70 封印と目覚め
進藤は魔王が口にした言葉を信じられないように、心の中で何度も状況整理をして魔王に問う。
「魔神の封印が解けたとしたらどうなる?」
「支配される。魔界も地上もな。現状魔神に対して勝ち目はない」
その問いに魔王は絶望的な答えを当然のように答える。
「それは俺とアンタ二人でもか?」
「当然だ。俺やお前が十人ずついたとしても勝てん、実力差がありすぎるのだ。だからこそ封印という結果になっている」
十人いても二十人いても自分達では勝てない。そう断言されると進藤にも魔神の絶対的強さが分かりかけてきた。その想像も出来ないような強さを持つ者をどうすればいいのか進藤は必死に考える。
「そうだ……もう一度封印するのは?」
「無理だ……とは言わない。だが成功確率は限りなくゼロだ、そもそも今封印されているのが奇跡のようなものだからな」
それほどの相手に自分ではどうすることも出来ないのかと落ち込む進藤。
そんな話をしながら魔王は進藤を連れて荒野を抜けて祭壇がある森にまで歩いていった。
「封印なら今日は異常なかったんじゃないのか? さっき確認したばかりだろ」
「お前は根本的な勘違いをしている、さっきじゃない。今はお前と戦った翌日だ」
「え、そんなに寝てたのか俺」
現場に着いた魔王は石像に触れ何かを感じ取っていた。それを見て進藤が何をしているのか尋ねると驚きの言葉が返ってくる。
「こうして触れることで封印の消失が何時頃か分かる」
「え!? それでいつなんだ!?」
「二日後だ」
「な、に?」
「だが運が良かった」
「どこがだ!? 全然良くないだろ!」
「まあ聞け。確かに二日後には封印が解ける、だがそれより前に周りの六人がもうすぐ目覚める」
魔王は六人が先に目覚めると言ったが、進藤には魔王が嬉しそうには見えず悔しそうに見えた。
「その顔、まるで目覚めてほしくないみたいだぜ?」
「それは……その通りだ。俺が特に目覚めてほしくないのはコイツがいるからだ」
そう言い一つの石像を剣で示す魔王。進藤はその魔神と向き合って手を翳している石像を見ると驚愕の事実を目にした。
(同じだ……魔王とこの石像の姿が! 全く同じだ!)
「気付いたか、何故同じなんだとでも思っているのか?」
「ああ、いったいどういうことだ」
「簡単な話、俺はそいつから出てきた。封印の際、俺は弾き出されたのさ……その男からな。悪と善、二つの心に分離して俺は生まれた。もしコイツが目覚めれば俺は強制的に中に戻されるだろう」
目覚めれば消える、矛盾しているかのような情報に困惑する。
――ピシッ!
だが進藤にはそれに戸惑う時間すら与えられなかった。何かにヒビが入る音がした。
恐る恐る石像を見る魔王と進藤の眼には魔神の石像にヒビが入っているのを確認した。
「おい! 二日後なんじゃないのか!」
「慌てるな! 完全には解けていない、言ったはずだ。解けるのは二日後、ただ徐々に解けていくだけだ! だが一部解けただけでももしかすれば――来たか!」
「何だあれは……何かの大群がそこら中から」
「魔物の行進だ! 気を引き締めろ!」
前から、後ろから、横から――全方位から。魔物と呼ばれる魔力を持った動物達が景色を埋め尽くす大群でこちらに向かってきているのが進藤には見えた。ある者は空を飛び、ある者は地を走り一直線に進藤達――いや魔神の石像に向かってきていた。
「強力な魔力が突然漏れ出たことにより引き寄せられたんだ! 駆除するぞ、と言いたいが……」
ピシッ! ピシッ! ピシッ! ピシッ! ピシッ! ピシッ!
