第7話 「近代魔法理論」
タルタが帰った医務室で一人、ついに例の機能を試すことにした。目を閉じ機能に意識を向け、スキルツリーを開く。数多の職業、数多のスキルが無限に続く滝のように、大樹の根のように目の前へ広がる。
「能力閲覧機能がアンロックされました」
おっ、メガネの機能が増えた。魔力量が増えたらうんたらかんたらとか言っていたなそういえば。水晶板と似たような機能のようだ、とりあえず見ておこう。
ステータス
LV: 9
HP: 268
MP: 573
STR: 28
DEF: 28
DEX: 28
INT: 112
MND: 97
LUK: 87
おお!結構増えてるぞ。MPは倍くらいになってる、業火の弾丸も1回くらいなら撃っても倒れなくて済みそうだ。INTの上昇でどの程度魔法の効果が上がるのかはわからないけど、その辺りも試してみたいな。近接系ステータスは軒並み死んでるけど……そこは諦めるか。さてさてメインディッシュの魔法使いスキルを見てみようか。
能力閲覧機能を閉じ魔法使いの職業に意識を向けると、幾層にも積み上げられたスキルが拡大される。スキルツリーはTierと呼ばれる層に分かれており、各層毎にいくつかのスキルが配置されている。今はTier1という層のみが明るくなっていて、それ以外の層のスキルは選択できないようだ。インターフェース右上の表記によるとスキルポイントは27、アナウンスの時は24ポイント獲得してたから元々3ポイント持ってたのか。Tier1で獲得できるスキルは三つある。一つ目は『魔力強化』、これは取得すると数パーセントだけINTが上昇するようだ。レベルの表記があるからポイントを使えば効果を増やせるのかな。次は『無属性魔法マスタリー』、無属性魔法の効果・耐性が上昇する、って書いてるがピンとこないな。ゲームでいうところのマジックアローとか魔力弾的な魔法の威力が上がるとかかな。これもレベルがあるから強化できそうだ。最後は『魔法経験値』、これは魔法の行使の度に僅かながら経験値を得られるようだ。これはレベルを上げると手に入る経験値が増える。危険を冒さずに強くなれるのは魅力的。ただ手に入るスキルポイントの上限がわからない現状だと振って良いのか悩みどころだ。
とりあえず腐らないであろう魔力強化を少し上げてみる。レベル1にするために1ポイント、レベル2にするために2ポイント、レベル3にするために3ポイント消費、6ポイント使った。スキル説明欄を見ていたがINT上昇率が2%ずつ上がって現在6%上昇しているようだ。ということはレベル5で10%になるはず、なのだが消費するポイントはおそらく4+5の9ポイントで4%。現状の能力値では割に合わないか、一旦保留だな。
魔力強化をレベル3まで上げた後、ふと他のTierに目をやるとTier2が明るくなっており選択できるようになっていることがわかった。どういった条件かはまだ確定出来ないが何らかの条件を満たしたためアンロックされたのだろう。Tier2には火、水、風、地属性魔法マスタリーの他に名前、説明欄がクエスチョンマークで埋められたスキルが配置されている。四つのマスタリーはポイントを割り振れそうだが、このハテナのスキルは条件を満たしていないようだ。
とりあえず火属性魔法マスタリーに振りたいところだが説明欄に効果の上昇値が記載されていなかったため、どの程度振っていいかわからない。これは体が治ってから試しながら振ろう。
次の日の夜、怪我が治るのを今か今かとベッドでゴロゴロしていると突然カルボが医務室に尋ねてきた。
「邪魔をする、賢人の宴初仕事でとんだ目にあったな。あのまま死なれていたら勧めた身としては寝覚めが悪い。」
「カルボ!お前に一言文句を言ってやろうと思ってたんだ、死ぬかと思ったぞ本当に。――だがまぁおかげで良い事もあった、ケモミミをモフれた。ぐふふ、結果オーライってやつだな」
「なんだお前、獣人趣味があったのか。少し引いた」
「なんだと!?お前には獣人の美少女の良さが、あの美しい毛並みと耳の良さがわからんのか!」
「わかったから落ち着け、魔物に襲われて頭でも打ったのか。性格変わってるぞ」
「うるさい!元々こういう性格だ!」
「まぁ、人の趣味嗜好だから何も言うまい。内心気持ち悪いが」
「いつかケモミミをモフりたくなる魔法をお前にかけてやるからな、覚えてろよ」
しばらく話をした後、ふとスキルポイントの割り振りについて悩んでいたのを思い出した。
「そういえばカルボはスキルポイントどんな感じに割り振ってるんだ?」
「ん?なんだそのスキルポイントというのは」
「――へ?いやほらレベルが上がった時にもらえるポイントだよ」
「レベルが上がると何かもらえる店でもあるのか?それはいい、詳しく教えてくれ」
「いや、そうじゃない。――知らないならいいんだ。悪いな変なこと言って」
話が合わない。もしかするとスキルなんてものはないのか?メガネの加護のせいなのか?――情報が足りない、どこかで調べる必要がある。そもそも魔法や世界の成り立ち、常識や流行り、文化や歴史、あらゆる知識が足りない。思い込みで視野が狭くなっていた、反省しなくては。
「カルボ、調べ事をしたいんだが学院に図書室とかないか」
「あぁ、あるぞ飛び切りのが」
「それは楽しみだ」
「ただ、もう動いていいのか?完治したわけでもないだろう」
「ほら、レビットは学院内でも使えるだろ?浮いてればベッドで寝てるのと大して変わらないんじゃないかなーと」
「寝たきりでいるのも暇だろうし図書館くらいはいいだろう。よし、そうと決まれば行くぞ」
