第12話:呉さんのオリジナルデザインベース
来世ではじめてのバイトは、呉さんと店長さんのおかげで、ほぼストレスフリーだった。
わからないことは呉さんこと先輩が優しく教えてくださる。
難しいことは店長さんが配慮していただき、簡単な業務に回していただいた。
――わたしは、とある日のことを脳内で映像を流して振り返る。
『先輩は、ギターやベースを弾くんですか?』
と、わたしは尋ねた。
えまちゃんも言うけれど、本当に変わったお方だ。
けれどわたしは毎日、会うたびに彼女のことがさらに知りたくなった。
『両方、弾きますよ』
『へぇー、どんなベースを持っているんですか?』
『そうですね。自分で描いた、¨オリジナルベース¨を製作していただいています』
『え、先輩が描いた!? どのようなものなんですか!?』
わたしは、オリジナルデザインという言葉に驚き、食い気味に尋ねた。
『¨黒板ベース¨です』
『黒板ベース、ですか?』
『コード表を忘れた時に便利ですよ。チョークも黒板消しも収納できて、弦の下に書くようにしてあるんです』
彼女は笑顔でスマートフォンで撮影した、そのベースをわたしに見せた。
『……それ、弦の下に黒板があったら、弦が邪魔で書きにくくないですか?」
『……そう……ですね、書きにくいです』
顔から笑みが消えた彼女はそう答えた。
彼女自身もその写真を見て。
今更、そのデメリットに気付いたようだ。
『他には他には?』
『¨ハト時計ベース¨です』
『ハト時計ベース、ですか?』
『時計が手元に無い時に時刻確認できて便利ですよ。弦の下からハトが飛び出るんです』
彼女はまたスマホで撮影した、そのベースをわたしに見せた。
『……それ、弦の下にあったらハトが飛び出にくくないですか?』
『……そう……ですね。一度も飛び出たことがありません』
と、彼女は笑顔でなくなり、そう答えた。
再び写真を自分の目で見て。
今更、そのデメリットに気付いたようだ。
『他には何が?』
『最後のはギターですが、ちょっと言えませんね』
『えー、何でですか? 教えてくださいよぉ』
『ふふっ、秘密です』
この時、呉さんは意味深長な笑顔をした。
一体、どんなギターなのだろうか?
気になって夜しか眠れなかった。
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