相棒
マリアンが研究に夢中になると周りが見えなくなる原因の一つを見たような気がしたベルカは、これからも彼女の助手として行動を共にしようと改めて思っていた。でないとこの<小さな学者さん>は人としての道さえ踏み外しかねないと感じたからだ。
もっとも、だからといって助手として付き合おうと思えるのは、マリアン自身の魅力もあるのだろう。真面目で熱心で情熱に溢れていて、それでいてユーモアも解し、生物学者ということを抜きにしても才能と引力を感じる。
『ホントに不思議な人だな……』
そんなことを考えていたベルカに、後ろのシートで寝ているイリオの姿を見ながらマリアンが言う。
「私の過去を聞いても、あなたは随分と冷静ね。もっとも、これを話したのはあなたが初めてだから、他の人がどう反応するかは分からないけど。正直、肩透かしを食わされた気分だわ。もっとこう、驚いたり同情的な態度になるかと思ってた。私の想定もまだまだね」
皮肉っぽく笑ってはいるものの、それはマリアン自身に対する皮肉だというのは伝わってきた。
「十分に驚いてるよ。って言うか、驚きすぎて反応に困ってるだけかな……
だけど、あなたがどんな過去を抱えてたって、あなたはあなたでしょ? 私はあなたの助手だから。自分の仕事をするだけだよ」
ベルカの言葉に、マリアンは嬉しそうに笑った。
「あなたならそう言ってくれるかなって思って告白したけど、そこは想定通りでよかった……
ありがとう、ベルカ。あなたは素敵な人よ。あなたに手伝ってもらえて嬉しい」
「いや、私は別に……」
『素敵な人』とか、そんな風に言われることには慣れていなかったことで、ベルカは戸惑ってしまった。頬どころか耳まで赤い。義両親のベリザルトン夫妻も『あなたは素晴らしい』と言ってくれるが、それはあくまで親が子に向かって言う感じだったから、ちょっと面映ゆいくらいで済んでたのに。
それでも、マリアンが自分のことを認めてくれてるのだと思うと、自分の中に力が漲るのを感じた。元の家庭の問題もあり、どうしても自己肯定感に乏しかったベルカだったが、ベリザルトン夫妻やマリアンといった自分のことをしっかりと見てくれていると感じられる人との繋がりを得て、自分が大きく感じられるようになっていた。以前はコンプレックスでもあった、女性としては大きな体が今は頼もしく思える。
こんな自分を役立てたいと素直に思える。
そんなベルカに対してマリアンは言った。
「今のあなたは、ただの助手っていうよりは、もう、私にとって相棒よね」




