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侵略者  作者: 京衛武百十
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転室

『もしこれからも林に遊びに行くのなら、今日からそこがお前の部屋だ!』


父親にそう言われた時、キリアの中で何かがカチリと切り替わる感じがした。


これまでずっと横暴な父親の理不尽に耐えてきて大人しく振る舞っていた結果がこれか?


具体的にそう考えていた訳ではないが、この時のキリアの心情を表すならこういうことだっただろう。


「分かりました……」


父親とは目を合わさずそう応えたキリアは、自分の部屋から勉強道具や服や大好きな図鑑などを運び出し、庭に設置された犬小屋に運び込んだ。ここを自分の部屋にすることで林に行くことを許してもらえるなら安いものだとさえ思ったのかもしれない。


そこは、元の部屋と比べればはるかに狭かったが、必要最小限のものを置くだけならなんとかなった。むしろすべてが手の届く範囲に置けるだけ便利になったかもしれない。流しやトイレや風呂は家のものを使うしかないのでいちいち出入りするのは面倒だったが、それも、こういうものだと思えば後は慣れかもしれない。


一方、まさか娘が本当に自分から犬小屋に移ると思っていなかった父親は、泣いて詫びてくる姿を期待していただけに当てが外れて不満顔だった。


「ちっ! 見た目どおりの可愛げのないガキだ……」


窓から見える、娘がいる犬小屋を見ながら父親は吐き捨てるように言った。どうすればあの生意気な娘を泣いて自分の前にひれ伏せさせられるかとそんなことを考えていた。


父親がそんなことを考えてるとも知らず、キリアは犬小屋に、父親がキャンプ用に買ったものの『林など雑菌だらけだ』と言うくらいなだけにキャンプ用品が一通り揃ってるというポーズをしたかっただけで一度も使ったことのないランタンを持ち込んでそこで宿題をして図鑑を眺めて、やはり新品のままガレージに仕舞い込まれたままだった寝袋にくるまってそこで寝た。食事は、まるで犬の餌のようにワンプレートに乱雑に盛り付けられたものをキッチンから持ってきて食べた。


普通なら近所の人間に知られて通報されるところだったが、犬小屋を設置したのが母屋とガレージと生垣でちょうど周囲から死角になる位置だった為に、近所の人間は誰もキリアが犬小屋に住んでいることに気付かなかった。


キリアも、誰にもそのことを話さなかった。どうせ話しても無駄だと諦めていたし、犬小屋に住むことで林に行くのを許してもらっているという交換条件と認識していたからだろう。


そしてそんな状態が一週間続き、林の中で生き物を観察していたキリアの前に、それは現れたのだった。



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