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第ニ十七章 すれ違う時間

 大きな配信イベントを終えてから、つづみの周りはさらに忙しくなった。


 イベントをきっかけに、知名度は一気に上がった。


 配信を始めれば、以前とは比べものにならないほどコメントが流れる。


 企業からの依頼も増えた。


 新しい仕事の話も次々に舞い込んでくる。


「……夢みたい」


 つづみは嬉しそうに笑った。


 ずっと追いかけてきた夢。


 その夢が、ようやく現実になり始めていた。


 けれど――。


 その一方で。


 蓮と会う時間は、ほとんどなくなっていた。


     


 ある夜。


 蓮は仕事を終え、自宅でスマートフォンを見ていた。


 つづみとのトーク画面。


 最後に会ったのは、もう二週間前だった。


 メッセージは続いている。


『おはよう』


『お疲れさま』


『今日も頑張ってね』


 でも。


 以前のような長いやり取りはなくなっていた。


 蓮はスマートフォンを置く。


「……忙しいんだろうな」


 分かっている。


 つづみが今、どれだけ大切な時期なのか。


 自分が寂しいからといって、会いたいと言うのは違う気がした。


 だから、何も言わない。


     


 一方、つづみもまた。


 撮影を終えた帰りの車の中で、スマートフォンを握っていた。


「……蓮さん」


 会いたい。


 声が聞きたい。


 また一緒に歩きたい。


 でも、明日も朝から学校。


 その後は撮影。


 夜は配信。


 次の日も仕事。


 予定表を見れば、空いている日がほとんどない。


「……いつ会えるんだろう」


 以前は、会おうと思えば会えた。


 今は違う。


 夢を追えば追うほど、時間がなくなっていく。


 それが少しだけ苦しかった。


     


 数日後。


 蓮は友達に誘われ、久しぶりに飲みに出ていた。


「最近どうなんだよ?」


「何が?」


「あの子だよ」


「……つづみ?」


「そう」


 蓮は少し笑う。


「頑張ってるよ」


「お前は?」


「俺?」


「会えてるのか?」


「……あんまり」


 友達は少し黙った。


「それでいいのか?」


「いいんじゃないかな」


「本当に?」


 蓮は答えなかった。


 好きだからこそ。


 彼女の夢を邪魔したくない。


 それが今の自分にできることだと思っていた。


     


 その夜。


 つづみからメッセージが届いた。


『蓮さん、今度の土曜日って空いてますか?』


 蓮はすぐに返信した。


『空いてるよ』


 少しして。


『じゃあ、会いたいです』


 蓮は思わず笑った。


『俺も』


 久しぶりに会える。


 それだけで嬉しかった。


     


 土曜日。


 二人は久しぶりに会った。


「久しぶり」


「お久しぶりです」


 目が合った瞬間。


 二人とも笑った。


「元気だった?」


「はい」


「忙しそうだったな」


「蓮さんも」


「まあね」


 久しぶりだからこそ、最初は少しぎこちない。


 でも。


 少し話しているうちに、以前の空気に戻っていく。


「最近、どう?」


「すごく忙しいです」


「やっぱり?」


「でも、楽しいです」


 つづみは嬉しそうに話す。


「新しい仕事も増えて、もっと頑張りたいって思ってます」


「そっか」


「蓮さんに見てもらいたいです」


「何を?」


「私がどこまで行けるのか」


 蓮は少し驚いた。


「……絶対見届けるよ」


 つづみは笑った。


 けれど。


 その笑顔の奥には、少しだけ寂しさがあった。


「でも……」


「ん?」


「最近、会えないの寂しかったです」


 蓮の胸が跳ねる。


「俺も」


 二人は顔を見合わせる。


 そして。


 つづみが小さく呟いた。


「私、夢を選んだら……蓮さんとの時間までなくなっちゃうのかなって、最近ずっと考えてました」


「そんなことないよ」


「でも、実際に会えなくなってる」


 蓮は言葉を失った。


 確かに、その通りだった。


 夢を応援すること。


 それだけを考えていた。


 でも。


 つづみ自身も、蓮との時間を求めていた。


「……じゃあ」


 蓮が口を開く。


「これからは、会える時間をちゃんと作ろう」


「いいんですか?」


「いいに決まってる」


「でも、私、忙しいですよ?」


「俺も仕事あるし」


「予定、合わないかもしれません」


「だったら合う日を探せばいい」


 つづみは少し驚いた顔をして。


 やがて笑った。


「……そうですね」


「夢を頑張ることと、会うことは両立できるだろ」


「……はい」


 二人は並んで歩き始める。


 以前より忙しくなった。


 以前より会えなくなった。


 でも。


 離れる必要はない。


 夢を選ぶことは、恋を捨てることではない。


 二人は少しずつ、それを理解し始めていた。


 そしてこの日から。


 忙しい二人のための、新しい関係が始まっていく。


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