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解決部 ~あなたのお悩み解決します~  作者: 彼方
最終章 魔神と聖杯
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78 青年と解決部


 魔界。そう呼ばれていた世界では昨日、黒い光が溢れ出るように世界を包んだ。その光は地上と呼ばれていた世界にすら届き二つの世界は暗闇に一瞬包まれたが、人々は自身に害がないことが分かると気にもせず不思議なことがあったという軽い認識で歩き出す。黒い光の発生源では大地も空も、ただ一つの石像を除いて何一つ残っていなかった。


 ピシッ! ピシッ!


 誰もいない黒の空間に亀裂が入る音が響く。人の形をした石像にみるみると亀裂が入っていき石が割れて中のモノが出てくる。


「……?」


 石が全て剥がれ落ちた時、青年は目覚めた。周囲には何もなくただ黒い場所に困惑するがそれ以上に戸惑う事態が起きていた。


「俺は……誰だ?」


 記憶がなかった。自分が誰なのか、どうしてこんなところにいるのかも何一つ分からない。


 一日前。ここで起きた出来事は世界の運命を決める戦いであった。六人の英雄達がその身を犠牲にして一人の青年を守ったが、その際使われた封印術は英雄達が使用後すぐに死んだこと、そして膨大なエネルギーが封印された青年にぶつかったことで封印時期が極端に短くなった。


「こっち、かな?」


 黒い空間の中を自身の勘のみで歩いていると、世界の景色は黒から色づいたものに変わる。青い空、茂る緑、どこまでも続く大地の色、全てが懐かしいようで知らないものだった。青年はそれらの景色に無意識に涙を流していたが、気付かずにひたすら歩く。やがて青年は黒い穴のようなものを見つけた。


(これからすごい懐かしい感じがする、危なそうだけど入ってみるか?)


 青年は怖いという思いを抑え込み勢いよくその穴に飛び込んだ。


「うわっ!? いたたた……」


 穴から出ると青年は山の中にいた。勢いよく飛び込んだことで地面に着地できずに転んだ青年は辺りを見渡すと、何故か何も知らない筈なのに涙が溢れてくる。


「なんだろう、ここはすごく……懐かしい」

「進藤?」


 青年は後ろから声がしたので自分のことかは分からないが振り向く、するとそこにいたのはマッシュルームヘアーの黒髪に眼鏡をかけた大人しそうな若い男だった。


「進藤じゃないか! こんなところで何をしてるんだ? 僕は丁度並行世界から帰って来たばかりでね! あっちではなんと水瀬さんが木こりで斧を湖に……」


 明らかに自分に向かって声を掛けているが青年には誰か分からず黙るしかなかったが、勇気を振り絞ってその男に当然の問いをすることにした。


「あの、その進藤って……俺のことなのかな?」

「あはは……君しかいないだろう?」


 進藤。その名前に馴染みはない。青年が悩んでいると若い男は困惑しながら、発された言葉の意味を考えているとある結論に辿り着いた。


「まさか……僕の名は言えるかい?」


 当然知らないので青年は黙るしかない。そのことで男も目を見開き自分の仮説が正しいことを理解してしまった。


「あはは、記憶喪失……か」

「そう、みたいですね。貴方は俺の知り合いなんですか?」

「僕は……斉江学、君の友達……だったのかな? はっきりとした関係じゃないから断言は出来ないけど」


 学は顔を俯かせてそう言うが、段々と声量が下がっていく。これが現実だと認めたくない、もしかしたら、ここも並行世界なんじゃないかと思いもしたが直感的にそれはないと思えた。


「着いてきなよ、君の家に案内する。記憶がないんだったら分からないだろう?」

「ありがとうございます」

「敬語、か」


 学は普段と違い自分に対して礼儀正しい青年の姿にはなんだか慣れることが出来なかった。それから沈黙の状態のまま歩き続けて、住宅街の中に入った。学は目的の場所が見えたこともあり口を開く。


「ほら、ここだよ。とりあえず君の家には着いたけど事情を説明する為に僕も行こう」

「ええ、ありがとうございます」

「……何も思い出さないかい?」

「……残念ですけど、何も」


 自分の家を見ても、いつもの住宅街を見ても何もアクションを起こさない青年に学は着いてくるように言い目の前にある家に入っていく。当然だがインターホンを鳴らさなかったことにより突然入る形になれば誰でも警戒する、それはここでも例外ではない。


「敵ですか、排除します」


 唐突な侵入者に真稀が玄関に飛び出て片手を学に向けて警告する。学と真稀は接点がなく学にとっても予想外な展開だったため驚いていたが臨戦態勢をとる、その危うい雰囲気の場は新しい人物によって止められた。


