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ゼータ博士の発明


 ゼータ博士が、大声で助手を呼んだ。


「おい、ちょっと来てくれ」


 自分の研究に取り組んでいた助手は、手を止めて博士のいる部屋に向かった。


「お呼びですか」


「喜びたまえ。わたしがずっと取り組んでいた発明が、とうとう完成したぞ」


「本当ですか」


「ああ。これで、大もうけはまちがいなしだ。この研究にはずいぶんな大金を投じてきたが、それも全部取り返せるだろう」


「おめでとうございます」


 助手は、口でこそ博士を称賛したものの、少し心配でもあった。


 ゼータ博士は、たしかに素晴らしい研究者だった。その証拠に、これまでに数々の大きな発見を行っており、名誉ある賞もたくさんもらっている。


 しかしその反動なのか、研究成果の応用を考えるときには、まったくの役立たずになることが、ときどきあったのだ。


 今度の発明がきちんと金になるものであることを祈りながら、助手は博士にたずねた。


「それで、いったいそれは、どのような発明品なのです」


「応用範囲が非常に広いであろう、新素材の金属だ。まず、五種類の金属をそれぞれ熱してどろどろにとかす。これらを計算通りの割合で混ぜ合わせてから、計算通りのスピードで冷やす。すると、特殊な結晶構造ができる。この構造がすごいのだ。どんな強い酸にも、どんな強いアルカリにも耐えるようになる。ひどい腐食性を持つガスを浴びせてもウンとも言わない。また、熱にも強い。作るときには金属をとかしたわけだが、そのあと混ぜ合わせることによって、どれだけ熱してもとけなくなった。その他、どんな作用を加えても劣化しないぞ。これはまさしく、夢の合金と言えるだろう」


 ゼータ博士は、得意そうにして質問に答えた。しかし助手が気になっていたのは、作り方の難しさでも機能のすごさでもなく、現実的な用途だった。


「それはすごいですね。それで、具体的には、どのような分野で役立つのでしょう」


「最先端の、非常に強い素材なのだ。さまざまな科学技術研究で、ひっぱりダコになるに違いないぞ」


「なるほど。しかし、研究用途だけですか。もっと、多くの人に喜ばれるようなものはないのでしょうか」


「もちろんある。たとえば、高温にも耐えるし、真空にさらしても大丈夫だから、ロケットの材料なんかにはぴったりじゃないか」


「なるほど。しかし、ロケットだけでは用途が少ない気もしますが」


「ふむ。言われてみれば、確かにそのとおりだな。では、金庫はどうだ。きっと、頑丈な金庫ができるぞ」


「なるほど。しかし、家に金庫を持っている人は、ほとんどいないのではないでしょうか。銀行の金庫にしても、本当にこじ開けられるような事件は、アニメの中くらいでしか起こらないような気がします」


「では、缶詰めの缶はどうだ。いつまでも錆びないから、保存食にはもってこいだろう。それに、多くの人が食べるから、もうかるに違いない」


「なるほど。しかし、缶詰めは今のままでも充分長持ちしますし、それにそんな高価な金属を使った缶詰めでは、値段が高くて売れないと思いますが」


「なら、いろいろな製造装置を作っている会社に売り込むというのはどうだ。酸やアルカリ、熱などに耐える金属がほしいと思っているところは、けっこうあるんじゃないか」


 これを聞いて、助手はようやく、少しだけいい反応を示した。


「なるほど。それはちょっと良さそうです。それなりの数の企業がありそうだ」


「そうだろう」


 われながらいい案だ、と博士は鼻を鳴らしたが、助手の言葉はまだ続いた。


「しかし、それでもまだ足りない気がします。それだけの金を、博士はこの研究につぎ込んだのではありませんでしたか」


「うむむ、そうか」


 博士が悔しそうにうなっている一方で、助手はがっくりと肩を落とした。思った通りだ。これは、たしかにすごい金属だが、使い道があまりに少ない。これでは、研究資金は入ってこないだろう。いや、それどころか、今月分の給料も満足に支払われないかもしれない。


 新しい勤め先を探すべきだろうか、などと助手がぼんやり考えていると、ずっとうなっていたゼータ博士が、そうだ、と大声を上げた。


「こんなのはどうだ。軍隊や警察に使ってもらうのだ。この金属を細くして織り込めば、丈夫な服ができる。テロリストに薬品をかけられても平気だぞ。これはいいんじゃないか」


 それを聞いて、はっとしたように助手が顔を上げた。


「それです。軍需産業は、非常にもうかると聞きます。身に着けるものだけでなく、他にも何か、使い道がありそうな気がしますね」


「そうだろう、そうだろう。なにせ、最先端の発明なのだ。使い道が広いのが自慢だからな」


 助手は、両手をあげて喜びたい気持ちだった。どうやら、金の心配はせずに済みそうだ。それどころか、ボーナスが出るかもしれないぞ。


 嬉しそうにしている助手の顔を見て調子に乗ったゼータ博士は、軍需産業での使い道について夢をふくらませた。


「そうだな。戦闘機や戦艦、戦車の機体にも使えるだろう。特殊な薬品をかけてもびくともしないし、爆発の熱を浴びても平気だ。そのうえ、どんなに叩いても変形しないし、レーザーカッターでも切断できない。ダイヤモンドで作った、世界一かたい刃にも耐えるほど、とにかく頑丈なのだ」


 助手の表情が凍りつく。


「なるほど、しかし」


「どうした」


「それ、どうやって加工するんですか」

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