290、おめでとう!
それからしばらくの間、俺はこの街の結界の為の魔石の加工とスコットさんとエミリーさんの結婚式の準備に追われていた。
特に2人の衣装に関してはリッキーにも知られないように密かに仕上げていく。
……っていっても本来山田に用意してもらったんだから、あいつが知っていてもおかしくないんだけどね!
そしてダンジョンから帰ってきて1週間が経った頃、リッキーの両親達に待望の第二子が誕生した。
その子はリッキーが望んだように男児で、ウォールさんとしては、本当は自分の跡継ぎをリッキーにしたかったのだが、どうしてもリッキーが嫌がったので渋々とその子を跡継ぎにと指名した。
この街の領主が自分の跡継ぎを指名したことで街中がお祭り騒ぎになり、この騒ぎはしばらく続くことになった。
そんな騒ぎの真っ只中に、俺はスコットさん達の結婚式をすることにした。
元々の予定はもう1週間後だったんだが、このお祭り騒ぎの中でやれば派手になったとしてもおかしくはないだろうと思ったのだ。
そして……本日はスコットさん達の結婚式当日。
昨日の夜にスノーホワイトのメンバーとその家族はリッキーの家に泊まり、本人達以外にだけ翌日の予定を話す。
もちろん前もって近々2人の結婚式をするのは話してあるので、その日に着る衣装はこっそりと運び込んであるのだ。
皆もこのサプライズにはノリノリで、とても協力的だ。
2人と一緒に住んでいる家族は特に気をつけてもらい、2人に悟られることのないようにしてもらったんだ。
今朝になり皆に急かされて驚いている2人を別々の部屋に連れていき、俺の用意した衣装に着替えさせる。
もちろんいろいろ整えてくれたのはこの屋敷のメイドさん達だ。
そんな俺はスコットさんの着替えに同行している。
結婚式が始まったら一緒に式場まで行くんだよ。
ちなみにエミリーさんの方にはユーリが同行して、同じく始まったらエスコートをすることになっている。
そして……現在はすっかり準備ができたので、俺とスコットさんの2人だけになった。後は呼ばれるだけだね!
「……なぁ、この衣装……何となくだが見覚えがある気がするんだが?」
身につけた衣装を見て首を傾げているスコットさんにそう言われた。
「兄さん、覚えているの?」
「いや……なんとなく、って感じだな。はっきり覚えているわけじゃない。でもこんな服なんて1度しか着たことないからすぐ分かるさ。それにしても……よく手に入れたな?なくなっていたのには全然気づかなかったぞ?」
「そりゃあそうだよ、山田に実家に行った時にこっそりと鞄に入れてもらったんだから、滅多に見ることのない衣装は気づかないさ。」
「なるほどなぁ……あいつ、家に遊びに来た時にそんな事していたのか。もしかして友梨佳もグルだったんじゃないのか?」
そう言ってスコットさんは苦笑いをした。
そう、俺が用意したのは「悠騎兄さんが結婚式をした時に着ていた衣装」だ。
もちろんエミリーさんの方には「惠美さんが結婚式をした時に着ていた衣装」を用意した。
実は2人とも、結婚式をするにあたって特別にオーダーメイドしたのだ。
だからその時の衣装は実家の衣装部屋にきちんと保存されていて綺麗なままだったのだが……それでもやはり経年劣化は起きていた。
白かったのが黄色っぽくなっていたんだよね。
だから山田にこっそりと俺の鞄に入れてもらった物を俺が魔法で当時の様に綺麗に復元したのだ。
もちろんだが、記念品なのでこれ以上状態が変化しないような魔法もかけておいたよ!
「スコット様、そろそろお時間になりましたので移動をお願い致します。」
ドアをノックしてメイドさんが中にいる俺たちに声をかける。
俺達は顔を見合わせると頷き、部屋を出る。
その部屋からメイドさんの先導のもと、廊下を2人並んで歩く。
兄さんとこうやって歩くのはネシアの決勝戦へと向かう時以来だ。
あの時は俺の方がかなり緊張していたが、今日は兄さんの方が緊張しているようだ。
その事にフフッと笑うと、兄さんはこちらをチラッと見て「仕方ないだろ?いつかお前にも分かる日が来るさ」と苦笑いをする。
……本当に、そんな日が来るんだろうか?
