71 英雄と経緯1
「状況……ですか?」
進藤は言われた言葉を繰り返す。状況と言ってもどんな、いつの、何がという風に進藤もよく分かっていないのが現状なのだ。
「うん、でもその前にどこか安全な場所に移動したいんだけど。魔物が出ない場所なんて心当たりないかな?」
「あ、はい。じゃあ案内します」
顔が同じでも魔王とは違う、根本的な何かが。魔王は言葉が荒っぽく説明も雑だった、だが目の前にいるこの男は優しく分かりやすい。この差は何か、悪だと自称した魔王は戻ると言っていたが今この男からは魔王の雰囲気は何一つ感じない。調子が狂うなと心で思いながら歩いているとそれを見透かすように話しかけられた。
「僕は僕だ。善悪が分かれても混ざっても何も変わらないよ、今は善の方が大きいってだけだと僕は思ってる。でもそうか……僕等がいない間彼が……」
(まただ、言葉に出していないのに……心を読んでいる?)
何かを納得するようだが複雑そうな表情を浮かべる男、それに続いて残りの五人も進藤の後を着いてきて地上にある自宅に招こうとした。だが突然魔王と同じ顔の男が何かを感じたように隣の斉江の家に入っていく。
「おいおい人の家に勝手に入ったぞ? それともお前の家か?」
「いや俺の家はこっちですし、間違えるわけないじゃないですか」
「村長!」
「エビル!? 何故ここに!?」
そんな声と共に何故か男は長村を連れて出てきた。その様子に進藤は知り合いだったのかと驚くが、不老不死であるなら不思議でもないかと納得する。だが他の者は一人を除いて、誰かすら知らなかったようで状況を呑み込めていないようだ。
「あれ誰だ?」
「貴女は知っていますか?」
「ええ、あれは彼の住んでいた村の村長だったはずよ」
そこで進藤は本当の名前は知らないが長村という名が偽名だと気付いた。そもそも魔界から来た長村が中国人のような名前なわけがなかった。
「それじゃ行こうか」
「ええそうですねって長村さんも来るのか?」
「うむ、どうやら儂が知っていた自体より遥かに酷い状況らしい。儂も話を聞こう」
「長村?」
「気にするな」
六人の英雄、長村を連れて家に入るとドタドタと音がして胡桃が進藤に抱き着く。
「バカあ! どこ言ってたの!? 心配したんだからあぁ……」
「わ、悪い……一日も出かけてて」
誰だって一日帰ってこなければ心配するものだ。胡桃は進藤が休暇を貰ったことを知り、竜牙を問い詰めたが黙秘するばかりで何も得られなかった。真稀と一緒に涙を流す胡桃にジルマが絶対無事だと励まし続けて何とか一日持たせた。
ジルマと真稀も玄関が見える場所に来ており、胡桃と同じように涙を流していた。
「あはは、良い家族だね」
胡桃は知らない声が聞こえてようやく玄関周辺に知らない人物が六人いることに気が付く。客の目の前で抱き着いたり、涙を流したりしたのが恥ずかしいのか顔を赤くする。
「えっと……誰?」
「とりあえず説明するから、悪いけど十一人分の飲み物用意してくれ」
「多いね!?」
そして胡桃は涙を拭き言われた通りに十一人分のお茶を用意した、その後リビングに窮屈なのを我慢して全員が集まった。テーブルには四人しか座れないので話しやすいように進藤、長村、魔王と同じ顔の男、胡桃の四人で座り、後のメンバーは立って話をすることにした。
「さて、それじゃあまずお互い自己紹介をしよう。僕はエビル」
「進藤歩です」
続けて進藤家のメンバーがし終わり残りの英雄五人の番になる。まずは赤髪の女。
「私はレミよ、よろしくね」
巨大な鎌を持った男。
「セイムってんだよろしくな」
聖職者の女。
「サトリです、よろしくお願いいたします」
大剣を背負っている男。
「ヴァンだ」
竜のような男。
「白竜」
そうして全員が自己紹介を終え本題に入る。
「エビルさん達の言っている現状って魔神……のことですよね」
魔神。その言葉を出した瞬間空気が張り詰める。エビルが謝り続きを話すようアイコンタクトで伝える。
