584、さあ、ヒュサカの宿屋へ帰ろう!
「ところで……あなた、とんでもなく疲弊してるわね。一体、何があったの?」
訝しげに俺を見る彼女のその言葉に、俺はここしばらくの出来事を告げる。
その間、彼女は無言で話を聞いていて、時折考え込むような素振りもあった。
「……なるほど、あなたの話はよく分かったわ。スノーホワイトが今までネシアの為に暗躍してくれていたことも。私も『女神』の1人だから、森の中に魔物が集まっていることには薄々気づいていたわ。」
「気づいていたんですか?なら、何故に魔物への対処をしなかったんですか?」
俺が少し不満そうに眉を寄せて『巫女』を見ると、彼女は「別に問題はないと思っていたのよ」と肩をすくめた。
「いくら魔物が集まっていたとしても、別に統率が取れているわけじゃない。だからあれだけ魔物が集まったとしたら『共存』ではなく『淘汰』が起きると思っていたの。でもまさかあの国特有の『隷属の魔法』を使用して魔物を統率していたとは思っていなかったわ。」
『巫女』はそう言うと、その綺麗な顔を顰めてしまった。
『巫女』様、通常はあんなに魔物が密集することって自然の状態ではなかなか無くないですか?
俺は思わずそう『巫女』に問いかけそうになったが、なんとか踏みとどまる。
たが俺を見つめていた『巫女』様は苦笑いをした。
「……あなた、私が心を読める事、忘れたの?」
「はっ!そうでしたね!うっかりしてました!」
俺は『巫女』のその言葉に、えへへっ!と笑って誤魔化した。
『巫女』は呆れたように1つため息をつくと、「まぁ、良いわ」と言った。
「……で、話は戻るけれども、あなた相当体が疲弊してるから、早く回復しないとなかなか体力が戻らないわよ?私で良ければ回復してあげる。」
『巫女』はそう言うと俺に向かって両手を翳した。
その手からは淡い光が俺に向かって振り注ぎ、それを浴びている俺の体にはどんどんと魔力も体力も回復していく。
おかげさまで、へたり込んで地面に座り込んでいたのがすっかりと自分の力で立っていられるほどになった。
「ありがとうございました、『巫女』様。」
「いえいえ、こちらこそネシアを代表してお礼を言わせてもらうわ。ありがとうね。」
互いにお礼を言い合っていると、遠くの方から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
俺がそちらを見ると、まだ距離はあるが、そこには俺の仲間たちが小走りでやってきているのが見えた。
その中でも一番にやってきたのは、満面の表情のユーリだった。
ユーリは俺のもとまでやってくると、そのまま止まらずに俺の胸へと飛び込んできた。
「にぃに、お疲れさま!」
「……ああ。なんとか終わったよ。」
俺がユーリにそう言うと、後から追いついてきた皆から「さっきのあの白い光の柱は何だったんだ?」と聞かれた。
それに対して俺は「多分創造神が、俺を助けてくれたんだと思う」と答えた。
俺の隣にいた『巫女』もそれを肯定し、皆も納得した。
「ところで……やはり最後に残っていたあの神官は、『例のあの人』のあの力で消滅したんですかね?」
俺は心の中で思っていたことを『巫女』に聞いてみた。
すると彼女は少し考えてから、首を横に振る、
「多分消滅していないんじゃないかしら?シエルくんもそれに心当たりがあるんじゃない?」
『巫女』のその言葉に、俺はあの時のことを思い出した。
あの光が地上に振り注ぐ直前。
あの神官は俺を押す手をやめたのだ。
その後数秒後に光が地上を覆い尽くしたので、もしかすると奴はあの一瞬であの『黒い球体』の方へと入ったのかもしれない。
俺は『倒せなかった』という残念な気持ちを引きずりながらも、無事に皆を守りきれたことに胸の中が満足感でいっぱいだった。
「じゃあ私はネシアへ戻るわね。またネシアにも遊びにいらっしゃいな?」
『巫女』はそう言うと、みんなに手を振りながらフッとその姿を消した。
「よし、俺達も宿屋へ戻ろうぜっ!」
リッキーはそう言うと、俺に転移を促す。
俺は頷くと、腕輪に殆どのメンバーを入れると、ヒュサカの宿屋に転移をした。




