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00 目覚め

 ……ここ、どこ……だ?


目を開けた瞬間、そう思った。


木の天井。木造の部屋。


窓の向こうから、鳥の声が聞こえる。


鼻をくすぐるのは、乾いた木の匂いと、朝の空気。


静かだった。


あまりにも静かで、逆に妙だった。


俺はしばらく天井を見つめていた。


 ……いっ


頭の奥が、ずきりと痛んだ。


眉間を押さえ、ゆっくりと身体を起こす。


その瞬間、頭の中がひどく曖昧なことに気づいた。


何かを考えようとしても、うまくまとまらない。


自分が誰なのか。


どうしてここにいるのか。


何ひとつ、はっきりと思い出せなかった。


「……なんなんだよ、これ」


声に出してみても、答える者はいない。


俺は自分の手を見た。


指を握り、開く。


腕を動かし、肩に触れてみる。


身体は動く。


どこかに強い痛みがあるわけでもない。


ただ、頭の中だけが、ひどく頼りなかった。


まるで、大切な何かを忘れてしまったような感覚。


いや、忘れたというよりも、最初から何もなかったかのようだった。


「……俺、誰だ?」


口にした途端、胸の奥が妙にざわついた。


自分のことなのに、分からない。


そんなことがあるのだろうか。


俺はもう一度、必死に記憶を探った。


けれど、何も浮かんでこない。


名前は。


自分の名前くらい、分かるはずだ。


そう思ったときだった。


「……カイ」


ぽつりと、言葉がこぼれた。


どうしてその名前が浮かんだのかは分からない

。

けれど、それだけは確かな気がした。


「……俺は、カイ……?」


もう一度、口にしてみる。


違和感はなかった。


それなのに、それ以外のことは何も分からない。


俺は部屋を見回した。


木の壁。


木の天井。


見慣れない家具。


どこかの家なのだろうか。


少なくとも、ここが自分の部屋だという確信はなかった。


 ……いったい、どうなってるんだ


そのときだった。


――コツ。


廊下から、音がした。


俺は反射的にそちらを見る。


――コツ、コツ。


ゆっくりと近づいてくる。


誰かが来る。


当たり前のことなのに、今の俺にはそれだけで緊張した。


ここがどこなのかも分からない。


誰がいるのかも分からない。


そして、自分がどうしてここにいるのかさえ分からない。


足音が、扉の前で止まった。


一瞬、静寂が戻る。


次の瞬間――。


ギィ……。


扉がゆっくりと開いた。


俺は思わず身を固くした。


扉の向こうから、一人の男が姿を見せる。


男もまた、部屋の中にいる俺を見て足を止めた。


視線がぶつかる。


互いに、何も言わない。


先に口を開いたのは男だった。


「……起きたのか」


その声を聞いて、ようやく俺は息を吐いた。


「……あなたは?」


男は少し戸惑ったように俺を見る。


「それはこちらが聞きたい」


その言葉に、俺は口を閉じた。


確かに、そうだ。


俺だって、何も分からないのだから。


男は少し間を置いて尋ねた。


「森の近くで倒れていたんだ。覚えているか?」


「……森?」


記憶を探す。


何も出てこない。


頭の奥が、また鈍く痛んだ。


「……悪い。何も思い出せない」


男は黙って俺を見ていた。


その目には警戒だけでなく、こちらの様子を確かめるような色もあった。


俺も男を見る。


分からないことばかりだった。


それでも、聞かなければ何も始まらない。


「……ここは?」


男は答えた。


「ルーデン村だ」


聞いたことのない名前だった。


「……ルーデン?」


知らない。


本当に、何も分からなかった。


男は少し考えるように俺を見たあと、尋ねた。


「名前は?」


俺は黙った。


名前……それだけは、分かる。


「……カイ」


男は静かに頷いた。


「カイ、か」


男はそれ以上、すぐには尋ねなかった。


俺も、何を聞けばいいのか分からなかった。


自分の名前以外、何も思い出せない。


どうして森の近くで倒れていたのか。


どうしてこの家にいるのか。


目の前の男が誰なのか。


何もかもが分からない。


俺はもう一度、自分の手を見つめた。


確かに、ここにいる。


身体も動く。


意識もある。


なのに、自分が何者なのかさえ分からない。


「……俺、どうなってるんだ?」


呟きは、静かな部屋に溶けていった。


答えは、どこにもなかった。



初投稿です!!

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