第40話:2月17日は、えまちゃんの誕生日
本日、二月十七日は、えまちゃんの誕生日だ。いつも通り、えまちゃんが夕食を作ってくれるとみんなで食べる。その後、彼女の部屋で誕生日パーティーをする。
「えま、お誕生日おめでとう。私はこれにしたんだ」
「ありがとう、さな。……あれ? 黒いけどこれ何なん?」
「それは¨カーボンファイバー¨のドラムスティックなんだ」
「へぇー、カーボン。そんなもんもあるんじゃね、ありがとう」
「ちなみに東海楽器さんは、アルミギターのタルボ以外にもTokai MATというカーボンファイバーのギターも製造していて――」
「はいはい、話長くなるからそこまで」
と、るかちゃんは手で制する。けれど、漫画の表現で例えるなら、さなちゃんの背後は赤い炎でめらめらと燃えている。暑苦しく語り続ける彼女を、るかちゃんとえまちゃんは無視して、
「おめでとう、えま。あたしもいつも服だけどこれは、えまにめっちゃ似合いそうだったから即決だったわ」
「ありがとう、るか。るかのファッションセンスは最高じゃけぇ毎回、嬉しいよ」
「おめでとうございます、えまちゃん。わたしはやっぱり、《実用性がある物が良いなぁ》って思いまして、トイレットペーパーに――」
「何でトイレットペーパーなんだよ。実用性ありすぎるんだよ。えまが喜ぶもんにしなさいよ」
るかちゃんは、もえをツッコむ。
「……いや、もえちゃん。丁度、切らしとったけぇ助かるわ。ありがとう」
「無理すんな無理すんな。顔、引きつってるわ。えまはこういう時、ツッコめないからな」
るかちゃんは鼻で笑って言う。場が落ち着くと、もえはずっと気になっていたことがあった。えまちゃんがもえのプレゼントを隣に置いた時にこう尋ねる。
「あの、えまちゃんって、何で担当する楽器、ドラムにしたんですか?」
「それはね、ここに引っ越してきて、《馴染めるかなぁ……友達つくれるかなぁ……》って不安だったんじゃけど、前の席の子がうちに声をかけてくれたんよ」
「あぁ、そうだったんですか」
もえは笑顔でえまちゃんとその子が出会った時を想像する。
「そうそう、その子から話しかけてくれて。音楽の話になって、『私と一緒に軽音部に入らない?』って誘われて入部したんよ」
「それで元々、ドラムはじめたくて、その入部を機に?」
「いや、違うんよ。うちは音楽は好きじゃけど、《楽器をはじめたい》と、思うたことはなくて」
と、えまちゃんは続いて、
「軽音部も三年生のベースの先輩だけが残った状態じゃったけぇ、ドラマーが必要だったんよ」
「あぁ、それでドラムはじめたんですね?」
「うん。その先輩にも懇願されたし、《せっかく、誘ってくれたじゃけぇ、これも何かの縁ということで、勇気出してドラムやってみようかな》って、流れではじめたんよ」
「そうなんですね」
「でも軽音部あるあるだよね。『ドラマーが居なくて、不本意ながら誰かが担当する』って」
と、さなちゃんが言う。
「不本意じゃないよ? うちは音楽を聞く時、まず最初にリズムに注目するけぇ、ドラムってやってみると、とても楽しくてドハマりしたんよ」
と、えまちゃんは首を左右に振る。彼女は自分の手の平を見下ろし、
「自分におうとったんじゃろうね。ずっと好きで聞いていた曲を下手じゃけど叩けるようになったり、ドラムの音をさらに注意深く聞くようなって、お家に帰っても毎日、練習パッドで練習しとるよ」
えまちゃんは立ち上がり、ベッドの上に座る。スタンドから外したパッドを両太ももの上に置く。ドラムスティックを手に取ると、軽く叩いてみせる。
「そうだったんだ。不本意って言っちゃってごめんね」
と、さなちゃんは手を合わせる。
「ええよ、謝らんでも。確かにドラム不足で誰かが仕方なくドラムをやるってケースもあるよね」
「しかしそれでしたらこのバンドに加入した時に、『ドラム初心者』って言ったのは間違いじゃないですか?」
と、もえは言う。
「間違いじゃないよ。実際、軽音部に入部したけど人数不足ですぐに廃部になってしもうてね。ドラム練習は月に一、二回程度のスタジオ練習じゃったし、文化祭ライブも出たことないし。その友達と先輩と一緒にしとっただけじゃけぇ永遠の初心者よ」
すると彼女は立ち上がると、
「さてっと。ケーキ作ったけぇ、コーヒーと一緒に食べようや?」
もえたちは、えまちゃんの部屋から出て、階段を下りる。彼女は冷蔵庫からホールケーキを取り出す。みんなで協力してお皿とフォーク、コーヒーカップの用意をする。ダイニングテーブル上に置く。コーヒーメーカーで四人分、出来る。えまちゃんは口を少し開け、首も少し傾けながら均等にカップに淹れる。「いただきます」と全員、手を合わせる。金色の装飾が綺麗なフォークでケーキを口へ運ぶ。
《えまちゃんみたいにやってみると、意外と自分に合った楽器に出会うっていうのもあるんだ》
と、もえは思うと、顔がとろけそうになる。相変わらず見た目も綺麗で、味もお店レベルの美味さに脳が、『俺は幸せだ』と叫んでいるようだった。
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