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【第190話】右手




 旋回の剣(せんかいのつるぎ)を手に入れた俺達は南城門前に到着した。すると身体中傷だらけのザキールが平原の真ん中でソル兵士長と兵士達に包囲された状態で浮遊していた。


 死の扇動(クーレオン)を二重で使用したことによる反動は傷と消耗具合から感じ取れる。


 俺達は囲んでいる兵士達を掻き分けザキールの前に行くと奴は地面に着地し、ゆっくりとした喋りでありながらも積憤(せきふん)を抑えきれていない震えた声で話を始める。


「やってくれたなぁ貴様ら。おかげで俺様の信用はガタ落ちだ、どうしてくれるんだ?」


 確かにザキールは死の山で負けているうえに回復後に魔獣群を率い再戦でも負けてしまっている。仮にここから逃げ出してアスタロトのところへ帰ることができても顔向けできないだろう。


 だが、それは所々に隙や精神の未熟さが際立つザキールの自業自得だ。俺はザキールに降参を促す。


「帰ってアスタロトに怒られるのがそんなに恐いのか? だったらお前を縛り上げてイグノーラで保護してやるぞ? だから、もう諦めたらどうだ?」


「相変わらず舐めた口をききやがるなガラルド……だが、そんなに強気に出ていいのか? こっちは王様を人質にしてんだぜ? とりあえず戦争は終わりにしてやるからガラルドだけは俺と一緒に来い。俺様にはまだ貴様を父親のところに連れて行く任務が残ってんだよ」


 戦争に負け、自身もボロボロであるにも関わらず姿を現わしたのは俺を連れて行きたかったからのようだ。その為にグラハム王の名をちらつかせてきたわけだが、そんな脅しは意味が無い事を俺は知っている。


「お前の脅しには力がねぇよ。魔獣寄せを持つグラハム王が死んで都合が悪くなるのはむしろザキールの方だろ? 肉親であるグラッジを揺さぶりたいようだがグラハム王も俺達も死ぬことなんてとっくに覚悟してんだよ。もう1度言う、お前の言葉に力はねぇ」


「ク、クソッ! クソッ!」


 ザキールは地面を蹴り飛ばし、激憤している。ザキールは今まで直接戦ってきた敵の中でアスタロトを除けば1番強いが、同時に最も扱いやすく思考が読みやすい。


 後はこのまま意識をもっとこっちに向けさせて逃亡されないように誘導するだけだ。俺はザキールを更に挑発する。


「そうやってバレバレの企みをして感情も剥き出しにしているからお前は浅はかで小物なんだよ。まぁ俺も嘘は苦手だからあまり偉そうな事を言えないけどな。大人しく分相応な生き方をした方がいいんじゃないか?」


「…………あ?」


 ザキールが数秒後には殴りかかってきそうな殺意に満ちた目と声で俺を威嚇する。これでもう逃げる選択肢は無くなったはずだ。俺は最後に開戦を促す言葉を添える。


「随分と腹が立っているようだな、だったら俺をぶっ倒して無理やり連れて行けよ。俺もお前には散々腹が立っていてぶん殴りたいと思ってたんだ。思いっきり戦ってお前を捕縛してやるよ!」


 俺は半分打算、半分本心の言葉を放ったあと、仲間達と共に戦闘態勢に入った。しかし、ザキールは意外にも俯いたまま動かず沈黙してしまう。


 さっきまでのキレっぷりが嘘のように静かになり、不気味さを感じているとザキールは突然右手を正面の俺達ではなく斜め右にいる兵士達に向けた。そして、一言も発さずに手から業火を放出する。


 いきなり過ぎて俺は反応が遅れてしまった。だが俺とは違い瞬時にレイピアを抜いて反応したレックは兵士を守るためにスキルを発動する。


「バニッシュ・トラスト!」


 業火が兵士に直撃するギリギリのところでレックのレイピアから発せられた光が火の魔力をかき消した。俺は冷や汗を拭ってレックに礼を伝えた。


「た、助かったぞレック、ありがとな」


「気を抜くなよガラルド、今のザキールみたいに心底キレた奴はどんな手だって使ってくるからな。今の魔術だって『守らなければいけない的が増えたぞ』というメッセージと解釈した方がいい。すぐに俺達以外を退避させるぞ!」


