299、王族の思惑
「私はそんな年上の人なんて興味ないわ。そういえばあの中に銀髪の子がいたのを覚えてるぅ〜?」
そう言ったのは第一王女のローラだ。
「あの銀髪の子、とても綺麗な顔をしていたわ。あの子、私、欲しいなぁ〜。私の『お友達コレクション』にどうかしら?」
「お前なぁ……欲しいって、あの子は『物』じゃないぞ。」
「あら、私達より下の者なんて、扱いは『物』で良いじゃない?ねぇ、セイン?」
ローラはそんな事を言いながら、考え込んでいるセインに話しかける。
セインは自分の考えに耽っているせいか、ローラの声には反応がない。
「……もうっ!セインって一度考え出すと人の話を聞かないのよね!そういうあなたはどうなのよ、クロード?自分で『物じゃない』って言ってるくらいだから、別にいらないんでしょ?」
そう言ったローラに顰めっ面をしているのは、第二王子のクロードだ。
「……別にいる、いらないの話じゃないだろ?俺たちと同じ『新入生』なんだろうし、気が合えば友人になれば良い。気が合わないなら別に付き合わなければいいだけだ。俺はそういう考え方を今までも、そしてこれからもしていくつもりだ。」
「……いつも思っているけど、あんた真面目すぎよねぇ〜。私達より上の地位なんて、お父様くらいなのよ?もっと偉そうにしていても全然普通なのに。一体誰に似たのかしら?」
クロードの話を馬鹿にした態度で聞いていたローラ。
その時、突然セインが大きな声で叫んだ。
「思い出したっ!スノーホワイトって、この前リーシェとミラーが父上に話していたチームの事だ!確か父上も『スノーホワイトには手出し無用』って言っていたな。ってことは、残りの3人も関係者なんじゃないのか?」
眉間にしわを寄せてそう言ったセインに、クリスは「良く覚えていましたね」と言ってうんうんと頷く。
「そうです、あの方は国王様ですら『手出し無用』と言わしめている冒険者チームのメンバーなのです。」
「だが奴ら、Bランク冒険者チームなんだろ?そんな奴らを何で父上は優遇してるんだろうな?さっさと軍に取り込めばいいのに。」
「それはですね、セイン様。彼らはただのBランク冒険者チームではないのですよ。何故、彼らはそのランクにいるのか分かりますか?」
するとそれまであまり話さなかったクロードが「その言い方をするってことは……もしかしなくても、そのランクは彼らの実力をあらわしている訳ではないのか?」とクリスに聞いた。
「はい、そうです。彼らは本来Aランク以上の実力を持っているのですが、残念ながら我々の国に縛られたくないとの事でランクをB以上に上げたがらないのです。なにせAランクになってしまえば強制的に所属の街がある国に従属させられてしまいますからね。」
「なるほど……それで彼らの実力はどれほどのものなんだ?」
「彼らは先日単騎同士でミラー騎士団長と戦ったところ、圧勝だったそうですよ?で、あるならば彼らはこの国で一番の実力者だ、と言えますな。」
クリスがそんな事を言うと、今度はローラが気になったことを聞いてきた。
「ねぇ、この国で一番の実力者だってことだけど、あの勇者はどうなったのよ?あれのほうが強いんじゃないの?」
するとクリスは苦笑いをして「それは間違いですよ、ローラ様」と言った。
「そうだぞ、ローラ。奴は実力もないのに偉そうな態度を取っていたが、どうやらいろんな罪で勇者の称号を剥奪されたぞ。更には聖剣からも見放された、って聞いたしな。」
「えっ、そうなの!?やったぁ〜、それは良かったわ!私、あの勇者に『嫁に来いよ』なんて言われて凄い嫌だったのよ。これで嫌な縁談がなくなって良かったわ!」
「お前、危なかったな!」
「ええ、本当に。助かったわよね。でも、何で聖剣に見放されたのかしら?」
ローラが不思議そうに首を傾げる。
「それは俺も分からん。おおかた奴があまりにも酷いことをしていたからなんじゃないのか?」
セインはそう言って肩をすくめる。
