225、ダンジョン5階のフロアボス戦 2
俺は1つ大きく息を吐くと、改めてフロアボスの部屋を覗く。……やっぱり、見間違いじゃないね。
「ねぇ、リッキー。こうやってフロアボスの部屋のドアを少し開けた状態で魔法って使えないのかな?」
「そうだなぁ……もうすでに中にいるのが見えるんだろう?」
リッキーの言葉に俺は頷く。
「なら魔法が効くんじゃないか?それにしても今回のボスはイレギュラーなんだな。これも『変換期』の影響なんかねぇ?」
リッキーはそう言って首を傾げる。
そうだよねぇ、本来一匹の巨大な魔物しかでてこないフロアボスがものすごい数いるしねぇ。
中、凄いんだよ?
無数の巨大なアリが折り重なるようにうず高く集まっていて、もう少しで天井まで埋まるほどなんだ。
あれって下にいるアリは潰れないのかなぁ?
とりあえず俺は試しに強めの炎魔法を中に放ってみた。
するとちゃんと中でも魔法は作用しているらしく、中にいる巨大なアリを数匹倒した。
でもたった数匹だけだったので、アリたちはこちらに気づかない模様。こちらに向かってくる気配はない。
「うん、ドアが開いていても魔法はちゃんと使えるね!」
「では、休憩所の時のように魔力を私に集めて魔法を放ちますか?」
俺の言った独り言に、セバスが聞いてくる。
「いや、今回は3人でそれぞれ魔法を使おうか。有効なのはやっぱり炎なのかな?」
「そうですね、フォレストアントは油分が多いのでかなり強めの炎で焼くと他のアントにも移ります。ここでは周りが石で囲まれていますので、森への影響は考えなくてよろしい分、気が楽ですね。」
自身も森に住んでいた経験からか、対処法を教えてくれた。
なるほど、油分が多いんだね?
それなら尚更は炎で焼くのが一番だ。
部屋の中に密集しているから森に延焼することもないしね。
「じゃあ、もしだったらこのドアから皆で魔法を放つ?さすがに燃えている部屋の中で、武器で戦う人は戦えないでしょ。」
「そうだな、魔法を使えるやつらがいるか声をかけてみるか。」
リッキーはそう言ってマックスさん達の方へ歩いていった。
しばらくしてリッキーは20人ほどの冒険者を連れて戻ってきた。
「炎魔法が使えるやつを連れてきたぞ〜。この後どうするんだ?」
「この後はボス部屋のドアから中に向かって炎魔法を放つ予定です。準備ができた人から順番にやっていって、頑張って殲滅しましょう!」
俺はリッキーが連れてきた人達に向かって、大きな声でそう伝えた。
それを聞いてみんな頷き、詠唱を始める。
俺は詠唱なんてしないから、セバスと共にドアの隙間から中へとかなり大きめの炎魔法を放つ。
放った後は、その間に準備のできたエミリーさんを含めた数人と場所を交代し、順番の列に並ぶ。
みんな順番に次々と魔法を放っていったので、アリ達もこちらへやってくる余裕が無いようだ。
チラッと見た石造りの大きな小屋の中は、炎で大降水になっている。
「よし、かなり火の回りが良いから、とりあえず様子を見よう。外に中の魔物が出てくると悪いから結界で覆ってしまうか。」
俺はそう呟いて石造りの小屋に結界を張った。
もちろんドアが燃えてなくなるのは無しだと思い、部屋の中の壁にそって結界を張ってみた。
このまま何もなければ、しばらく様子見をする予定だ。
それからしばらく……30分くらい?経ってから、結界越しに中を見た。
中は魔物の落としたドロップがものすごい数床に溜まっていた。
俺はそのドロップを回収するために結界を解除し、みんなと一緒に中へと入った。
このアリ達のドロップはその甲殻や小さな魔石、稀に握り拳ほどの魔石もいくつかある。
奥の方に行くにつれて山のようにドロップ品が積み重なっている。
俺はそちらの方へと歩いていくと、その山の上の方からドロップ品が数個落ちてきた。
それを拾おうとした瞬間、一気にドロップ品の山が吹き飛んだ。
俺はびっくりして顔を上げると、俺の目の前1メートルほどに、俺がドアから見たアリなんかとは比べ物にならないほど大きなアリの顔があった。
目の大きさなんか、俺の顔よりもでかい。
もの凄く太い牙を口に持っているそのアリは、驚いて固まっている俺を見ていた。
そんなとても巨大なアリが、その強靭な顎を開いて俺に噛みつこうとしてきた。
俺は咄嗟に顔を両腕で庇おうとしたのだが、その顎は俺に届くことなく強靭な結界に阻まれた。
だが、その顎は結界ごと俺の腕に噛み付いている。
次の瞬間、俺に噛みついてきているそのアリの頭が、首からゴロンと落ちて大きな音を立てた。
「おいっ!大丈夫か、シエル!」
「腕は大丈夫か!?」
そう言って声をかけてきたのはリッキーとスコットさんだ。
どうやらアリの首を切り落としたのはこの2人らしい。
「……怪我は大丈夫そうだな。」
「ああ、あんなに巨大なフォレストアントは初めて見たが、一体何だったんだろうな……。」
2人はそう言って目の前に転がっているドロップ品をどかしていく。
するとそこにはまだ残っている先ほどのアリの体が消えずに残っていた。
「……なぁ、これって……?」
「ああ、間違いない。フォレストアントのクイーンの体だ。」
「このまま残っているってことは、これがクイーンのドロップ品なんだろうな。」
「あまりに巨大だから、シエルにここにきて鞄に入れてもらうか。」
そう言ってスコットさんはまだ呆然としている俺の手を引き、クイーンの体のところまで連れてきた。
「呆然としているところ申し訳ないが、これを鞄にしまってくれないか?今回の証拠として持って帰りたいんだ。」
俺は言われるままにアリの体を鞄に入れていく。
それからみんなで手分けして全てのアイテムをそれぞれマジックバッグや手持ちの袋に入れ、地上に戻るための魔法陣の部屋まで向かう。
どうやら転移石は相当な数見つかったらしく、無事に数人ごとで帰還できるようだ。
「じゃあお前達は最後までここにいるっていうのか?」
マックスさんにそう言われた。
そう、俺たちはみんなが無事に地上に戻ったのを確認してから転移することにしたのだ。
「俺達は後から向かうから、地上で王都へ帰る馬車があったら先に乗って帰ってくれて構わない。すまないが、ギルドへの報告は頼めるか?」
「ああ、そんな事はお安い御用だ。俺たちに任せろ。それより……大丈夫なのか?」
「ああ、俺たちは強いから気にするな。」
「……わかった。お前達も気をつけろよ?」
「ああ、お前達もな。」
スコットさんとマックスさんがそう挨拶を交わす。
それからみんなは転移魔法陣から次々と地上へ向かっていった。




