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【第138話】無法の町カリギュラ




 ソル率いるイグノーラ兵団の攻撃を防ぎ切り、モンストル号に乗り込むことが出来た俺達はカリギュラへ向けて海路を進み続けた。


 イグノーラから陸地を南に真っすぐいけば5日程度で着く距離を海路で迂回し、追手に見つからない様に進んだこともあってカリギュラ近くの海岸へ到着するのに7日を要した。


 海岸に着いてからは平原を徒歩で数時間かけて進み、昼過ぎにようやくカリギュラ手前の丘まで辿り着く。丘を降りる時間を含めて恐らく2時間もかからずにカリギュラに到着できそうだ。


 リリスは丘という高い位置から見下ろしているにも関わらず首を上下左右に動かしたり背伸びしたりとコミカルな動きをしながら双眼鏡でカリギュラの方を見つめている。俺は少し笑いながらリリスに尋ねた。


「フフッ、何をしているんだリリス? そんなにカリギュラに興味津々なのか?」


「笑わないでください、私は真剣なんですから! カリギュラをよく見てくださいよ。正円状の大きな町で背の高い建物も多いですが、妙に建造物が虫食い状態になっているのです。それに手前側の建物が陰になって分かり辛いですが町の中心が妙にスカスカな気がするのです」


 言われてみれば妙だ。リリス以上に視力が高い俺は双眼鏡を借りて見てみたが確かに建物が虫食いになっている、あれは廃墟群だろうか? それに普通の町なら中心地こそ発展しているものだが、建物すら無いように見える。


 とにかくもう少し近づいてから様子を探りつつ慎重に町の中を歩きたいものだ。俺達は丘を下り、カリギュラへと歩を進めた。




※




 丘を降りた後は視界を塞ぐ背の高い草が生い茂る平原を掻き分けながら進んでいった。進んでも進んでも草ばかりで全員が少し疲れ始めた頃、最後の草を掻き分けた先にようやくカリギュラが姿を現す。


 警戒しながら町の入口に行くと、そこには何十年単位で放置されたような石でできた高層の建物が所狭しと立ち並ぶ景色が広がっていた。窓という窓が割れており、そもそも窓にガラスがない建物もある。家壁もヒビ割れたところが大半だ。


 道では当たり前のようにネズミが徘徊していて、ボロボロの敷物の上に座って虚ろな目をして空を眺めている人も多い。路上で生活する彼らのほとんどは体が痩せ細り、不衛生な身なりをしている。


 シンバードや帝国リングウォルドなど比較的裕福なところを旅してきた俺達にとって衝撃的な光景だった。双眼鏡で見たおぼろげな景色は荒廃した建物と町が醸し出す雰囲気だったのかもしれない。


 俺達ガーランド団は全滅という事態を避ける為に、ひとまず主要メンバー5人だけで町を探索する事にし、他の団員には外での待機を命じた。


 町の案内板も無ければ看板もないこの場所でどこを目指して歩けばいいのか途方に暮れていると俺達の目の前を2人の男が全力で駆けていった。


 その2人のうち前方を走っている男は見るからに気弱そうな男で買い物袋っぽいものを胸に抱えて涙目になりながら全力で逃げている。


 その一方、後ろを追いかけている男はギラギラした装飾を身に着けた絵に描いたようなゴロツキだ。ナイフを片手に「買った物を置いていけや!」と気弱そうな男を追いかけている。


 まさか町に入って3分も経たずに犯罪を目の当たりにするなんて。グラッジが言っていた危険な町という情報を早速実感する事になった。


 とりあえず追われている人を助けてあげなければ。俺が走りだしたその時、突然ゴロツキの斜め後ろにある建物の屋上から矢が飛んできてゴロツキの太ももに突き刺さった。


 俺はすぐさま屋上の方を見上げると矢を放った中年男性は屋上から飛び降りてゴロツキの目の前まで走ってきた。弓を持った人間はもう1人いたようでこちらは若い男のようだ。そいつは周りをキョロキョロと警戒しながら矢を放った中年男性に話しかける。