石像にヒビが入る音が連続で聞こえてきた。まさかまた魔神の石像かと進藤は思ったが先程の魔王の言葉を思い出す。六つの石像に勢いよくヒビが入りはじめた。
「まさか!」
「そのまさかだ、悪いが状況説明を頼んだぞ。恐らく奴らの時は封印と同時に止まっている」
「待って――」
「さらばだ」
「――くれ!」
六つの石像はヒビが徐々に広がっていき、その隙間から眩い光が漏れ出ていた。思わず進藤は目を瞑り、魔物達の動きも一旦止まる。
石は剥がれ落ち、石像は完全な人へと変化した。
魔王と同じ顔、体、違うところといえば黒ではないところである首に白いマフラーを巻いている男。
炎の如き赤髪の活発そうな女。
黒髪赤目、黒いコートを着ている巨大な鎌を持った男。
神聖な雰囲気を感じさせる服装、佇まい。聖職者であることが一目見て分かる女。
竜と同じ瞳、口元には小さな牙が見えている白を基本とした服装の男。
自分の肩から足まで程の大剣を背負っている目が鋭い男。
「あれ? ここは……」
「どうなってるの? 封印は成功よね?」
「そうだろおおおお!? 何だあの魔物の数!?」
「凄まじい数ですね」
「この空気、汚染されているな」
「お前達、まずは目の前の魔物を片付けないか?」
戸惑う者、驚く者、冷静に分析する者。六人の英雄は解き放たれ、今この世界に舞い戻る。
「この人達が……英雄」
進藤もまた戸惑う者の一人だった。魔王が言葉通り黒い粒子となって消え、それと同時に復活した六人の男女。状況が変化し続ける事態に戸惑いを隠せない。進藤はとりあえず魔王に言われた通り状況を説明しようと歩み寄るが、話しかける前に魔王と同じ顔の者が話しかけてきた。
「君、説明は後でしてもらえるかな? 先にあの大群を片付けよう」
(言う前に言おうとしたことを的確に当てられた!?)
「ええ、そうしましょうか丁度ウォーミングアップしたいなと思ってたのよ」
白いマフラーの男と赤髪の女はそう言うと凄まじいスピードで進藤の横を駆け抜けていった。
(速い! 真稀の爆炎を使った時と同じくらいだ!)
「さて、そんじゃ俺はこっちにいきますかね」
「なら私もお供しましょう」
鎌を持つ男と聖職者の女も先の二人とは反対方向の魔物の群れに突っ込んでいく。
「あれ? アンタ達は行かないのか?」
「行く必要がない」
「そうだな、あの程度の敵ならばそもそも俺一人でも問題ない。奴らでも一人で問題ないだろう」
自信が満ち溢れている二人だったが、流石に千を優に超える大群が襲ってくれば討ち漏らすのは必然。魔神の石像周辺にいる進藤達にも魔物が近づいてきていた。
「討ち漏らしたか、情けない奴等だ」
「全くだ、あの程度数秒で片付けられないものか」
自分でも出来るか分からない程の辛口評価を口にするその場の二人は、向かってくる魔物に対して攻撃の準備をしていた。白い恰好の竜のような雰囲気を感じる男は息を思いっきり吸い込む、そして口いっぱいに何かを溜めて一気に吐き出した。
「白竜の咆哮」
(なっ!? あれは会長の!?)
その男は竜牙と同じ力を使った、威力も範囲も段違いな技だった。放たれた白き光線は全てを飲み込んでいき正面にいる魔物も、森も消えており大地も抉れていた。もう一方向から迫る魔物も大剣を背負う男が大剣だと思わせない速さで振り回し、あっという間に死体の山が出来上がっていた。
「やはり準備運動にもなりはしないな」
「当たり前だ、今更あの程度の――お前はまさか!」
ため息を吐く大剣の男に言い返す白き男は進藤を見て驚愕したように凝視する。目を見開き、ズカズカと距離を詰めてくる男に少し苦手意識を持つ。進藤は何かあるのかと問いかけるがその男は何も返さず見ているだけだった。そしてようやく何かを確認し終わったのか進藤の目を見て口を開こうとした時――風が吹いた。
「さて、終わったことだし現況を説明してもらえると助かるんだけど……何か知ってるかい?」
魔王と同じ姿をした男が風と同時に現れ、そう進藤に優しく問いかけた。




