587、神殿の内部
俺達はゆっくりと階段を最後まで登りきり、神殿の脇を通って断崖絶壁のある方へと歩いていく。
そこはちょっとした広場になっており、断崖絶壁を背にして立つと、そこには神殿の最奥に当たる部屋へ続く巨大な窓ガラスがあった。
断崖絶壁のすぐ近く。
そこには等身大の女神テネブル像が、台座の上に立った姿で鎮座している。
その像はあまりに精巧で、まるで女神テネブルが石化したような印象を受けるほどだ。
……実際は創造神が天界へと連れ戻したので、この世界にはいない……はず。
そんなテネブル像を見て、ふと気づく。
その台座の周りにはびっしりと生花が飾られていた。
それも『植木』ではなく、『切り花』だ。
それは「この場所に通ってでも花を供えたい」と思っている人物がいる、という事だ。
切り花はそんなに長く保つわけじゃない。
つまりそれだけ頻繁に花を供えにやってくる人が確実にいる、という証拠。
だが先ほど通ってきた街や農園には人っ子一人いなかった。
じゃあどうやってこの花を供えているんだろう?
そんな疑問が頭を過る。
「なぁ、この生花ってどこから来てるんだろうな?」
リッキーが俺の代わりにそう呟いた。
そこは皆も疑問に思っていたらしく、口々に同意の声があちこちから聞こえた。
「そういえばまだこの中を調べてなかっな。……入り口はさっきの階段の先……だったよな?行ってみよう。」
スコットさんはそう言うと、さっさと玄関に当たる場所へと向かう。
そこには人の背丈の何倍もの高さがある扉があり、スコットさんは中へ入ろうとかなりの力をかけて扉を押したがびくともしなかった。
スコットさんってかなりの力持ちなんだけど、それでも開かないなんて、相当な力がいるよね?
どうしたら開くのかと思案していると、グリーさんがなんてことのないような顔で扉に手をかけた。
……え?どうするんだろ?
俺達はそのグリーさんの行動を見ていると、グリーさんはその両手に魔力を纏わせて扉を押した。
すると先ほどスコットさんが開けようとした時とは明らかに違い、すんなりと扉が開いた。
……なんでそんな簡単に?
俺が驚愕の表情で見ていたからなのか、グリーさんがこちらに顔を向けて声をかけてきた。
「こないな扉って、大体魔力を手に纏わせて開けたら開きまっせ?」
「……。」
『さも当たり前』といった顔で教えてくれたが、「なんで魔力が必要なのか?」とかの疑問は全く解決されてないよね?
何となく納得はいかないが、それよりも神殿内部の調査が先だね!
俺達は神殿内部をスコットさん、リッキーを先頭に、エミリーさん、リリーさん、俺、ユーリの4人を守る布陣で進んでいく。最後尾はセバスとグリーさんだ。
建物の中は普通の屋敷みたいに部屋が沢山あった。
とりあえず、それぞれ1度ずつ部屋の中を見ていく。
するとこの建物の中には思った以上に人が住んでいることが分かった。
俺たちの予想ではほぼ皆無の住民が、実際には20人にも満たないがいたのだから。
彼らに講堂のような広い場所に集まってもらい話を聞くと、どうやらもうこの国ではこの神殿内にいる人だけしか残っていないのだそうだ。
食事はどうしているのかと尋ねたら、「かなりの量の保存食があったから、それを皆で少しずつ消費して食いつないでいた」とのことだった。
だが彼らの痩せ細ってほとんど骨皮みたいになっている手足を見ると、間違いなくほとんど食事はとってなかったのではないか?と気づく。
彼らのその状態を目の当たりにして、俺はもっと早くに見に来てやれば良かったと後悔してしまった。
「とりあえず……皆さん、お腹空いてますよね?俺たち、食料はいっぱい持っているので、これから調理するので、一緒に食べましょう。」
俺はそう彼らに声をかけると、かなり離れた場所で1人の極度に痩せ細っている男性を取り囲んでいるスコットさん達を見る。
彼は座っていることもできないほど衰弱しているので、俺がこの場にベッドを出して寝かしたのだ。
他にも数名同様な人たちがいるので、さながらここは野戦病院のような状況になっている。
彼らのそばにはユーリがいて、直々に神聖魔法で回復するように治療を施しているのだ。
そのユーリは、実は憑依されている。
それをを知っているのは俺とリッキーだけだ。
『例のあの人』もさすがにこの状況を見て考えるところがあったらしく、ユーリに断りもなく突然憑依して治療を始めたのだ。
おかげで最も衰弱して今にも命の灯が消えてしまいそうな人達が、みるみるうちに土気色をしていた顔に血色が戻り、なんとか危険な状態を脱したのが見て取れた。
ある男性神官の周りにいた4人は強張っていたその表情を和らげ、口々にその男性に声をかけている。
ユーリはセバスに付き添われながら、他のベッドに寝ている人を治療しに次の場所は移動をした。
ユーリはそこでも同様に魔法をかけて治療をしている。
次々と治していくユーリを見て、俺は「案外『例のあの人』も心がないわけじゃないのかもしれない」と感じ始めていた。




