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【第144話】魔力循環




――――五英雄と同じ特訓をこなし必殺技を伝授する――――


 そう宣言したゼロはパラディア・ブルーが入った袋を抱えると突然部屋の灯りを1本だけ残し、他の全てを消した。そして袋からパラディア・ブルーを取り出すと、まるでネックレスの様に首へ巻き始めた。


 奇妙な行動を取るゼロは少し恥ずかしそうな顔をした後、全身に魔力を漲らせながら説明を始める。


「ちょっとダサい格好だけど、これが特訓のスタイルだよ。部屋を暗くしたのはパラディア・ブルーを枯らせない為だ。全力で目を凝らして僕の体を流れる魔力を見て欲しい、僕の魔力がパラディア・ブルーに吸われているのが分かるかな?」


 ゼロの言う通り凝視してみると確かに少しずつではあるが川の様にパラディア・ブルーへ魔力が流れている。そのせいかパラディア・ブルーは徐々に元気になっていき色づきもよくなっている一方、ゼロはみるみる疲弊していく。


「ハァハァ……今見ている通り魔力・魔量というのは本来血液のように循環できるものなんだ。だけど、大半の戦士は魔力・魔量という概念を桶に溜めた水の様に解釈して使っている。それでは人体で言うところの血流が悪いのと同じだ。最大のパフォーマンスを発揮できているとは言い難い。パラディア・ブルーは魔力を吸い取って魔力の流れを花の方に寄せる性質を持っているから、こいつを利用して魔力を血流の様に循環させる感覚を学んでほしいんだ」


「……理屈は分かったが、魔力を血流のように循環させることで、どれだけのメリットがあるんだ?」


 俺が問いかけると、ゼロは突然手に魔力を集中させて「アイス・シールド」と2回叫び、氷の盾を2つ生成してみせた。そして、氷の盾を2つとも俺達に渡してきた。


 渡された氷の盾のうち片方はかなりの硬度をほこっているが、もう片方はやや物足りない出来だ。その点を指摘するとゼロは説明を続ける。


「そう、循環が良くなると魔力の質が良くなって魔術・スキル・肉体強化あらゆる点で1段階上にいけるんだ。おまけに循環がいいということは常に暖気できている焚き火と同じようなもので魔量効率も良くなるし、魔術やスキルを使った時の体への負担も軽くなるんだ」


 なんだか胡散臭い商人のような語り口だが、嘘を言うメリットも無いだろうし本当のことを言っているのだろう。とはいえパラディア・ブルーに魔力を吸われ続ける特訓は相当堪えそうだ……強くなれるならなんだってするつもりではあるが、ちょっと気が重い。


 ゼロは説明を終えると、大量のパラディア・ブルーが入った袋を俺達に渡して全員で特訓する為の大部屋の鍵も渡してくれた。


「この鍵を使って大部屋で特訓してね。低質なパラディア・ブルーは特訓する為だけなら研究所が提供した分だけで足りるだろう。だけど、死の山を大人数で探索するなら、その袋の30倍ぐらいの量は必要になるよ。だから死の山探索の際は大量にパラディア・ブルーを用意するか、少人数で探索することで消費量を抑えるかの2択となるね。どっちにしても大変だろうけど頑張ってね、それじゃあ僕は研究に戻るよ」


 そう言って、ゼロは部屋を出ようとしたが、まだ肝心の必殺技とやらを教えてもらっていない。俺はゼロに必殺技の詳細を尋ねた。


「ちょっと待ってくれゼロ。特訓方法は教えてもらったけど必殺技とやらはまだ教えてもらってないぞ」


「必殺技伝授に関してだけど、ちょっと気が変わってね。とりあえず君達は数日かけて魔力の循環を鍛錬してほしい。それが出来たら今度はパラディア・ブルーを集めに60層以下に向かってもらう。そして、パラディア・ブルー集めも終わったら、ようやくお待ちかねの必殺技を教えてあげるよ。知りたかったら集中して特訓を頑張って1日でも早く完成させてね、それじゃ」


「あ、ちょっとま――――」


 俺の呼びかけも虚しくゼロは部屋から去ってしまった。その必殺技とやらがあれば、60層以下の探索も楽になるかもしれないのだから事前に教えておいて欲しかったのだが……。きっとゼロには何か考えがあるのだろう。その後、リリス達が呼んできたガーランド団を大部屋に迎え、俺達はパラディア・ブルーによる魔力循環特訓を開始した。




※




 ウィッチズケトル内の大部屋で魔力循環の特訓を始めてから早10日が過ぎた。毎日パラディア・ブルーに魔力を吸われることで皆の体は常にヘロヘロだった。


 死の海での消耗具合を思い出す程に過酷な特訓の日々に嫌気がさす一方、技術者組はウィッチズケトルの学者たちと毎日楽しそうに交流している。


 話を聞く限り、どうやら新しい武具の加工技術や薬学・魔術学に加えて、古代語の知識なども教えてもらっているらしい。魔力循環の特訓を続けているサーシャは恨めしそうに技術者たちを見つめていた。


 そして、シルバーは魔力循環の特訓をしつつ、辛くなったら「俺は技術者代表だから特訓を程々にして学者たちと絡んでくるぜ」と言って度々特訓から離脱していた。


 どうみても逃げているようにしか見えないが一応言っていることに道理が通っているから止めることは出来なかった、チクショウ……。


 だが、努力の甲斐もあって俺達の力は確実に成長していた。1度だけ俺とグラッジで模擬試合をしてみたが、お互いに自分の体とは思えないぐらいに力強さと俊敏さを実感することとなった。なお勝負はグラッジに負けたが俺は全然悔しくない……いや、ホントはちょっとだけ悔しい。


 何はともあれ俺達が順調に日々を過ごしていると、久々にゼロがガーランド団全員と学者全員に召集をかけた。全員が集まったのを確認したゼロは今後の予定について話し始める。


「ガーランド団の皆さんもすっかり逞しくなったことだし、そろそろ下層へパラディア・ブルーを取りに行こうか。皆さんの魔力を吸って成長したパラディア・ブルーとこれから取りに行く分を合わせれば、死の山探索分の量は確保できると思うしね。そして、それが終わったらいよいよ死の山へ向かおう。その時は一部の学者たちもついていくから」


 遂にこの時がやってきた。その後ゼロは健闘を祈るとみんなを激励し、全員が掛け声で応じた。パラディア・ブルー採取作戦スタートだ。


 俺はガーランド団の戦闘組を連れて外に出ると外にはゼロが立っていた。


「言い忘れていたけど採取には僕もついていくよ。あ、心配しなくても僕はそこそこ強いから自分の身は自分で守れるからね。それじゃあ、レッツゴー!」


 まるで遠足にでも行くかのように、楽しそうに腕を振りながらゼロは先頭を歩いている。ゼロはどうみても華奢で弱そうだが、本当に大丈夫なのだろうか?


 少し心配になりつつも俺達は下の階層へと進んでいった。





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