな?」

「主人公は前世でピアノを買うんだけど、来世でそいつをまた手に入れる感じ」

「……ちょっと執着が強すぎん?」

「そう?」

「うん。だってあんたぁ、それを人間に置き換えてみんさいや?『あんたぁ、前世でうちの夫じゃったけぇ、また結婚してーや』とか怖いじゃろ?」

「一途で良いと思うけどな」


 と、るかは笑うので、うちはドン引きする。

 電車が来て乗車しても、まだぶつぶつと創作のアイデアを披露してくれる。


 なので、他の乗客さんが、眉間にしわを寄せている。

 目を細めるうちのように。


 うちとるかは、学校の近くの駅で下りる。

 徒歩で向かい、校門を抜ける。

 下駄箱で上履きにはき変える。


 朝のホームルーム、午前中の授業。

 昼食の時間は、バンドメンバーと一緒に食べた。


――それから長い授業が終わった。

 ベースボーカルのもえちゃんは、比治山楽器店でバイトをしている。

 うちは野球場の売り子、さなは喫茶店、るかは本屋で働いている。


 もえちゃんのお仕事が終わると、うちらは彼女と合流して、宇品家へ向かう。

 るかの部屋でパーティーをする。


「るかちゃんのお部屋すごいですね! 本だらけじゃないですか!」


 もえちゃんの言う通り、るかの自室は幾つもの本棚がある。

 そこには日本から世界の小説が収まってある。


「かっこいいですねー」


 と、もえちゃんは言う。


「別にかっこよくないよ。普通でしょ」


 と、るかは返す。


「いえ、るかちゃんが」

「は?」


 るかは、もえちゃんの方を見て眉を寄せる。


「どんだけ本好きなんだよって。かっこよすぎー! ぬへへ!」

「いや笑い方、きたねぇな」


 るかはりんごのように顔を赤くしてツッコんでいる。

 自分もずっと思っていたけれど、いとこの本好き。

 一途さには、もえちゃんとは違うタイプのオタクっぽさが溢れている。


――ローテーブルの前に四人座ると、早速さなが、


「るか、お誕生日おめでとう」

「ありがとー、さな。って、え!? またあったの!?」


 るかは受け取り、目を大きく見開いて驚く。

 それは年季の入った古書だ。

 うちは何となく察していたけれど、今回もそれ関連だった。


「また古本屋であったから」


 と、さなは言う。


「マジでありがと、さな。ホント、毎回だからすげぇわ」


 るかはとても笑顔で、まるで無邪気な子供のようだ。

 そのプレゼントをローテーブル上に置いて、優しく触っている。


「おめでとう! るか! 黒ゴマ餡のもみじ饅頭とケーキね!」


 うちは笑顔で手渡す。


「ありがとー、えま。ケーキもこれもはや、五つ星レベルだわ。店開けば絶対、売れるわ」


 るかはこれも受け取ってくれる。

 その上、褒めてくれたので嬉しかった。


「おめでとうございます、るかちゃん! わたしはトイレットペ――」

「だから何でトイレットペーパーなんだよ! あんたどっかの回し者なんか?」


 るかはツッコむ。

 顔から笑顔と言う名の光が消える。


「まぁまぁ、幾つあっても困らんし、笑顔で受け取ってあげんさい?」


 うちは手を前に出す。


「えまの言う通りだよ。トイレットペーパーは本当に助かる」


 と、さなはうなずく。


「……確かにそうだけどさぁ……それでも、誕生日プレゼントに貰うもんじゃ……」


 と、るかは眉を八の字にして、


「はぁー……ありがとね、もえちゃん」


 と、ため息を吐く。

 仕方なく受け取る感じで苦笑いする。


「どういたしまして」


 と、もえちゃんは、いつも通りの屈託のない笑顔で言うと、


「ちなみに、今からでも夜風コーヒーに加入してくれませんか?」


 もえちゃんが思い切ってそう尋ねると、彼女は即答で、


「いきなりだな。いや、あたしは協調性とか無いし、全部一人でするのが好きだからね。バンドに入ろうとか作ろうとか興味ないんだよ」


 その後、みんなでホールケーキをコーヒーと一緒に食べた。

 食べ終わった時には、時計の針は二十三時を指していた。

 なので、もえちゃんとさなは、帰る支度をはじめた。

 うちらは二人にお礼を言って、玄関まで移動して見送る。


――玄関扉が閉まるとるかは、


「ホントはな、ケーキ食べる前に夕飯が食べたかった」


 と、お腹をさする。


「あぁごめん! そうじゃった! 天ぷらを作ろうとしとったんじゃった! 夜遅いけど今から食べる?」


 うちは手を口に当てる。


「食べたい食べたい」

「ほいじゃあ、すぐ作るけぇね!」


 うちは台所に立つ。

 鍋に油を入れる。

 薄力粉、卵、お水で天ぷらの衣を作る。

 泡だて器でよく混ぜる。


 さつまいも、レンコン、ナス、ごぼうを包丁で切る。

 打ち粉をして、それらを衣に包む。


 油が百七十度ぐらいに加熱したところで、ようやく揚げる。

 揚げ終わったら、菜箸で取る。

 キッチンペーパーの上に並べる。


 そして、天ぷらが完成した。

 白米を茶碗に盛り、かきたま汁も作ったのでダイニングテーブルに置いた。

 その前にるかは、既に椅子に座って待っていた。


「どうぞ召し上がって!」

「いただきます」


 るかはナスの天ぷらを食べる。

 まぶたを閉じて長く味わっている。

 美味しそうに食べる人は居るけれど、るかはまさにそのタイプだ。


――そのまぶたを開けると、


「美味しいよ。いつもありがとう、えま」


 日頃の感謝を言われたので、うちはひどく驚いた。

 あのるかが、「ありがとう」なんて言うなんて。

 うちは彼女に近寄り、手首に指三本を当てる。


「え、何?」


 るかは首を傾げる。


「いや、るかがお礼を言うだなんて、熱があるんかなって」


 と、うちは言う。


「何で脈を測るんだよ。それは生きてるかどうかの確認でしょうが。おでこによ」


 と、るかはツッコむ。


「あぁ、じゃあ――」


 と、うちは前髪を上げ、彼女のおでこに自分のおでこを、当てようとするけど、


「いや、しなくていいわ。熱なんてねぇーし」


 彼女は避けると、テーブル上に手を重ね、


「……いやぁね、いつも言おうとしてたんだけどさ、言い忘れるからさ。今が言う時だなって」


 彼女は素直に言うのが、恥ずかしいようで笑う。

 うちの目を見ずにそう伝えた。


――それがうちは、とても嬉しくて笑顔になると、


「ごぼうも食べんさいよ!」

「美味しくないから嫌」


 るかは、首を左右に振る。


「騙されたと思って食べんさい!」

「……あぁ……。うーん……騙されたわ」


 彼女は苦虫を潰すような顔をして、お茶を飲む。

 ごぼうを飲み込んだ。


「ナス嫌いだけど、天ぷらにしてくれると幾らでも食えるんだけどなぁ。ごぼうはマジで無理だわ」


 るかは、ごぼう以外の天ぷらを食べた。

 これにうちは、ため息を吐いたけれど、残したごぼうを食べた。

 天ぷらにしないと食べられない彼女を、


《いつかは、ごぼうも好きになるようにしてみせるけぇね!》


 と、思った。

最後までご覧いただき、

ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