犬小屋
ブロブを見てみたくて林に足を踏み入れたキリアだったが、ブロブによる被害はずっと出ていないという事実でも分かる通り、この町の周囲には滅多にブロブは現れなかった。以前、フィと出会った時にブロブが現れたのは、その<滅多にないこと>が起こっただけである。
とは言え、可能性は低くてもゼロではない。だから彼女は、町の塀が見えるギリギリの辺りまで踏み込んでブロブの姿を探してみた。
が、さすがにそうそう都合の良いことは起こらない。ブロブの気配すらない林の中を歩いていたキリアは、しかし楽しそうだった。ブロブはいないが、ヘビやトカゲの姿を何度も見かけたからだ。しかも、町の中の公園などでは見たことのない種類のものだった。
町のすぐ近くには強い毒を持ったヘビやトカゲはいない。植物やキノコ類には強い毒を持ったものもいるが、食べたり触れたりしなければそれも大して問題はない。
こうして林の中で生き物に触れたキリアは、水槽や容器にヘビやトカゲを閉じ込めて飼っていることに罪悪感を感じてしまったのだった。あまり窮屈にならないように気を遣ったつもりだったが、それでも林の中で自由に生きている生き物達を見てしまうと何かが違うとも感じてしまった。人工的に整備された町の中の公園では感じなかったそれが、ここにはあった。
翌日、キリアは廃プレハブの中で飼っていたヘビやトカゲ達を放してやることにした。こんなところに閉じ込めておかなくても、林の中に入ればもっと活き活きした姿を見ることができる。もうそれで十分だと思った。
しかし……
「キリア! お前、塀の外に遊びに行ってるそうだな? なんでそんな不潔なことをする!? あんな雑菌だらけのところに行くようなら、もう家には入れられないぞ! 犬小屋を買ってやるからそこで寝ろ!!」
たまたまキリアが塀の外へ遊びに行くのを見かけた人間が彼女の父親にそれを告げて、バレてしまったのである。
父親はなおも言った。
「そんな醜い姿だから、不潔なことも平気でできるんだな。中等部を卒業次第、手術を受けろ! その頃には成長も止まっているだろう」
体の成長が止まって安定したら美容整形を受けろと言っているのだ。父親の隣では、母親も『至極当然』と言いたげに何度も頷いていた。
そして父親は本当に、子供なら十分に中で寝られそうな大きさの犬小屋を買って庭に設置してしまったのだった。
「もしこれからも林に遊びに行くのなら、今日からそこがお前の部屋だ!」




