決意
『生き物達から何を学ぶ?』
マリアンにそう尋ねられて、キリアは考えていた。
自分は、両親から価値のないものとして扱われてきた。だから自分も、自らに価値があると思うことができなかった。だけど、これまで間近で見てきた生き物達は、自分に価値があるとか考えるだろうか?。自分に価値があるから生きてるとか、価値がないから生きていても仕方ないと考えていただろうか?
そんな筈はない。彼らは自分に価値があるとかないとか考えない。彼らはただ自分の命を精一杯生きているだけだ。価値があるとかないとかそんなことをいちいち考えているのは人間くらいのものだ。では、自分にとって両親は価値のある人間だろうか?
答えは『否』だ。断じて『否』だ。自分にとってあの両親に価値があるとは思えない。自分を醜いと罵り、犬小屋に追いやるような人間達に価値がある筈がない。
自分が無価値だとしたら、あの人間達も無価値だ。
自分はまだ子供だから誰かの庇護がなければ生きていけないかもしれない。だけど、それはあの両親でなければいけないという訳でもない。親から虐待を受けた子供達を保護する施設があることはキリアも知っていた。これまでにも何度か自分からそこへ逃げ込もうかと考えたこともある。
だったら、今こそがその時ではないのか? 自分の子供を犬小屋に住まわせるような親の下から逃れるチャンスではないのか?
だからキリアは言った。
「お願いです…! 助けて……!!」
彼女に必要なものは、助けを求める勇気だった。一人で立ち向かうには彼女はまだまだ非力すぎる。けれど、両親の支配から抜け出すには、一人でも生きていく覚悟が必要になる。その上で、誰かの力を借りることができれば、誰かの助けを得ることができれば。
『助けて』と口にしたキリアに、マリアンは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「任せて。私、その手の修羅場にも慣れてるから」
余裕綽々でそう応えたマリアンに、隣で二人のやり取りをハラハラしながら見ていたベルカが『…は?』と呆気にとられた顔になった。『その手の修羅場にも慣れてる』とは、どういう意味なのか。
戸惑いながらも、マリアンに付き添われ町へと戻っていくキリアの姿を見守りつつ、ベルカも二人の後についていった。
またこの時、キリアの頭によぎるものがあった。黒尽くめの格好をし、自らの姿を人の視線から隠し、他人との関わりを避けようとしていた女性。
その、以前会ったことがあるフィという女性は、一人だった。美しいけれど、強いけれど、とても孤独そうだった。辛そうだった。
もし、そんなことが可能なのであれば、自分がフィの力になりたいともキリアは心のどこかで思っていた。それが今、はっきりとした思考になりつつあったのだった。




