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【完結】夜風コーヒー  作者: 夜風セト
第1章 高校1年生編(2023年)

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13/66

第13話:ベースの練習時間&エフェクター沼へようこそ

「徐々にベースが上手くなってきたね」


 えまちゃんは、演奏し終えた後、もえの方を見てそう言う。相変わらず女子大生かと思うぐらい女子高生離れでありながらも、身長はもえよりも、メンバーの中で一番高くて美人でかわいらしかった。


 そう言われると、もえはとても嬉しかった。けれど彼女は、未だに弦を押さえる左手を見るクセが無くならない。それでも弦の押さえ方を間違えたり、押さえてもしっかりと音が鳴らないミスはかなり減ったものだ。なので自分の努力を自分自身で褒めても、罰は当たらない気がしてくると彼女は思った。


――もえは、額の汗をタオルで拭く。すると、えまちゃんがこう尋ねる。


「いつもうちら、週二日で三時間ぐらい練習しとるけど。もえちゃんは帰宅してから毎日、何時間、練習しょーるん?」


「え? えーとですね。家に帰ってぇ」

「うん」

「夕飯が出来て呼ばれるまで弾いてぇ」

「うん」

「夕飯を食べたあとも弾いてぇ」

「うん」

「いつも一番風呂なので、入浴後にまた弾いてぇ」

「うん」

「ですから、えーと」

「うん」

「わからないですね」

「いやわかるじゃろ。つまり寝るまで練習しとるんよ、あんたは」

「いえ、寝る時間がランダムなので正確な練習時間は――」

「いや正確さは求めてないんよ。じゃけぇ、練習熱心で上達するのも納得の集中力なんよ」


 と、えまちゃんは、ドラムスティックを持ったまま背伸びをすると、


「んー、うちは家事の手伝いとかもあるけぇ、ホンマはずっとドラム練習したいんじゃけど、もえちゃんみたいによう出来んわ」


「ちょっとそれが最近の悩みでして。新聞配達屋さんがやって来るバイクの音で、『あ、やべっ。もう外明るいわ』って気付いて――」


「いや大丈夫? ちゃんと寝れとる?」

「大丈夫です。授業中に寝てるので」

「いや大丈夫じゃないわいや。ちゃんと寝んさい。今度のテストでえらいことなるよ」


 えまちゃんは手を前に出し、困惑の表情をする。もえは話している内にまぶたが重たくなってくると、


「まぁまぁ、もえちゃんは一生懸命、努力しとるけぇね。えらいわホンマ、ええ子ええ子」


 えまちゃんはドラムから離れる。もえに近付き、頭を撫でてくれる。とても柔らかい手の感触と、優しいぬくもりを感じる。


「さなもえらいわホンマに。頭なでてあげるけぇ、こっち来んちゃい」


 と、えまちゃんは手招きをする。


「それよりも、私の考えたギターソロを聞いて。どう?」


 するとさなちゃんは、赤いタルボで素晴らしいギターソロを聞かせてくれる。弾き終えた涼しい顔も相まってさらにクールだ。


「うんうん。ええね、ええね。さなはホンマにギター上手じゃわ」

「えまちゃん、ありがとうございます。癒されました。わたしもなでなでしますね」

「あはは、ありがとー」


 えまちゃんは、まぶたを閉じながら笑顔で答える。彼女の髪はとてもしっとりとしていて、お花の香りのような良い匂いがする。


「うーん、こっちの音の方が良いかな」


 さなちゃんがしゃがんで、機械みたいなものをいじっている。するとまた立ち上がり、ギターの音が変化したのでもえは驚く。もえは、えまちゃんから離れるとその機械の近くでしゃがんで、


「さなちゃん、これって何なんですか?」

「¨エフェクター¨。これは¨マルチエフェクター¨だけどね」

「まるちえふぇくたー?」

「簡単に言うとこれでギターの音を色々変えられるんだよ」


 彼女はマルチエフェクターと呼ばれる、その機械のペダルを踏んでみると、


「これがリバーブ」


 彼女がギターを弾く。まるでカラオケのマイクのようにエコーがかかっている。


「おぉー」と、もえは目を輝かせる。

「これがフランジャー」


 また彼女は踏んで弾く。まるでジェット機が飛んでいるような音になる。


「おぉー」

「これがディレイ」


 またまた踏んで弾く。まるで山彦のように音が綺麗に響く。


「おぉー」

「これがピアノ」


 さなちゃんは、クラシック音楽を奏でる。エリック・サティの『ジムノペディ』だ。


「おぉー、それ聴いたことあります」


 さなちゃんはロックなギターの音に切り替え、軽く弾き終えると、


「まぁさっきのは¨ギターシンセ¨だから。もえちゃんも音作りに興味持ったら、まずはコンパクトエフェクターを一個買ってみると良いよ」


「エフェクター。《足元で何やってんだろ?》ってずっと謎だったんですが、こうやって音色を変えてたんですね。さなちゃん、今から買いに行きましょう。ちょっと付き合ってください」


「ようこそ、エフェクター沼へ。使ってないやつあるから、試しに比較しよう。今から持ってくるね」


 手を合わせてお願いするもえに、優しい彼女は赤タルボをスタンドに立てる。防音扉を開け、自室へ取りに向かう。これにえまちゃんは、鼻から深いため息を吐いて呆れていた。


 もえは見事、エフェクターの魅力にも憑りつかれた。さなちゃんに貰ったベースシンセサイザーのエフェクター。バイトの給料ではじめて購入したものなど。自分の理想とするジャズのようなウッドベースの音と共に、自分たちの曲調に合う低音の音作りに熱中した。

最後までご覧いただき、

ありがとうございました


2024.5.5

エフェクター沼を追加しました

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