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【第191話】あの頃に望んだ形




 ザキールの3つ目のスキルを探るべく俺は質問を投げかけた。


「スキル自慢をしたついでに最後のスキルもこの目で拝ませてくれよザキール」


「馬鹿言え、最後のスキルは完全に1対1じゃないと不利になる。それどころか使ってしまうとガラルドを連れて帰ることも出来なくなる可能性があるのは分かっているだろう? 何が何でも使わねぇよ。そこの起きあがろうとしている2人も含めて貴様ら全員『悪魔の右手』さえあればお釣りがくるんだよ」


 どうやらこの言い方だと中々使いどころが難しいスキルのようだ。そしてザキールはレックとグラッジの方へ目線をやった。するとザキールの言う通りグラッジとレックが足を震わせながらも何とか立ち上がってみせた。


 レックは剣を杖代わりにして体を支えながらザキールについて言及する。


「ハァハァ……さっきイグノーラ軍に加勢したばかりの俺には分からないが魔人にはスキルが3つ発現するのだな……お前の仲間の魔人も皆そうなのか?」


 レックが切り込んだ質問をするとザキールは舌打ちをした後に意味深な言葉を呟く。


「魔人は3つスキルを発現する可能性はあるがあくまで可能性の話だ。人間と同じで全く発現しない奴だっている。それと1つ断っておくが俺様に魔人の仲間はいねぇ。2度とふざけた質問をするんじゃねぇぞ」


 ザキールはあからさまに不機嫌になっている。この言葉の意味するところは一体何なのだろうか? 同じ目的を持つ魔人の仲間はいないけれど魔人自体はそれなりにいるという事だろうか?


 もしそうだとしたら人類を滅ぼそうとするザキールと過去に現れた1番目の魔人ディアボロス、そしてグラド達が敵わなかった2番目の青色の魔人、その3人だけが異質な存在であって他の魔人は好戦的ではないのかもしれない。


 この場にアーティファクト『ジャッジメント』があれば捕縛した後、質問攻めにしてやるのだが無い物ねだりをしても仕方がない。


 話をしている間にグラッジとレックは足の震えが止まったようでザキールを警戒しつつ俺のいる位置まで歩いてきた。そして、グラッジは開口一番俺達に謝り始める。


「僕がカッとなって2人を危険な目に合わせてしまい本当にごめんなさい……」


 謝るグラッジの肩に手を置いたレックは優しい声で呟く。


「グラッジ殿、俺はあなたを責められるような人間ではありません。むしろ義憤で動いたグラッジ殿は俺よりずっと立派な人です。俺なんて一緒のパーティーの人間に対してすら酷い言動をとってきた人間なので」


「レックさん……」


「レック……」


 分かってはいたが、やはりレックの抱える罪悪感は相当なものだ。身を張ってグラッジを守ってくれただけで、もう充分なのだが。そんなレックはまるで死に場所でも求めるかのように危険を伴う役割をやらせてくれと提案する。


「2人とも聞いて欲しい。2人のように高火力技のない俺が先頭に立って盾役を務めようと思う。俺もガラルド程ではないがヘイト系の魔術が使えるからな。だから約束してほしい、俺に何があってもザキールを倒してくれ」


 覚悟決めて言い放つレックに対して俺は『何を言ってるんだ!』と否定するつもりだった。だが、それよりも早くグラッジが「レックさんの覚悟を受け取りました」と返し、戦いの姿勢に移行する。


 甘ったれの俺とは違い、2人は『覚悟を持つ』ことと『覚悟を見届ける』ことがどういう事か理解できているのだろう。俺もレックに応えるべく首を縦に振った。


「ヘイト・エンチャント(付与) ソード&シールド!」


 レックは剣と盾にヘイト魔力を付与すると軽く苦笑いを浮かべる。


「奇妙なもんだなガラルド。盾役と火力役が一緒のパーティーだった頃と逆になっているのだからな」


「今だって同じパーティーだろうが。それに俺は後ろからでもお前を守ってやる、安心して先頭を突っ走ってこい」


「フッ、そうだな。よし、行くぞ!」


 吹っ切れたような微笑を浮かべたレックが勢いよくザキールに向かって走り出す。その後ろを俺とグラッジがピッタリとついていくとザキールが目にも止まらぬスピードで踏み込み、左手で正拳を放つ。


「うぐっ!」


 ザキールの強化されていない左手で、なおかつ盾でしっかりと防御したにも関わらずレックは呻き声をあげる。それだけ基礎的な腕力が凄まじいのだろう。


 だが、盾で防御できたのは好都合だ。レックは剣だけではなく盾にもヘイトオーラを纏っているからだ。


 死の山での戦闘同様、案の定ザキールの敵意はレックに集中している。完全に俺とグラッジから気が逸れている今がチャンスだ。ザキールの背中へ俺は拳を、グラッジは氷の剣を叩きこむ。


「うがあぁぁ!」


 手応えのある確かな2連撃がザキールの背中に炸裂すると、うめき声をあげたザキールは膝をつく。流石にこれだけのダメージを与えれば敵意はレックから俺とグラッジへ移ったようでザキールはレックへの攻撃を中断した。


 そこからは気の抜けない緊迫した打ち合いが続いた。俺とグラッジが数発攻撃を当てればレックがヘイト技を1撃加えてターゲットを自分に向ける流れを繰り返す。その間ザキールは重たい1撃をレックの盾に何度も撃ち込んでいた。


 レックと俺は役割を逆転させているうえに連携を取るのも久しぶりな訳だが不思議と息の合った戦いが出来ていた。それなりに長い期間一緒の班だった事実が、まさかこんなところで活きてくるなんて人生とは分からないもんだ。


 思えば、あの頃はレックとこんな風に対等に肩を並べて戦える日を望んでいたような気がする。どっちが上とか下とか、役に立つとか立たないとか関係なく真の意味での仲間になりたかったんだ。ようやくだが理想の形になる事が出来た。


 そんな事を考えながらも俺は戦況の分析をすすめていた。攻撃をヒットさせている数で言えばこちらの方が5倍以上多いが、それでも状況的にはザキールが優勢だった。


 ザキールはボロボロになっても尚、俺達より魔力も魔量も多く、悪魔の右手の破壊力は手数をもろともしない程に手強いものだった。




 そして、均衡は突如崩れる事となる。ザキールが右拳を振り抜いたその時、金属の割れる音が鳴り響いたのだ。


「なっ……俺の盾が!」


 ずっとザキールの攻撃を防ぎ続けていたレックの盾が度重なる衝撃で割れてしまった!





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