医務室を出てふわふわと西棟へ向かう。西棟の突き当りの大扉の上の札には『六合大図書館』と書かれている。
「ここだ、度肝を抜かれるぞ」
カルボが大扉を開け放つと、そこには円柱の内側のような大きな空間。地面から天井まで数メートル感覚で浮遊する本棚が無数に設置されている。壁面も全て本で埋め尽くされており、その数は計り知れない。天井は高く高く、中央に人が通れる程度の大きな穴があけられている。その大穴には魔法陣のようなものが浮かび上がっている。結界のようなものだろうか。魔法陣の向こう側には、こちら側と同じように本棚や本に埋め尽くされた壁がうっすらと見える。図書館の中は無数の学生が飛び交い、学生の他にずんぐりむっくりの天使のようなビジュアルの何かが学生毎に一体付き添っていた。
「何カ本をお探しデすカ?」
上空を飛び交う天使のようなそれと同じものが地上に設置された受付の影から飛び出てきた。やけにカタコトだ。
「そいつは魔法人形。ノブリスって呼ばれてる型で図書館の本の整理や学生の案内、あと侵入者の撃退を担っている。とりあえずそいつにいろいろ聞くと良い。俺も調べ事をしてくる。終わったら適当に医務室に戻れよ」
カルボがどこかへ飛び去ると、もう一体出てきたノブリスがカルボへふらふらとついていった。
「何か本をお探しデスカ?」
「おぉ、えーっと……とりあえずエウレストの歴史に関する本、レベルや能力に関する資料と魔法の成り立ちに関する本が見てみたい」
「ではイくツか本をお持ちシますので近くの本棚に座っテお待チ下さイ」
ふよふよ~っとどこかへ飛び立ち、しばらくすると数冊の本を抱えて帰ってきた。一冊目はエウレストという世界が出来るまでのおとぎ話。さらっと要約すると、その昔五人の神様、繁栄の神マーテル、争いの神エストラ、創造の神クレアル、秩序と混沌の神ジズとスミルがいた。神はなんやかんやあって世界を生み出し、生命や植物を創り出す。創り出された物達が生きられる世界にするために大気と魔力を、創り出された生命達に自らの種族を繋ぐ繁栄の力と、弱肉強食の原理を与え、生命や植物に生と死の循環を与えたとかなんとか。うーん、事実かどうかも怪しい感じだが一応覚えておこう。
二冊目は魔法の成り立ちと魔法を創り出す方法……これは参考になりそうだ。えーっとなになに、魔法は基本魔法と固有魔法に二分される。基本魔法は火、水、風、地、光、闇、無に分類される魔法、詠唱や儀式、魔法陣やスクロールによる発動が一般的。固有魔法は基本魔法に分類できない魔法で、古代に失われた魔法や種族固有の魔法、一般的に普及している錬金術などもこれに分類される。発動方法も特殊であることが多く、祈りや素材の調合、種族独自の体内に存在する魔法器官を用いた発動がある。なるほど、氷とか雷とかかくとうとかエスパーはないのな。ポ○モンみたいに相性とかあるのかな。
おっとっと、続き続きっと……えー新たな魔法を生み出すためには、生み出したい魔法の仕組みを記した魔書を用いて魔法生成儀式を行う、もしくは魔法の性質を極限まで変化することで別の魔法へ変質させる。どちらかの工程を世界で初めて行った魔法は世界に記憶される。世界に記憶された魔法は記憶された詠唱を用いて発動することが出来るようになる。世界へ記憶させるという段階を経る必要がある都合上固有魔法に分類される新たな魔法は生み出せないとされていたが、魔法工学を用いた固有魔法の再現、変質による別魔法の生成を行う実験が成功した。これにより魔法の生成に必要なのは、変質された魔法をまったく別の魔法だと生命が認識した時であると考えられるようになった。まだ生み出された魔法が名付けられる仕組みや理由については解明されていないが引き続き研究していく……こんなところか。自分で魔法を作るってのはかなりロマンがあるな……!魔法工学ってのも気になるな、その内調べてみるか。
三冊目、最後は能力値番付、世界一能力の高い者の名前が載ってるようだ……うーんこれはちょっと違うかな。あっ、でもレベル番付がある。ネトゲとかだとレベルキャップとか気になるよね。えーっと最高レベルは……200年前にフリーゼンミール王国上空で観測された銀龍ルルンタウラ、レベル485。――これは超えられるのか?まぁ長いこと生きていそうな竜種で485レベだし多分無理か。一般的な種族で一番高いのは500年前に大戦中に戦っていた勇者アイラーク・ザラフィルティン レベル178。なるほど、200近くなってきたら勇者レベルか……となると生きてるうちに100レベ行ければいい方って感じかなぁ。
四冊目、技能の一覧とその習得に関する本だ。――軽く目を通してみたけど、技能っていうのはスキルツリーで見たスキルだ!ただ習得方法が全然違う。技能の習得には先天的なものと後天的なものがあるそうだ。先天的な習得は親から受け継いだり、種族の固有技能など。まぁそのまんまだな。後天的な習得はレベルアップする、職業に習熟する、研鑽を積むなどがあるようだ。ちょっとあやふやだな。まぁスキルツリー以外で技能を習得できるならそれに越したことはない!スキルポイントはなるべく節約したいし。
――よし、今日はこんなもんだろう。医務室に帰って寝よう。早くいろいろ試したいな……新しい武器や魔法を手に入れて何も試せないってのはゲーマーとしてかなりムズムズする。あぁ、早く怪我治らないかなぁ……
1014です。プライベートが忙しく、書く時間が減ってきて悲しいです。
魔法が楽しいハイロくん、今回はうずうず回でしたが果たして次回は?
今後も妄想垂れ流して頑張っていきますよ~。