「魔神は石になってて封印は成功しているらしいんですけど……二日後に目覚めます」
「二日後!?」
そのあまりに短すぎる期間に英雄達も、事情を知らない胡桃達も驚きの声を上げる。
「なるほど、現状は分かったよ」
「一つ気になることがあるんですけど」
胡桃が手を上げてエビルに向かって質問を口にする。
「その魔神? って何なんですか?」
「魔神が何なのか、か」
エビルは長村の方を見る、長村が頷きエビルは何かを決意したように話し出す。
「今から話すのは僕達が封印を発動するまでの話だ」
* * * * * * * * * *
魔界、その名が付いたのは魔神が封印されてから暫く経った頃だった。魔神が溢れさせた瘴気のせいで空気が汚れ人が住みやすい土地ではなくなったからである。これは魔神との決戦の前、エビル達が住む後の魔界であるアスライフ大陸での話である。
アスライフ大陸の空中には神が住むとされる神殿が存在していた。しかしそれも数刻前までの話、神聖さを見ただけで感じ取れる純白の建物は凄まじい衝撃と共に地上へ落下したのだ。空中には抉れたような大地ごと浮いていたのだが、そんなものが落下してくれば被害は想像も出来ない。実質生き残ったのは三割、アスライフ大陸は半壊してしまった。
そんな今までにない異常事態に集まったのは、これまで様々な悪を倒してきた英雄と呼ばれる者達であった。彼らは神殿が落下した場所にヒントがあるかもと思いその場所に向かったことで偶然にも集結した。
「ほら、言った通り集まった」
「ふむ、本当に来るとはな。心を読むだけでなく気配を読むことも出来たか」
「何度も言うけど僕は風を感じてるんだ、読んでるんじゃない」
一足先に来ていたのは白いマフラーを巻いた優しそうな青年、赤髪の女、竜のような圧力を放っている偉そうな態度の男。白いマフラーの青年、エビルは数十分前目の前の男、白竜に対してまだ仲間達が向かっているから事情を説明するのは待ってくれと言ったのだ。一応の信頼はされているのか何の根拠もない言葉を信じて白竜は待っていた。
まず来たのは黒髪赤目で自身の背丈くらいある大きな鎌を持っている男と聖職者の恰好をしている女のペアだった。
「セイム! サトリ!」
「おっ、レミちゃんじゃんお久!」
「久しぶりですねレミ。一年ぶりですか」
知り合いだったのか三人は意気投合したように話し出す。黒髪の男はセイム、聖職者の女はサトリ、赤髪の女レミ、三人はエビルと一緒に一時期旅をした仲間であった。
「何だ、知ったような顔がいるな」
それに少し遅れてやって来たのは大剣を背負っている男。その男は迷いもなくエビルの元に向かって状況を聞き出そうとしていた。それにレミは怒ったように詰め寄り注意した。
「ちょっといきなりすぎでしょヴァン! 挨拶もないわけ!?」
「下らないものに時間を割かないようにしているだけだ」
「挨拶は大事でしょうが!」
「どうせ全員顔見知りなんだ、必要ないだろう」
「そこまでにしろ!」
今にも喧嘩になりそうだった二人を止めたのは白竜の怒鳴り声だった。白竜はエビルとアイコンタクトでこれ以上は来ないことを確認し、現在の状況を説明し始める。
「さて、お前達挨拶は後にしてまずは状況を知ってもらおう」
その言葉にヴァンはレミに対してニヤリと笑い、それを見たレミは血が上ったのか顔を真っ赤にして怒る。だが声は出さない、また怒られたくないからだ。そんなやり取りを見ていたエビルは少し笑いそうになるが堪える。
「後ろにある堕ちた神殿を見て想像はついているかもしれないが――」
「――封印の神、カシェ様がお亡くなりになった」
その白竜が悲痛そうな表情をしながら発した言葉に、一同は一瞬にして真剣な表情に変化していた。
村長……エビルが長村をそう呼んでいたが誤字ではない。元はエビルの故郷の村の長であった。村は壊滅したが不老不死の力で生き延びていた。




