第39話:生まれてはじめて美容院に入ったけど千円カット派
「――今、言うのも何だけどさ」
と、るかちゃんはもえに近付き、髪に指をさすと、
「もしかして毎回、髪切る時、千円カットに行ってる?」
これにもえはひどく驚く。一度も髪型に関しては何も言ってない。何故、わかったのだろうか? もえは段々と顔が赤くなってくる。
「せ、千円カットで何が悪いんですか?」
「わかるんだよ。美容院とか行ったことなさそうだなって」
「千円カットでも十分、綺麗にかわいく切ってくれるんですけど? 十五回行ったらスタンプカードが溜まって、百円引きになるんですけど?」
「そこまで訊いてない」
「あと千円カットって言いますけどね。値上げで千百円になりましたし、スタンプカードも終了しましたし、シャンプーしたら千百円どころじゃないですからね?」
「いや当たり前だろ。いいから今度、美容院行くぞ」
るかちゃんはスマホを取り出すと、何か検索している。もえは横から覗き込むと、
「ちなみに美容院って幾らするんですか?」
「えー、八千円ぐらい?」
「え、たっかっ。あと二千円か三千円ぐらいあれば、アニメの円盤一枚買えるじゃないですか」
「何だよその言い方。マジでオタクだわ。じゃあ四千か五千円ぐらいのとこにすっか?」
「それだとゲームのサントラが買えるぐらいじゃないですか」
「知らねぇよ。もういいでしょ、四千円のとこで。明日、ここに電話予約しなさいよ? 日にち決まったらあたしに連絡してさ、一緒に行くから」
彼女はその美容院のサイトのリンクをパインで送る。もえは自分の緑色のスマホで見る。とても煌びやかなインテリアで、オタクは絶対に入り辛そうな雰囲気だ。――もえは手がぶるぶると震えながら、
「何言ってんですか。一人で行けますよ」
「いや、美容師さんに変なこと言いそうで、嫌だから監視するわ」
「では絶対、ついて来てくださいよ? いいですか? 待ち合わせに遅刻したらわたし帰りますからね?」
「ちょっと何だよその偉そうな感じ。もういいわ、一人で行けば?」
「申し訳ございません。お願いいたします。一人で入るのとても勇気いります。一緒に入ってください。どうかお願いします」
「引っ張るな、服が伸びる」
と、るかちゃんは突き放す。もえが彼女の服を強く掴み、深く頭を下げるけれど容赦なく。
「るか、ホンマにはじめてっぽいし、優しくあれこれ教えてあげんさいよ? 頑張ってね、もえちゃん」
「頑張れ、もえちゃん」
えまちゃんとさなちゃんに応援されて、もえはお礼を言う。数日後、生まれてはじめて美容院にるかちゃんと入ったけれど、まず店内の匂いが違う。とても良い匂いで、ずっと居たい空間だった。それが恐らくシャンプーからだと彼女は思った。なので、美容師さんに何を使ってるか訊くと、優しく教えてくださった。髪のカットもとても時間をかけてする感じだ。千円カットが何故あんなにも早くて安いのかがよくわかった。カットが終わると、眉毛と服の時と同じく鏡に映った自分が、誰だかわからなかった。
「良いじゃん、良いじゃん。かわいくなった。もう千円カットに行きたくなくなったでしょ?」
もえとるかちゃんの二人は店内を出て歩く。るかちゃんにそう訊かれたのでもえは、髪をいじりながら目を細める。
「とても良かったんですがね。ですが、千円カットの方がわたしは良いですね。美容師さんって何であんなにも個人情報、訊いてくるんでしょうか? 千円カットのおじさんは、何も訊いてこないから気楽なんですが?」
「……オタクくんさぁ」
と、彼女に鼻で笑われ呆れられた。それでも祖母への借金返済とバイト代。それで残った貯金を考えると、千円カット愛が勝った。
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