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悪の華に口づけ~正義の味方が女幹部に恋をした~  作者: 依馬 亜連


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22/36

22:正義の味方は出くわした

 パンケーキを平らげた後、二人は買い物を続けた。とりとめのない会話を交わしながら、あちこちの店を見て回る。

 ショッピングモールを十分堪能する頃には、夕刻を迎えていた。

 大学生の蛍に門限はないものの、年長者の気遣いとして、遅くまで付き合わせるわけもなく。


 樹たちは現在、ショッピングモールの平面駐車場にいた。

 今日は前回のお詫びも兼ねて、樹が運転手役も買って出ていたのだ。

 夕焼けが、彼の白い車を赤く塗りつぶしている。


「荷物はこれだけ、やんな?」

 蛍の買った小物類と、樹の買ったスニーカーと。

 そして、蛍が吟味に吟味を重ねて選んだ、人を堕落させる巨大クッションを、トランクルームに詰め込む。

 トランクルームを閉じながら、後方の彼女へ振り返った。


 車と同じく朱色に染められた蛍は、麗しい人形の顔のまま、こくんと頷く。

「はい。送り迎えだけでなく、商品まで持っていただいて、ありがとうございます」

 礼儀正しくお辞儀する彼女へ、樹はカラカラ笑った。

「ええよ、ええよ。でも意外やね、蛍ちゃんがこういうの欲しがるって」

 視線はトランクのガラス窓越しに、堕落ソファを示している。


「私にも、だらけたい時はあります」

 凛と背筋を伸ばし、蛍は堂々とそう言い切った。樹もにやり、と笑う。

「だらけてるトコ、写真で送ってや」

「絶対に嫌です」

「即答かい!」

 予想通りであったが、ズッパリ断られる。


 しょげた樹が彼女を窺うと、平素通りの無表情であるが──ほんの少し、瞳にからかいの色が見える。

「蛍ちゃん……?」

「悪用しないのであれば、お送りするのもやぶさかではありません」

「悪用しません! ってか、誰にも見せへんし!」

「それは何よりです」


 神妙に頷く彼女の横を、その時ぬっと、黒い影が横切った。

 いや、夕焼けが逆光となり、二人の人物を黒く塗りつぶしているだけであった。

 人影は、三十代と思われる女性と、彼女を従える初老の男性だ。

 男性は蛍のクッションと良い勝負の、巨大なぬいぐるみを抱きかかえていた。


 二人に既視感を覚え、目を凝らして人影を眺めていた樹が、やにわに

「あ」

素っ頓狂な声を発した。

 初老の男性も、暗くなりつつある駐車場で目を細め、樹を見据える。


「おや、君は……穂坂君か」

「お疲れ様です、倉間司令官」

 素通りしなかった過去の自分にうんざりしつつも、樹は営業スマイルを貼り付けて会釈をした。

 無論さり気なく、蛍を背に庇うことも忘れていない。


「お買い物……ですよね。これまた大きなぬいぐるみ、買いはったんですね」

「ああ。孫の誕生日プレゼントにね。そういう穂坂君は──」

 倉間はぬいぐるみを、秘書官の添金女史に押し付けて、覗き込むように蛍を見た。

「そうか、デートか。君も、隅には置けないな」


 ためつすがめつの無遠慮な視線に、元々司令官に好印象を抱いていない樹は、腹立たしさを覚える。

 が、寸前でこらえる。

「デートってか、友達と買い物してたんですよ」

 だから邪推は止めろ、とやんわり倉間の肩を押し留めたが。


 その手が、叩き落とすように払われた。

 思わず怒気をまとった樹と、彼を跳ねのけた倉間の視線が絡み合う。

 夕闇で見る司令官の双眸は、闇をはらんだかのように真っ黒であった。

 男の見開かれた、感情の読めない目に樹は一瞬躊躇する。


 その隙に、倉間は蛍へ肉薄した。

 正体が割れないためだろう。俯く彼女の顔を覗き込んで、彼は口元だけ笑みを浮かべる。

「名前を、訊いても良いかな?」

 ぞっとするような、暗い情念のこもった声音だった。

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