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第ニ十六章 離れていても

 つづみが夢を優先すると決めてから、さらに時間が過ぎた。


 配信の仕事は、以前とは比べものにならないほど増えていた。


 出演依頼。


 企業案件。


 イベント。


 撮影。


 学校の課題。


 そしてラウンジの仕事。


 毎日が忙しく、気づけば一日が終わっている。


 それでも、つづみには一つだけ変わらないものがあった。


 蓮との連絡だった。


『おはよう』


『今日も頑張って』


『お疲れさま』


『ちゃんと寝ろよ』


 短いメッセージ。


 会える時間は減った。


 電話をする時間も少なくなった。


 それでも、蓮は変わらずつづみのことを応援していた。


     


 ある夜。


 つづみは大きな配信イベントの打ち合わせを終え、帰宅した。


「……疲れた」


 ベッドに倒れ込む。


 スマートフォンを見る。


 蓮からメッセージが届いていた。


『今日もお疲れ』


 その一言を見ただけで、少しだけ安心する。


 つづみは返信を打った。


『ありがとうございます』


 少し迷う。


 そして、もう一文。


『最近、全然会えてないですね』


 送信。


 しばらくして返信が来た。


『そうだな』


『ごめんなさい』


『謝るなって』


 そして。


『つづみが頑張ってる証拠だろ』


 つづみは画面を見つめた。


「……優しいな」


 嬉しい。


 でも同時に、胸が痛くなる。


 自分ばかりが応援してもらっている気がした。


 蓮は何も求めてこない。


 寂しいとも言わない。


 会いたいとも言わない。


 ただ、自分の夢を応援してくれている。


「……蓮さんだって、寂しいはずなのに」


     


 翌日。


 つづみは学校を終えると、そのまま配信スタジオへ向かった。


 最近は配信の規模が大きくなり、一人で準備することも難しくなってきた。


「つづみさん、次の企画なんですけど」


「はい」


「来月、大きなイベントがあるんですが、出演お願いできますか?」


「……来月?」


「はい。かなり注目されているイベントです」


 スタッフから資料を渡される。


 そこには、つづみが以前から憧れていた配信者たちの名前が並んでいた。


「……すごい」


「かなり大きなチャンスですよ」


 つづみは資料を握りしめる。


 夢にまた一歩近づける。


 けれど。


 スケジュールを見る。


 学校。


 配信。


 撮影。


 イベント。


 ほとんど空きがない。


「……分かりました」


「受けていただけますか?」


「はい」


 迷いながらも答える。


「お願いします」


     


 その夜。


 つづみは蓮に電話をかけた。


『もしもし?』


「蓮さん」


『どうした?』


「決まったんです」


『何が?』


「来月、大きなイベントに出ることになりました」


『本当?』


「はい」


 蓮の声が明るくなる。


『すごいじゃん!』


「ありがとうございます」


『絶対見に行く』


「……え?」


『会場まで行くよ』


 つづみは少し黙った。


「でも、忙しいんじゃ……」


『大丈夫』


「無理しなくていいですよ」


『無理じゃない』


 蓮は笑った。


『つづみが夢に向かってるなら、俺も見届けたい』


 つづみの胸が熱くなる。


「……嬉しいです」


『頑張れよ』


「はい」


『終わったら、またご飯行こう』


「……約束ですよ?」


『約束』


     


 電話を切ったあと。


 つづみはスマートフォンを胸に抱えた。


 会える。


 それだけで嬉しかった。


 そして思う。


 離れていても。


 会えない日が続いても。


 蓮は自分の隣にいてくれる。


 恋人ではない。


 まだ、付き合ってもいない。


 それでも。


 自分の夢を一番近くで応援してくれる人。


「……蓮さんがいてくれてよかった」


 つづみは小さく呟いた。


     


 そして、イベント当日。


 大勢の観客。


 無数のカメラ。


 ステージに立つつづみ。


 会場を見渡す。


 その瞬間。


 客席の中に、見慣れた姿を見つけた。


「……蓮さん」


 蓮が笑っている。


 そして、小さく手を振った。


 つづみも笑う。


 緊張していたはずなのに。


 不思議と怖くなくなった。


「こんばんは、つづみです!」


 大きな歓声が上がる。


 夢を追いかける少女。


 その姿を、蓮は客席から見つめていた。


 そしてつづみも思っていた。


 ――いつか。


 この人に、胸を張って言いたい。


 **「夢を叶えたよ」**


 そのために。


 今日も、前へ進む。


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