俺はそんな事を思って遠くを眺めてしまった。
そんな事を考えているうちにチャペルへと続く扉の前へ到着したようだ。
実はリッキーの屋敷、結婚式ができる場所が隣接されているのだ。
貴族同士の結婚式の後にこの屋敷で披露宴も兼ねたパーティーが行われるので、出席者はそんなに移動しなくてするようになっている。
今回はそういうパーティーはないが、食事会を食堂ですることになっている。
その扉を屋敷の使用人が開けると、中は木製の横長の椅子が2列並んでいて、そこに家族の人やスノーホワイトのメンバーとかが座っているのが見えた。
皆、嬉しそうな顔でこちらを見ている。
その中央の道の先に何らかの神の像があり、その目の前に牧師?らしき人が机の前に立っていた。
どうやらその目の前にまずは俺たちが向かわなければならないらしい。
皆が見守る中を、一層緊張しているスコットさんと並んで歩く。
牧師さんの目の前に到着すると、俺はリッキーの隣の空席へと向かった。
お次はエミリーさんの番だ。
エミリーさんはユーリと一緒に、俺たちが通った道をゆっくりと歩いてくる。
スコットさんはその衣装を見てしばらく考えていたが、何かに気づくと俺の方を見た。
そして口パクで『やっぱりか?』と聞いてきた。
俺はもちろん頷く。
どうやらエミリーさんの衣装も自分と同じく、当時のものだと気づいたらしい。まぁ、予想していたのかもね。
エミリーさんがスコットさんの隣へと到着すると、ユーリは俺の隣へとやってきた。お疲れ様、ユーリ!
2人が牧師の方を向くと、ようやく結婚式が始まる。
まずは牧師の話を聞き、日本みたいに受け答えをした。
それから結婚誓約書というものにサインをし、最後に戸籍の方にもサインをする。
これはエミリーさんが『現在の両親の戸籍からスコットさんと新たな戸籍を作る』という作業らしく、通常は翌日の仕事の書類として出されるものらしいんだけど、今日は後ほどウォールさんがすぐにサインをして正式な書類になるそうだ。
「それでは、新しい夫婦の誕生を皆さんで祝いましょう。」
牧師さんはそう言って両方の掌を斜め上に上げ、高らかに宣言をした。
その瞬間、チャペルの中は歓声に包まれた。
今日の主役、スコットさんとエミリーさんは少し照れくさそうに互いを見てはにかんでいる。
すると突然、天井の方から小さな花がゆっくりとパラパラと落ちてきた。……え?何で???
周りはみんな驚きの表情をしている。
その中で2人だけ、驚いていない者がいた。
ユーリとセバスだ。
多分あの日、俺達が帰ってくる前までこれを練習していたのだろう。
ユーリをじっと見ると、ニヤリと笑ったので間違いない。
その花は床につくと、溶けるように消えていく。
手に触れているものも、しばらくすると雪のようにフワッと溶けて消えた。
……すごいね、この魔法。頑張ったね、ユーリ。
それからしばらくして皆でチャペルから移動を始める。
扉を出て廊下を歩いていると、今度は霧雨のような天気雨が降って、天には巨大な虹が出た。
俺はまたユーリの仕業かと顔を向けると、首を横に振って「違うよ!」と言った。え?じゃあ誰だ?
俺はキョロキョロと周りを見渡したが、みんなとても珍しい現象を目撃して笑顔になっていた。あれ?違うの?
俺が訝しげな顔をしていると、ユーリが天をじっと見ていた。
「……にぃに、どうやらあれは贈り物?なんだって。この世界では珍しい現象で、『幸福になれる』って言われてるんだって。」
天から目をこちらに向けたユーリがそんな事を言う。
……一体誰だね、その『贈り物』をした奴は。
俺は胡乱な目で天を見る。
……いや、見たからって分かるわけじゃないんだけどさ。
そんな珍しい現象を堪能した後、俺達は食堂へと向かった。
今日の主役の2人の家族の話では、まだ2人は住む家がないのでこの街にいる間はそれぞれの家で過ごすんだって。
そっか、2人で住む家がないんじゃ、しょうがないね!
その後、皆でとても賑やかで楽しい食事をした後、それぞれの家へと帰っていった。
いやいやそれにしても今日は疲れたなぁ……。
でも、2人もこれで晴れて夫婦になった訳だし、さらに幸せになると良いね!