「斉江さんじゃないですか! インターホン鳴らしてくださいよ!?」

「あはは、すまないね。でも君の家の主の帰還だからいいんじゃないかとね」

「もう……本当に頭おかしいんだから」


 胡桃が出てきたことにより胡桃の知り合いだということが分かり真稀も臨戦態勢を解く。そしてリビングに案内された学と青年は胡桃に何の用かと聞かれたので答える。リビングには胡桃、真稀、ジルマがいたので説明の手間が省けたと学は密かに思った。


「実は進藤が記憶喪失になった」

「そうですか……それは大変ですね」



「それだけかい?」


 家族と慕っている程の相手が記憶喪失になっているというのに反応が薄すぎたことに学は何かが引っ掛かった。だがその引っ掛かりは次の胡桃の言葉で決定的になる。



「だって私その進藤って人知らないですし」




「は?」


 その冗談としか思えない言葉に学は混乱する。


「ねえ、二人は知ってる?」

「いいえマスター、私は存じません」

「私もね、悪いけど心当たりないわ」


 その会話が頭に入ってこなかった。学は混乱しながらも必死に青年を指しながら説明する。


「そんなわけがない! 君達の家族だろう!? 進藤という男はこれまで君達の仲間だったじゃないか!」

「いや、そんなこと言われても……知らないものは知らないですし。えっと、貴方が進藤君でいいの?」

「え? あ、そうらしいです」


 訳が分からなかった。学は知っている、まだこの世界に来たばかりの頃に自分と進藤、胡桃、ジルマは共に生活していた。知らない筈がない、知っていなければならない。


「まあでも力になれるなら私達も――」

「いや、もういい」

「え?」

「もういいんだ、今日のところは帰るよ」


 全く違う世界な気がしてその場に居たくなかった。学は青年の手を取りその家を出ていく。


「あの、今の人達は」

「思い出したのか!?」

「いや、そうじゃなくてですね。誰だったのかなって」

「……さあね、もう僕にも分からないよ」


 青年は学も記憶喪失になってしまったのかなどと心配していたが、気を取り直して本来の目的を口に出す。


「それじゃ俺の家に行きましょう!」

「いや、だからここが君の家だったんだって」

「それはおかしいですね」


 学からすればもうおかしいことだらけなのだが、青年は今出てきた家の表札を指して学が気付いていなかった事実を告げる。


「だってほら、表札が」

「え? ……水瀬……だと?」


 その家の表札は学が覚えている限り進藤という名前だった、しかしそんなものは初めから存在しなかったように変わっていた。その事実を学はもうあまり考えたくはなかったが必死に頭を回す。


「とりあえず僕の家に来てくれないかな」

「えっと、斉江さんの家ですか?」

「ああ、すぐ隣だから」


 そして学は自宅に入り、青年を招き入れた。その音を聞きつけて一人の男がやってくる。


「おお斉江、帰ったのか……そこの男は?」

「長村さん、アンタもだよね」


 学は胡桃が覚えていない時点で長村も進藤という男の事を覚えていないと予想していた、結果予想通り初対面のように誰かと問う。それから長生きしている長村ならば何かしっているかもと思い事情を全て話した。話を聞き終わった長村は難しい顔をして話し出す。


「それはもしかすれば魔神メモリアの仕業かも知れん」

「魔神? それは一体……」

「数日前にここに六人泊っていったじゃろう? あやつらが魔神と戦う戦士達じゃった、しかしもう……帰っては来んがな」

「じゃあ進藤は魔神と戦って」

「さあな、儂もそこの男を覚えていない以上何も言えぬが可能性はあると思うぞ。メモリアは情報を統べる神、世界中から特定の人物の情報を消してしまうことなども出来てしまうじゃろう」

「それって、戻す方法は」

「ない、神の御業じゃぞ? それに対抗など出来るわけなかろう。少なくとも儂は知らん」

「そんなのって……」


 学は方法がないと知り落胆する。しかしすぐに立ち直ったのか進藤に向き合う。


「君の記憶は僕がなんとかする! だから君には今まで通りの日常を過ごしてもらう、学校に行って、部活をして、そんな普通の日常を送ってもらう!」




 学が記憶をなんとかすると言ってから青年は学の家に居候することになった。学は普通の生活をさせるために、青年を連れて宝天高校の生徒会室に向かい竜牙と話していた。


「なるほど、事情は分かった。記憶喪失の者を放っておくわけにもいかんからな」

「そうかい、助かるよ」

「えっと、ありがとうございます」

「そう畏まらなくてもいい、何故だか君とは初めて会った気がしないんだ。助けたいと思ってしまうのはあの部活の人達のお陰かもしれんが」


 それから学と竜牙はまだ話すことがあるというので先に帰ってくれという話になり青年は先に学の家に帰ることにした。その道中、目つきが恐ろしい機嫌が悪そうな男が青年を見るなり近寄って来た。


