323、王族も大変そうだね
「そうそう、今日の朝早くに国王に例のブレスレットを渡してきたよ。もちろん国王自身の物は目の前で着けてもらったよ。私がいない隙に何かあってからでは遅いからね。これで国王は無事だね。」
どうやらリーシェさんは今朝早くに渡しに行ったらしい。
もちろん事情も説明し、納得の上で身につけてもらったそうだ。
そしてもう1つのブレスレットはしっかりと考えた上で、次期国王に手渡してその場で身に付けさせることも伝えてきたんだそうだ。
リーシェさんに言わせると、あのブレスレットは『隷属の魔法』も退けるほどの『加護』が付いているらしく、これで国王の身の安全と精神の安全は守られると胸を撫で下ろしていたよ。
「……それで、例の『王妃の産んだ子』の事は話したんですか?」
俺は気になったことを聞いてみた。
するとリーシェさんは苦笑いをし、「国王はもうすでに知っていたようだよ」と言った。
それはそうか、やはり身に覚えのない時期に子供ができれば疑うよね。
それでリーシェさんに「国王としてはどういう形でその子に接するのか」を聞いてみたところ、「国王はどうもしないらしい」という答えが返ってきた。
「どういうことですか?」
「どうもこうも、そのまま『どうもしない』そうだ。その子には産まれてから今まで一度も会ったことはないらしい。だから性別も分からないし、どんな子なのかも分からないと言っていたよ。その子に会わないのは王妃が拒否しているのと、王としても『不義の子』だから会いたいとも思えないそうだ。」
リーシェさんの話によると、国王はまだその『不義の子』には会ったことがないとの事だった。
女児だって鑑定が言っていたから、王の挿げ替えを狙っている王妃としては会わせられないのだろう。
「それに最近は王妃も公式行事にしか国王の隣にいないから、ほとんど会話もしないそうだ。『王妃は子供の事か教会のことにしか関心がない』とも言っていたよ。それと『相手が誰なのかは知らない』とも言っていたね。私の方から『王妃はその子を王にしたがっているかもしれない』と伝えると、もちろん国王はその子を王にする気は全くないらしいから、そのうち王子のどちらかを選ぶんじゃないかな?あのブレスレットかあればどんな事をされても寿命以外で死ぬことはないからね。安心して選ぶ事ができるはずだよ。」
なるほど……じゃあ近いうちに次期国王が決まるかもしれないね!
決まってさえいれば、王妃も『不義の子』を国王にしようなんて考えも無くなるんじゃないかな?
「……なぁ、なんで王妃はその子を王にできるなんて思っているんだろうな?」
不思議そうな顔で、リッキーがそう言った。
……確かに。
普通、自分がよく知りもしない子(しかも自分の子じゃない)を跡継ぎにしたがるものか?
特に一度も会ったことのない子を、だ。
よく考えなくても『王になる可能性』はゼロだと思うんだけど?
……もしかして……他の王子を排除する気だったり……?
それだけじゃなく、まだ次期国王を決めていない王の排除も……?
俺は恐ろしい可能性に気づいたのだが、他のメンバーは「そこまでしないだろう」と苦笑いをしている。
まぁ国王はもうブレスレットをはめているので一安心なので、あとは早くに自分の跡継ぎを決めてブレスレットをはめさせれば問題はなくなる。
それにしても2人の王子は今は仲が良いが、王がクロードを選んだら3人の関係はどうなってしまうんだろうな。
俺としては何があったとしても、3人が仲違いをしないことを祈っているよ!
とりあえず俺達は互いの情報を共有したので、今日のところはもう御暇する事にした。意外ともう遅い時間だしね!
「もう外は真っ暗だし、物騒だから……って、君たちなら全然大丈夫だろうけど、うちの馬車で送らせるから乗っていてね。」
リーシェさんはそう言うと、部屋の外にいる執事さんに声をかけた。
それから俺達はゆっくりと玄関へと向かう。
「明日からシエルくんは学校が始まるけど、用意は大丈夫かい?」
リーシェさんは歩きながら俺に声をかけてきた。
俺はもちろん「はい、大丈夫です!」と答えた。
「なら良いね。君ならその鞄に何でも入れて運べるから便利だよねぇ。……あ、その鞄って実技の時も体から離せないのかな?」
リーシェさんは俺の鞄を見ながらそう言った。
あぁ〜……確かに。邪魔になるかも?
でも確かこの鞄、俺の体から離すと一定の距離離れると元に戻ってくるんだよね。
……鞄、担いだままじゃダメかな?
俺はその事をリーシェさんに伝えると、少し考えてから「じゃあ、それは前もって私から他の教員に伝えておくね。」と言ってくれた。ありがとう、リーシェさん!
玄関に着き、外へと出るともうすでに玄関前には馬車が停まっていて、俺たちが乗るのを待っていた。
俺たちは順番に乗り込み、御者がドアを閉めてくれた。
「じゃあ、また明日ね!遅刻しないように来るんだよ?」
リーシェさんは笑顔でそう言って俺たちを送り出してくれる。
俺たちも「また明日!」と笑顔で手を振った。
馬車はそのままリッキーの家まで走り出す。
前もって行き先を言われていたようで、迷いのない走りだ。
俺は馬車の窓から真っ暗な外を見る。
もちろん道には街灯があるのだが、ここは夜になると馬車での移動だけだからなのか、街灯の間隔がスノービークよりも広いので結構薄暗い。
だがその光でも馬は見えるので、問題はないようだ。
そんな暗い道を馬車に揺られながらぼ〜っと外を見ていると、たった一瞬だが、黒っぽい服を着た人が立っていたのを見た気がした。
俺はハッとしてしっかりと見ようと目をやったが、もうすでに見えないところまで進んでいた。
……今の人影は一体何だったんだろうな……?
俺はそう思いながら座席へと座り直す。
「急に動き出して、一体どうしたんだ?」
リッキーがそう声をかけてくる。
「いや……なんか人が立っていたような気がしたんだけど……すぐに通り過ぎたからよく分からなかった。」
俺はそう言って肩を竦める。
リッキーは「そうか」と言って笑うと、少し目を瞑った。
周りを見渡すと他のメンバーはセバス以外は寝てしまっていた。
……皆、そんなに疲れていたのかな?
「シエル様、もし眠くなったのであれば目を閉じていても大丈夫ですよ?私がしっかりと起きていますので。」
セバスがそんな事を言ってくれた。
……が、俺は全く眠気はないので「ありがとう」とだけ言って、また外を眺める。
だが、そのうちものすごい眠気が襲ってきて目を開けていられなくなった。
俺はセバスに「ごめん、凄い眠い」と言ったはずだが、あまりに眠くて聞こえたのかどうかは分からない。
何かを怪しんだ俺は一応最後の意識を振り絞って、この馬車と馬に結界を張り、そのまま意識を手放した。