ローラも「そうよね、聖剣に愛想つかされたんだわ」なんて同意している。
そんな2人を見てクリスは苦笑いをした後、真剣な表情に戻って2人に言った。
「いえ、それだけじゃないようですよ?私がその場にいたミラー騎士団長に後でチラッと探りを入れましたところ、どうも『聖剣が新しい所有者を選んだからだ』との事でした。その人の事を聞いたのですが、なかなか喋ってはもらえず、しつこく聞いたら1つだけ教えてもらえました。」
「おっ?何を教えてもらったんだ?言えよ!」
そう言ったクリスに詰め寄るセイン。
クリスはそんなセインを押し留めて苦笑する。
「そんなせっつかなくてもお教えいたしますよ。私が聞いて教えてもらえたのは『銀髪の持ち主』とだけです。ですが先ほどのスノーホワイトのメンバーであるリッキー殿と一緒に銀髪の少年がいた。これが全く関係のない事だとは思えないですよね?」
「なるほど……あの銀髪がその『聖剣の新しい所有者』だと言いたいんだな?」
「ええ、私はそう睨んでいます。」
セインにそう言って、クリスは頷く。
「だが、クリス、勇者になれるってわかったら普通は大喜びで名乗り出るだろう?何で名乗り出ないんだ?国の中で一番有名な存在になれるんだぞ?名誉なことじゃないか。」
まるでおかしな事を聞いたという感じでセインが首を傾げる。
「そこでも先ほどの『スノーホワイト』の話が出てくるのですよ。そのメンバーであるなら、そんな『国に縛られるような存在』にはなりたがらないでしょう。」
「なるほど……確かに。それなら『勇者』という立場は迷惑でしかないな。話の筋は通っている。」
クリスの話に答えたのはクロードだ。
彼はそれまで黙ってみんなの話を聞いていたようで、納得した顔をしている。
「じゃ〜あ〜、あの銀髪の子を勇者に強制的にしちゃってぇ〜、私の婚約者にしちゃえば良いんじゃなぁ〜い〜?そうすれば〜、あの子もうちの国に取り込めるしぃ〜、私も素敵な旦那様が手に入るわ!一石二鳥じゃない!お父様に進言してみようかしら?」
頭がお花畑のローラはそんな事を言っている。
そんなローラを見てクリスとクロードは苦笑いだ。
「お前なぁ……。さっきの話を聞いてなかったのか?彼は勇者になるのが嫌で、存在を秘密にさせているんだぞ?それに父上も『手出し無用』と言っているのに自分がそれを破るわけがない。ちょっと考えれば分かるだろ?」
クロードが呆れた様子でローラに言う。
そう言われたローラは頬を膨らませてむくれてしまった。
「まぁローラの話も悪くはないと思わないか?要は本人に『勇者になりたい』って思わせればいいんだろ?それなら本人の意志で決めたんだし、スノーホワイトの出る幕はない。」
『良いことを言った』的な顔で、セインは頷いている。
そんなセインを見て、クリスは「そんな上手くいくと思えないんですがねぇ……」と小さく呟いた。
「まぁ……なんにせよ、奴は取り込もうぜ?お前も協力しろよ、クロード。お前が一番人当たり良いんだからな。」
セインはクロードと肩を組んで「嫌とは言わせないぜ?」と圧をかけてくる。
クロードはそんなセインを白い目で見て「俺はそんなものには関与しないからな」と言った。
するとセインは大げさに嘆いてみせ、「我が弟は冷てぇなぁ〜」と大きな声で言う。
「まっ、お前がそう言うのは分かっていたがよ。とにかく俺とローラは積極的に取り込みにいく予定だ。お前はそれの邪魔だけはするなよ?」
「はいはい。分かりましたよ。」
「なら、良し!」
ちょうど話が終わる頃に教務員室へと到着した。
クリスを先頭に3人も中へと入り、ちょうど1人しかいなかった先生に声をかける。
その先生は一瞬だけ嫌な顔をしたがすぐに真顔に戻り、対応してくれた。
そして3人とも何事もなく入学届けを受理され、帰路につく。
教務員室から出ていく4人の背中をその先生が面倒だなという顔で見ながらため息をついたのは、部屋を出ていく4人は知らなかったのだった。




