絶頂
バナナイカ王国。
国王であるバナナイカ877世は自室でほくそ笑んでいた。
「ぐふふっ、全てのことが順調だ!順風満帆だ!私こそがこの世界の王だ!!」
先日のト・オーク帝国の使者との謁見でこの大陸にある6つの国全てとの交渉が完了した。
どの国ともバナナイカ王国にとって非常に有利な条約を結ぶことができた。
例えば貿易にかかる関税を全てバナナイカ王国側で決めることができるようになったことなどだ。
「それもこれも勇者が魔王を倒してくれたからだ。勇者様々だな。」
世界を手中に収めようとしていた魔王。
人々は恐怖し、魔族や魔物の襲撃に怯える日々を送っていた。
しかし、魔王は討たれた。
バナナイカ国王が支援した勇者ルートヴィッヒ一行によって。
「実際に魔王を倒したのはラルクという者らしいが、その者は勇者によって葬られたと黒騎士たちから報告が上がっておる。世間的には勇者が魔王を倒したというストーリーの方がウケがいいしのう。」
自分が支援していた勇者パーティーのラルクという男。
しかし、記憶にないということは取るに足りない存在なのだろう。
どうせ勇者ルートヴィッヒが弱らせたところをたまたま止めをさしたのだろうと高をくくっていた。
「だったら見た目の良いルートヴィッヒを英雄に仕立て、娘の婿にして私の道具とするという策が大当たりじゃった。」
目論見通り、魔王を倒した勇者を輩出し、次期国王として控えるバナナイカ王国は他国への影響力を増していった。
簡単に言えば「魔王を倒してやったんだから言うことを聞け」だ。
「この大陸を手中に収めようという魔王を勇者が討伐してくれたおかげで私がこの大陸を手中に収めることになるとはのう。ぐふふ……わーはっはっは!」
バナナイカ877世の人生はまさに絶頂を迎えようとしていた。
ちなみにバナナイカ877世と名乗っているが、歴史があるように見せるためで実際は現国王で16代目である。
それでも十分に由緒正しき家柄ではあるが、それ以上に見栄っ張りな性格なのだ。
勇者ルートヴィッヒ。
「ちょっと怠けすぎてたかな。最近、腹の周りに余計な肉が付いてきた気がするな。」
「そうですわ、ルートヴィッヒ様。初めてお会いした頃と比べるとだいぶふくよかになられたのではありませんか?」
テーブルを挟んで紅茶をすするローザ姫が言う。
(そうだな。魔王を倒す旅をしていた時と違って全然運動していないからなあ。いくら体型が変わっても洋服を買い放題とはいえ、そろそろダイエットしないと……。)
ルートヴィッヒがキメ顔を作ってローザに告げる。
「結婚式も半年後に控えてますし、ね。」
「そうですわ。」
魔王を討伐したちょうど1年後に、魔王討伐1周年の記念も合わせて祝えるように結婚式を挙げることになっていた。
2つの祝い事をまとめて行うことで自分が使える金を増やそうというバナナイカ王の提案である。
「それでは、ダイエットのためにも今夜はふたりで激しく運動いたしましょう。」
「恥ずかしいですわ。」
勇者もまた栄光の絶頂を迎えようとしていた。
同時刻。
城の前に背の高いひとりの男が立っていた。
成人男性の平均身長が170センチメートルほどのところ、この者の体躯は2メートル以上あった。
「ここはバナナイカ城だ。用無き者は速やかに立ち去るがよい。」
門の前に立っていた兵士が長身の男に声をかける。
「王に会わせろ。」
「何を言っている。いきなり王に会えるわけがないだろう。怪しい奴め、これ以上ここをウロウロするというならしょっぴくぞ?」
「ふん。」
男が睨むと兵士が、いや、その場にいた全ての人間が気を失って倒れる。
倒れている人間たちに一瞥もくれることなくその長身の男は城の中に入っていく。
その男を囲むように4つの黒い影が陽炎のように揺れていた。
再び王の自室。
「メアリーちゃんのかわいい2つのお山はどこかなあ?」
目隠しをしたバナナイカ王が愛人と追いかけっこをしていた。
「うふふ、こっちですよ。」
「ぷにぷにのお山はどこだあ?ここかなあ?」
ぷにっ。
バナナイカ国王の左手がぷにっとした感触をとらえる。
「ひっ!」
「メアリーちゃん、そんなに怖がらなくても大丈夫。これからするのはとても気持ちがいいことなんだからね。ぐへへっ。」
「ほう、それは楽しみだ。」
「だ、誰だ!?」
突然聞こえた男の声が聞こえ、バナナイカ877世はぷにぷにを収めた右手はそのままに左手で目隠しを外す。
目の前には長身の男が立っており、彼の股間にはバナナイカ877世自身の左手が添えられていた。
「あ、あれ?」
思わず左手をにぎにぎする。
ぷにぷに。
「ちょっと俺の股間をまさぐるのやめてもらえます?」
バナナイカ国王に股間をまさぐられている長身の男。
この男こそ前回の魔王を超える脅威、大魔王である。
愛人の胸を揉んでいると思ったら知らない男の股間を揉んでいたバナナイカ877世が放心したように手を動かす。
ぷにぷに。
「あ、ちょっと、ら、らめえ。」
大魔王も今、絶頂を迎えようとしていた。
左手は添えるだけ。(揉んじゃらめえ!)