「おいテメエ」

「は、はい?」

「気に入らねえな……おらあああああ!」

「ええ!? うわっ!?」

「止めなさい!」


 青年は殴られそうになったがその拳は第三者の女の声でピタリと止まる。青年は突然のことに驚いて尻餅をついてしまう。


「全く根野、君という奴は! もう喧嘩などしていないと思っていたぞ!」

「うぐっ! わ、分からねえんだよ! コイツがなんかムカついたから……」

「それで殴ったらダメでしょうに……申し訳ない、君大丈夫か?」


 青年は足腰を震わせながら立ち上がると頷く、そんな青年の姿を見て女も頷くと根野と呼ばれた男を引きずって立ち去ってしまった。それからも道中では、妙に中二病を拗らせているような男、マゾヒストな男、世紀末にいるような男など様々な者と出会いはしたが記憶に関しては何の手がかりもなかった。



 そして運命の登校初日、進藤歩という名前で青年は登校して自分のクラスにて挨拶を終える。そのクラスには空いていた席が二つ存在したが特におかしなことはなかった。クラスの生徒は皆良い人ばかりで平穏に授業を終える。下校時間になり帰ろうとしたが、学校に来てすぐ生徒会長に言われた言葉を思い出す。


「行ってほしいところですか?」

「ああ、斉江学とも相談したんだが奴が是非というものだからな」

「それでその場所っていうのは……」

「あそこの者達は皆良い奴らだ。記憶喪失の君をサポートしてくれるだろう、君にとってもかけがえのない仲間になるかもしれんぞ?」






 とある校舎の隅の方にある部室、そこには解決部と書いてあった。


「皆依頼達成お疲れ様!」

「つーかふざけんな! なんだよあの宝くじ当たってねえじゃねえか!」

「まあまあ、これであの人も宝くじが当たってるのかどうか気にならなくなったし良かったんじゃない?」


 昨日彼らはとある依頼を達成したことでちょっとした宴会のようなものをしていた。宴会といっても料理などあるわけでもなくお菓子が机の上に広がっている。学生として楽しい時間である筈だが、鞘に入っている刀を椅子の近くに立てかけている少女、藤林未来が不満そうに言葉を零す。


「でも……なんか足りないのよね」

「え、お菓子が?」

「お菓子じゃなくて! なんかこう……なんなのよこのスッキリしない感じは」

「あ、そういや俺もだぜ? なんかここ最近何かがなくなったような感じがしてよ」

「私もなのよね、それ。でも何がなくなったのかは全く思い出せないの」

「……何が消えちゃったんだろう」


 成瀬、雷牙、胡桃、未来の四人は何かを失ったと感じていた。胡桃がそういえばと思い出したかのようにおかしな点を上げていく。


「ここ席空いてるよね、なんで椅子が六個あるんだろ? 一つは依頼人なのだとしてもさ」

「それは……依頼人が二人来た時用かな?」

「それと未来ちゃん、最近ツインテじゃなくてポニテだよね」

「いや、それはどうでも……ゴムなくしちゃったのよ、誰かにあげたような気もするんだけど」

「それと……」


 胡桃は言葉を切って窓の上に飾ってある一つのポスターを指した。


「あれって誰が描いたんだっけ」

「ああ、それ良い言葉よね。『解決部、あなたのお悩み解決します』って、今日からそれ依頼人に言ってみましょうか」

「それいいんじゃない? 何か決め台詞みたいなの欲しかったのよね!」

「おお! それすげえ分かるぜ! じゃあ依頼人が入った瞬間に言おうぜ!」

「まあいいかな、じゃあ全員で言ってみます?」


 そんな話をしてると廊下から誰かが歩く音が聞こえてきた。四人はその人物がこの部屋に入るのを待ち続け、そして扉が開いた瞬間に立ち上がる。


「失礼しまーす」

「「「「解決部へようこそ! あなたのお悩み解決します!」」」」


 え、これで終わり? と思う人もいるでしょうが終わりです。ご愛読ありがとうございました。


 なんというか無駄にした感が半端ない。そう、ただ依頼を解決していくコメディー系にしていくのもアリというかそっちの方がよかったかもと思いました。解決部というタイトルなのに後半全く出してませんでしたね。


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