 レックから俺への言葉を聞いたソル兵士長は急いで兵士達に退避命令を出した。だが、それよりも少し早くザキールは兵士達に向かって走り出す。


「よく分かってんじゃねぇかレック、貴様には悪党の心理が理解できるようだなァァ!」


 狂気的な笑みを浮かべて走るザキールに堪忍袋の緒が切れたグラッジが足から爆風を生み出し、誰よりも速くザキールに近づき斬りかかる。


「ザキールッッ!」


 髪を逆立て、激越したグラッジが振り下ろす氷の剣は鋭く強烈だった。しかし、ザキールは右腕一本で難なく剣撃を受け止めてしまう。


 困惑するグラッジを前に邪悪な笑みを浮かべたザキールは蹴りをグラッジのみぞおちに打ち込んだ。


「グハァッ!」


 力強い蹴りを受けて唾液と空気を吐き出したグラッジは堪らずその場に膝を着いてしまった。そんなグラッジを見下ろしたザキールは右腕に魔力を溜めて呟く。


「貴様なら激昂して単身突っ込んでくると思ったぜ。右半身が治った今の俺様は最強だ。それを証明する為にスキルで殺してやるよっ!」


 ザキールは勝ち誇った顔で叫ぶと右腕を頭上へ振り上げた。すると発光をはじめた右腕が突如巨大化し、一瞬で馬二頭分のサイズへと変化を遂げる。


 その右腕は力強さもさることながら漲る魔力が半端ではない。うずくまっているグラッジにあんなものを振り下ろされた致命傷になりかねない……急いで助けに行かねばと走り出す俺よりも速く、レックが背後から爆風を出して移動する魔術『バック・ガスト』で飛び出していた。


「死ねやァァ!」


 ザキールが目をギラつかせて剛腕を振り下ろすと寸でのところでレイピアを構えたレックが滑り込んだ。


 剛腕はレイピアと衝突すると同時に纏っていた魔力を何割か消失させたが、それでも勢いは止まることなかった。レックはグラッジを巻き込む形で強く叩きつけられてしまう。


「グアアァァッ!」


 グラッジをかばい、ザキールに叩きつけられたレックは呻き声をあげて地面に倒れた。レックのバニッシュ・レイピアを以てしてもザキールの右腕は止められなかったようだ。


 幸いグラッジへのダメージは軽減できたようだが、それでも倒れていない前衛は俺だけになってしまった。俺がサンド・ステップで慌てて横から攻撃するも、ザキールは肥大化していない左腕だけで俺の拳を防いでしまう。


 消耗しているはずなのに、それでも死の山で戦った時よりも強くなっている気がする。たじろぐ俺を前にザキールは不敵な笑みを浮かべるとレックを指差しながら告げる。


「そこのレックとかいう男、魔力エネルギーを消失させるスキルを持つらしいな。そのスキルで俺の右腕を止められると思ったようだが、あいにく相性が悪かったな」


 ザキールの言葉の意味が分からなかった俺が「相性とはどういう意味だ?」と尋ねると奴は右腕を掲げて自慢げに語り出す。


「お前らは広場で俺のスキル情報を盗み見たわけだし教えたところで俺様の勝ちは揺るがない。だから丁寧に理由を教えてやるよ。俺様のスキル『悪魔の右手』は右手の魔力・腕力・質量も全て強化する事が出来る性質がある。レックのスキルで減少させられたのは魔力だけなんだよ。肉体そのものを強化している俺様の右手にバニッシュを当てても効果は薄いわけだ」


 グラッジが言っていた情報だと確か、広場でザキールに全知のモノクルを当てたもののスキル詳細は死の扇動(クーレオン)の事しか分からなかったけれど、ハッタリで分かったフリをしていたらしい。


 そのおかげでザキールが勝手に『悪魔の右手』についてベラベラと喋ってくれたのは正直ありがたい。


 あとは3つ目のスキルについても知りたいところだが……どうにしかして聞き出す事が出来ないだろうか? 俺はザキールのスキルを理解していないのがバレないように工夫して探りを入れてみる事にした。





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