「やりましたね先輩。こいつはゴロツキの割に身なりがいいから、きっと金をいっぱい持ってますぜ」


「そうだな、この町では金を持ってそうな奴から真っ先に狙われるってルールを知らなかったようだな。恐らく他の町からきたゴロツキだろう。人間も動物も獲物を追い詰めている時が1番無防備だっていうのによ。背中をガラ空きにして追いかけっこするなんて馬鹿な奴だぜ」


 俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。無法の町というだけあって、ここでは狩る・狩られるは日常茶飯事なのだ。


 2人組の年長者の方が言っていた通り、狩る瞬間というのは大きな隙ができるのは正しい。故に奴らは他の人間に襲われる心配がないよう、建物の屋上から狙撃してきたのだろう。


 ものの数分でカリギュラが気を休める暇のない場所だと理解が出来た。だが、だからと言って悪人を放っておくわけにはいかない。


 ナイフを持って追いかけていたゴロツキも当然悪い奴だが、弓使いに金品を奪われる理由もない。俺はゴロツキを守る為に弓使いの前に立ちふさがり、リリスは荒々しく弓使いを注意する。


「やめなさいあなた達! 武力で金品を強奪するなんて、そこのゴロツキと同じですよ! 犯罪に手を染めるのはやめてください!」


 すると、年長者の弓使いが肩をすくめながら語り始めた。


「そこのゴロツキと俺達が同じだって? そんなの当たり前だろうぉ? ここではそもそも犯罪なんてものも無ければ刑罰も無い、何でもありの場所だ。それでも犯罪と定義するなら俺達もそこのゴロツキも犯罪者という職務を全うしているに過ぎないんだよォ!」


「何をでたらめなことを……そんなの私達が許しませんよ!」


「許さなかったらどうなるんだぁ? 頭数こそそっちの方が多いが、お前らみたいな他所でぬくぬく育った人間に何ができる? お前ら纏めて身包み剥いでやるよォ! 特に俺達に喧嘩吹っかけてきた銀髪の女、お前は見た目だけは良いから金になる店に売ってやるよ。そこで※※※※※して稼いでくるんだな、ギャハハッッ!」


 こいつらは耳が腐りそうな下劣な言葉をリリスに吐いた。その瞬間怒りによって俺の頭の中で何かがはじけ飛んだ。俺は手の届く範囲まで弓使いに近づき全力で拳に魔力を込めながら呟いた。


「今、お前は言ってはいけない事を言った。ぶん殴られる覚悟は出来てんだよなァァ!」


 俺はこれまで生きてきて1度も出したことがないレベルの厳めしい声で問いただした。1発で弓使いの体を貫けるほどに高まった拳の魔力に恐れをなした弓使いは涙を浮かべて肩を震わせながら両膝を着いた。


「あぁ、あああぁあぁ、す、すいませんでしたぁぁ、ゆ、許してくださいィィ!」


 どうやら弓使いは最低限力量差を感じ取れる程度の実力はあったようだ。元々殴るつもりなんて無かったが、力を誇示して威嚇するという俺らしくない手段を取ってしまうぐらいキレてしまったようだ。


 思えば、初めてリリスを見かけたヘカトンケイルのギルドでもリリスは酔っ払いに絡まれて下劣な言葉を吐かれていた。あの時は怒りを抑える事が出来たのに今回は抑えられなかった。


 それは今回の方がより一層汚い言葉だったからだろうか? それとも長い間一緒にいてリリスに強い愛着が湧いたからだろうか? 恥ずかしいから前者であることを信じたい。


 俺はリリスにゴロツキの足を治療してくれとお願いし、膝を着いた弓使いに目線を合わせて質問する。


「1つ質問に答えてくれ。カリギュラで1番スキルや古代学関連に詳しい奴がどこにいるか教えてくれ」


 弓使いはブンブンと勢いよく頷くと、この町のことを含めて色々と語り始めた。





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